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リアルコバさん

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君といた夏は・・・

16/08/01 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:882

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あの年の夏、受験を控えた僕は予備校の夏期講習に悶々としていた。
(今年だけ、今年だけ我慢すればバラ色の学生生活が・・・)
里見恭子に出会ったのは、八月の最初の月曜日だった。

(あれ?あんな娘いたかなぁ・・・)
それはいかにも理系っぽい知的で芯の強そうな鼻筋、今まであまり接点のないタイプに大人の女性を感じたものだ。
『ねぇ同じクラスだよねぇ、俺、立花義彦、君は?』
驚きもせず擡げた瞳が人形のように僕を見据えた。
『里見恭子・・・』
名前だけ呟き興味なさそうに視線は落ちた。
『シケてるよな、夏だっていうのに予備校なんて馬鹿らしいけど・・・しかたないか』
俯きながらクスッっと笑ったように見えた。
(うん、なんか楽しみができた気がする・・・)

翌日の帰り、彼女はやはりホールの隅に立っていた。
『よっ恭子チャン、クラス違ってたみたいだね・・・』
彼女は殆ど喋ることをしなかったが、たまに見せる笑顔がチャーミングだった。一方的に喋って、暗くなったので駅まで送ると誘うと頷いて着いてきた。

『おいおい早速ナンパですか』
改札で彼女を見送ると友人のユウイチが冷やかすように肩を叩いた。
『結構イケてねぇ?』
『で、どうすんのユウコちゃんは?ケジメだけは付けとけよ』
冷戦状態の本命彼女の事を云われ、少し重たい気分にもなった。
(まぁいいか、受験も恋愛も滑り止めは必要ってか・・・)

その日から陽の暮れた駅まで5分の道程を肩を並べて歩いていた。
『よっ久しぶり、なんか昼間は恭子チャンを見ないから一日が長くてさ・・・』
クスッと肩を窄める仕草はやはり可愛らしかった。
『明日さ、花火大会ふたりで見に行かないか?どう?』

土曜日の夕方、酷く西日が照りつける中、僕は駅前広場で30分も待たされていた。
『立花くん』
それはまるで沈みかけの陽射しの中から透けて出てきたように、白地に大ぶりの朝顔をあしらった浴衣姿で里見恭子が目の前に現れた。
『遅いよ・・・』『ごめんなさい』
クスッっと笑われると僕の苛立ちは消えてしまった。薄暮の風に右肩で軽く縛った髪を揺らして歩く姿は、やたらと大人びて見えた。
《ド〜ン》一発目の花火の極彩色が彼女の顔を染めた。

相変わらず僕は一方的に喋り、屋台を覗き金魚掬いを冷やかし、途中何人かの友人に会っては彼女を紹介した。
『おい大丈夫か?こんなとこユウコちゃんに知れたら大変だぞ・・・』
そんなお節介を耳打ちされる事すら心地よい、僕は本当に恋をしていた気がする。

人混みの本会場を避け、少し離れた小学校のグラウンドに忍び込みブランコに乗りながら彩られる夜空を眺めた。まるで初めて見る少女ような瞳に花火が写り込む。僕はブランコを揺らし、彼女の顔とうなじに延びる後れ毛を交互に見ていた。
『キレイ・・・』
最後のスターマインの連発の中、尺玉3発が彼女の呟きをかき消した。
終焉の歓声と拍手、火薬の匂いの交じる風、色を失った彼女の顔を覗き込み、僕はそっと唇を重ねた。坑がう様に固く閉ざされた唇が動くと彼女はギュッと僕の唇を噛んだ。痛みで唇を離すと舌先に血の味がした。
クスッと例の笑顔を見せて差し伸べられた手は冷たく乾いていた。僕は自分の手の平を拭いもう一度繋ぎ直して駅まで一緒に歩いた。

月曜日、激しい夕立が降っていた。彼女の姿は見当たらない。ユウイチがやってきた。
『よぉどうして一昨日来なかったんだよ、折角ユウコちゃんとヨリを戻せるチャンスをセットしてたのに』
『あぁほら例の彼女とさ・・・今日まだ見てないんだけど知らないか?』
『?例の彼女?お前いつの間に・・・』
『ほらこないだ駅で会ったじゃん・・・』
数日前の事をどう説明しても思い出してもらえず、僕は憤慨して事務センターへ向かった。
『里見恭子さんはどのクラスですか?』


もう10年も前の話である。でもあの唇の痛みと血の味をまだ鮮明に覚えてる。
横ではユウコが明日の披露宴を前に幸せそうに寝息を立てている。


『里見恭子さんね・・・サトミ・・・サ・・・えっ里見恭子・・・そう今年は貴方だったのね、忘れなさい』
事務センターのハイミスは驚いたようにそして冷たく言い放った。
『どうしたんですか、教えてくださいよ』
粘る僕に、何十年か前にこの予備校の学生が自殺したこと、その名前が里見恭子であること、毎年ひとり、こうして彼女の名を聞きに来る学生がいることを語った。
『でも大丈夫、里美さんと会った人は全員第一志望に合格してるの、そして出世して幸せに・・・まぁ都市伝説みたいなものだけどね』

君といた夏・・・里見恭子を知る友人はひとりも居なかった。
窓の外、遠くで何処かの花火が弾けた。
僕の記憶もその時、弾けて飛んだ。



















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