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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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女子力のない私と口数の多い幽霊

16/08/01 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:10件 クナリ 閲覧数:1456

時空モノガタリからの選評

登場人物たちの不器用な優しさが交錯し、立体的な世界観が描きだされていると思います。この作品を読んでいて改めて感じたのですが、クナリさん作品の登場人物はどこか中性的な感じがしますね。女子からは少年のような逞しさ、少年はどこか女性的なやさしさ、繊細さのようなものを持ち合わせ、作品の印が強まっているのではないかと改めて感じました。テーマの扱い方もうまく、読後感が爽やかです。

時空モノガタリK

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 高校二年生にして、私は霊にとり憑かれてしまった。
 私の斜め上辺りに浮いたり消えたりする霊の名前は、ユウヤといった。先月死んだばかりで享年は十四歳だと言う。
「ヨーコさんの部屋、物少ないね」
 うるさい。
「俺の姉ちゃんのが百倍女子力あるな」
 黙れ。
 私が男子バスケ部のマネージャにいそしんでいる間は、構ってもらえないせいでユウヤは姿を消したりする。
 お陰で、私がキャプテンの高岡先輩に見とれたり、その彼女である喜多嶋先輩に複雑な視線を送ってしまうところは、見られずに済んでいた。あの口数の多い幽霊に、何を言われるか分からない。
 喜多嶋先輩は、私などより遥かに可愛い。彼女はバスケ部とは関わりがないのだが、いつも部活後に高岡先輩と一緒に帰るので顔なじみだった。ただ一人のマネージャである私を気遣い、手伝おうかと言いだされたこともあるが、つい断ってしまった。
 改めて思う。情けない。

 喜多嶋先輩がタバコを吸っているという噂が聞こえて来たのは、夏の初めだった。
 いわく、一日にひと箱開ける。いわく、赤マルを好んでおられる。いわく、猫にタバコの火を押し付けていた。いわく、いわく。
 噂は、女子の一部にのみ広がっているようで、男子達は蚊帳の外だった。幸い、そう幸い、高岡先輩の耳には届いていないようだった。
 部活が終わり、自分の部屋でベッドに寝転んでいると、ユウヤがやおら天井から生えて半眼で言って来た。
「あんたの彼女は猫いじめてるような人間ですよ、って高岡って人に言うの? その人の彼氏なんでしょ?」
「どこで聞いて来たのよ。根も葉もない噂でしょ」
「噂じゃないよ。少なくとも、赤マル吸ってんのと、猫にタバコはホント。毛焦がしただけだけど」
 目の前が、かくんと揺れた。
「何で……あんたがそんなこと知ってるのよ」
「見たから」
「覗きじゃない」
 思わず頭を抱えた。私はこいつの保護者でも何でもないのだが、それでも罪悪感を抱く。
「待って。あんたよく高岡先輩の名前なんて……」
「あー……ヨーコさんが好きな人だよね」
「なぜそれを」
「前に部活中のヨーコさん見てたら何となくそうかなーと。何か悪いから知らんぷりしようと思ってたんだけど。てへ」
 私は赤面を自覚しつつ、胸中で、何がてへだこんにゃろうと怪獣のような悲鳴を上げた。

「びっくりした。ヨーコちゃんがうちに来るなんて」
「すみません、いきなり。お邪魔します、喜多嶋先輩」
 桐箪笥と仏壇とふすまに囲まれた和室で、喜多嶋先輩がお茶を出してくれた。
「単刀直入に言います。私、誰にも言いません。だから、生き物に可哀想なことはやめて下さい。まだ、怪我とかさせたわけじゃないようですし」
 喜多嶋先輩が、びくりと硬直した。みるみるうちに泣きそうになる。
「高岡君には……」
「言ってませんし、今日限り私も忘れます」
「私……」
「喜多嶋先輩には先輩なりの理由があったんでしょう。今日お会いして、それが分かった気がします。責めたり咎めたりする権利なんて、私にはありませんし」
「どうして。ヨーコちゃん、高岡君のこと」
 オウ、と心で呻いた。私が、そんなに分かりやすいとは。
「確かに、高岡先輩には好感を抱いています。でも」
「でも?」
「喜多嶋先輩のことも、割と好きってだけですよ」
 マネージャの仕事は、きつい割には人から気にかけられ辛い。
 思いがけずねぎらわれた時、私がどんなに嬉しかったかなんて、言葉では上手く伝えられやしない。

 帰り道、ユウヤはふらふらと浮きながら話しかけて来た。
「ヨーコさんにばれちゃったねえ」
「あんたと喜多嶋先輩に、何かあるとは思ったのよ。あの仏壇の写真、あんたよね」
「何で、何かあると思ったの?」
「大した根拠じゃないけど。お調子者のくせに、人の不毛な恋愛事情を知ってもからかおうとはしない奴が、わざわざ無関係の女子のプライベートを覗き見したあげく私に吹聴するのは、ちょっと不自然だっただけ」
 弟を失った苦しみと悲しみが喜多嶋先輩を愚行に走らせたなら、それを裁けるほど私は偉くない。
 彼女は誰にも責められずとも、一人で充分苦しむだろう。でもそれを、支えてくれる人はいる。優しくて頼れる、高岡キャプテンが。
 鼻の奥が痛くなった。何やってんだろう、私。
「ごめんね、ヨ−コさん」
「いいよ。お姉さんを止めたかったんでしょ」
「俺、死んで気付いたらヨーコさんに憑いてたんだけど」
「うん」
「何でヨーコさんなのか、分かったような気がする」
「分からなくていいからどっか行っててよ」
「泣くの?」
「だったら?」
「俺の胸で泣きなよ」
 透けてるじゃねえか。

 夕闇が濃くなった。
 何か、下らない話をしながら帰ろう。
 こんな日の話し相手には、口数の多い幽霊くらいがちょうどいい。


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このストーリーに関するコメント

16/08/10 上村夏樹

ヨーコさんがとてもいい子で、すごく健気で、私がユウヤくんでも「俺の胸で泣きなよ」って言いたくなっちゃいます! 透けてるじゃねぇかってツッコミも好きです(笑)

また、2000字でこれほど濃いストーリーを楽しめたのは、ひとえに作者さんの文章の成せる業だと思います。無駄もないですし、伏線もきっちり張ってありましたし。
一番すごいと感じたのは喜多嶋先輩が単純にヒドい奴じゃなくて、ヒドいことをするだけの背景がきちんと描かれており、責めたり憎んだりできない人物になっていることです。計算されているなぁと思いました。

いろいろと申し上げましたが、とても面白かったです!

16/08/11 クナリ

上村夏樹さん>
ありがとうございます。
キャラクタを全面に出したくて書いた話だったので、そこが評価していただけて嬉しいです。
2000字でどこまで詰め込めるかというのは毎回頑張っているところなので、その上で読みやすくするために四苦八苦していますが、楽しんでいただけると報われます。
コメント、ありがとうございました!

16/08/11 あずみの白馬

各キャラクターがしっかり立っているのがいいです。
なぜそのキャラクターはそこにいるのか。読み終わるとそれがしっかりと伝わってきて、一つの世界が作られていく……、この作品最大の見所だと思います。
ヨーコちゃんがすごくいい娘でよかったです。ユウヤくんもかっこいい面を見せていて素敵でした。読後感もよかったです。
取り留めのない感想で失礼いたしました。

16/08/12 クナリ

あずみの白馬さん>
ストーリーの構成よりもキャラクタを全面に出した作品の場合、それぞれのキャラクタに魅力や存在感を持ってもらいたいというのはもちろんあるのですが、同時に「なぜその人でなくてはならないのか」という必然性を表したいとも思うのです。
他の誰かでは成り立たない物語を発表したいと言いますか。
それが上手くいっていたら嬉しいです。
コメント、ありがとうございます!

16/08/13 守谷一郎

面白かったです〜。最後にユウヤは成仏したのかしてないのか、姉を止めてもユウヤがまだ成仏してないとしたらユウヤにはこの世にいる理由や未練がまだあったりするんだろうか、とか。ヨーコとユウヤ、登場人物たちのこの先を思わず想像してしまう魅力ある作品でした!

16/08/15 クナリ

守谷一郎さん>
なかなか幽霊の成仏システムには乗れていない感じなので、まだ何かあるのかもしれませんね〜。
キャラクタを全面に押し出すことを心がけた作品なので、大変嬉しいコメント、ありがとうございました!

16/08/20 クナリ

海月漂さん>
キャラクタを強調した作品て、じぶんのばあいストーリーを重視した作品よりも文字数を圧迫しやすいようで、なかなか大変なのですがそう言っていただけると報われます!
彼にはもうちょい現世で楽しい思いをして欲しいので、まだ成仏しませんッ。

16/08/22 奈尚

作品拝見しました。
少年の幽霊と、ヨーコさんの恋物語がどのように結びつくのかと思ったら……!
よく練られた展開と、綺麗な物語に思わずうっとりとしてしまいました。
とりわけ、最後の夕陽のシーンが素敵で、「透けてるじゃねえか」の台詞がお気に入りです。
素晴らしい作品をありがとうございました。

16/08/26 クナリ

奈尚さん>
集束の仕方がミステリ風というか、伏線をラストに繋げる形だったので、書いている方も収まりがよく書けました。
キャラクタの掛け合いは文字数を使うので、それだけの効果として楽しんでいただけていれば嬉しいです。
コメント、ありがとうございました!

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