1. トップページ
  2. コンビニの女

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの作品

0

コンビニの女

12/09/27 コンテスト(テーマ):【 コンビニ 】 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1604

この作品を評価する

 大学に合格してからバイトの時間を深夜帯に変更してもらった。
 どちらかと言うと夜行性の寛大は、バイト代はあがるし遅刻の心配はなくなるし一石二鳥と満足して、今夜もバイトに精を出している。

 深夜0時の品出しの時に、その女性客に気がついた。
 雑誌コーナーにずっと立って、見るともなく手に持った雑誌をぱらぱらとめくっている。
 駐車場に車が入りヘッドライトの明かりが店に差し込むたび、女性客は顔を上げ車を確認し、軽くため息をつくと顔を伏せた。

 寛大が品出しを終えてレジに入った時、女性客が携帯を片手に店を出て行くのに気付いた。
「はい、すぐ行きます」
 彼女はそれだけを携帯に向かって話すと、小走りに一台の車に近づいて行った。
 黒塗りの大型セダン。待ち合わせだったらしい。
「ありがとうございましたー」
 寛大はマニュアル通りの言葉を口にして、そのままそのことは忘れてしまっていた。

 そんなことがあったと思い出したのは次の週、外周掃除を終えて店に入ろうとした時、またその女性が携帯片手に店から出てくるところに居合わせた時だった。
 晴れやかな顔で黒のセダンに駆け寄る彼女。
 ヒラヒラと花のように舞うスカートの桃色が、彼女の胸中を物語っているようだ、と寛大は振り返り、彼女を見送った。
「ありがとうございましたー」
 助手席のドアを開け、車に乗り込んだ彼女がドアを閉めるよりも早く、セダンは発車した。彼女が慌ててドアをしめる。
 寛大が運転席を見やると、運転しているのは、でっぷりと太って額の禿げ上がったオヤジだった。彼女とは親子ほども、いやもしかしたら、祖父と孫ほども年が離れているだろう。
 去って行くテールランプを見つめたまま、寛大はなんとも釈然としない気持ちを味わっていた。

 また今日も、彼女は雑誌コーナーに立っている。ちらちらと駐車場を気にしながら雑誌を見るともなくめくっている。
 寛大はゴミ箱からゴミ袋を引っ張り出しながら、ガラスの向こうの彼女を見ていた。彼女は寛大のことなど気にも留めていない。いや、たぶん、何も見えていないのだろう。手に持った雑誌さえ。
 突然、彼女が雑誌をバタンと閉じて棚に戻し、携帯を手に取った。そのまま駐車場を見渡す。
 思わず寛大も駐車場を振り返る。今夜はめずらしく、一台も車が入っていない。彼女が待つ黒のセダンの影もない。

「はい、…はい。そうですか…。わかりました」

 背後から彼女の声が聞こえ、寛大は店の出入り口に顔を向ける。
 携帯に向かって話しながら彼女は店から出てきた。携帯を閉じた彼女は、足を止め、地面を見つめている。いや、たぶん、何も見えていないのだろう。見たくないのだろう。待ち焦がれた黒のセダン以外のものなんて。
 電話一つで便利に呼び出され、電話一つで放り出される女。寛大は釈然としない思いが、怒りと嫉妬であることに気付いた。

 女はしばらく同じ姿勢で立ち尽くしていたが、肩にかけたバッグの中に携帯をしまうと、下を向いたまま歩き出した。

「あの!!」

 寛大はビックリして一歩退いた。
 声をかけるつもりなどなかった。思わず声がでた。
 彼女が怪訝な顔で寛大を振り返る。
 口をパクパクしてみても、寛大は彼女にかける言葉が見つけられない。

「あの…あの……」

 怪訝な表情で、しかし彼女は、しっかりと、寛大の目を見つめている。

「あ、ありがとうございました…」

 寛大はマニュアル通りの言葉を口にした。彼女は、ふと、口の端を歪めると、軽く会釈して歩き去った。
 暗い道をどこへとも知れず歩いて行く後姿を、寛大は見つめ続けた。

 それ以後、その女の姿を、ついぞ見かけない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン