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Fujikiさん

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ありがとう大作戦

16/08/01 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 Fujiki 閲覧数:936

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 霊感があって得することは、ほとんどありません。血まみれで体の一部が欠損している幽霊は見ていて気持ちのいいものではないですし、トイレや浴室に幽霊がいると虚ろな視線が気になって服を脱ぐのにも落ち着きません。特にこの島では先の戦争で熾烈な地上戦があったせいで、幽霊の人口過密が深刻です。総死者数二十四万余、島民だけでも当時の人口の四分の一が死んだわけですから、文字通り石を投げれば幽霊に当たります。
 もちろん除霊の手段がないわけではないのです。幽霊とは残留思念の一種であり、人が死ぬ時に残した恨みや絶望が現世に留まっている状態です。そのため幽霊になる者は自分の死について納得しておらず、この世に強い未練を抱いています。そこで、彼らの無意味で不条理な最期にポジティヴな意味を与えてやることにより、幽霊が死を受け入れて昇天できるようにするのです。ユタと呼ばれる霊媒の一人として、私は個々の霊の話を聞いて昇天を手伝ってきました。手探りの部分が多く、手間暇のかかる作業です。私の所属するユタの職能団体では、各種行政機関に除霊ガイドラインの策定と普及を求めてきました。
 その要求がついに聞き入れられたようです。戦没者慰霊式において、政府高官が画期的な方針転換を表明しました。
「我々はこれまで戦没者が被った苦痛や災禍を慰める一方で、彼らに対する感謝の念を十分に表してきませんでした。多数の死者たちが幽霊となって現在にいたるまで成仏できずにいるのは、我々が彼らの思いを汲み取ってこなかったことの証左であります。
 彼らがかけがえのない命を捧げて守ろうとしたものは何でしょうか? それは愛する家族や子どもたちの未来に他なりません。この国の今日の平和と繁栄は彼らの尊い犠牲の上に成り立っています。その事実をしっかりと見据え、先人たちが誇れるような国づくりを進めていくことは我々全員にとっての責務であります。
 慰霊から感謝へ。過去の苦しみから未来の希望へ。未来志向の平和祈念に向けて舵を切る時代がやって来たのです」
 政府の新しい方針に従い、毎年六月の慰霊の日は感謝の日に改名され、戦没者慰霊式は戦没者感謝祭になりました。学校では国のために活躍した英雄たちや銃後の努力の輝かしい歴史を教え、子どもたちが感謝の念を忘れないようにしました。さらに、先人たちが命に代えて守ってくれた国を未来の世代に確実に引き継いでいくために、軍備の拡大と同盟国との連携を進めました。私たちユタには、幽霊となった死者たちに国民の感謝の気持ちを伝言するという特別な任務が与えられました。通称「ありがとう大作戦」です。
 ありがとう大作戦の効果はてきめんでした。食糧が十分に割り当てられることなく餓死した若い兵卒の霊には、現代は豊かな飽食の時代になったと教えてあげました。言葉が通じずにスパイ容疑をかけられて銃殺された島民の霊には、今ではほとんどの人が島の言葉を忘れて美しい国語を話せるようになったことを伝えました。生きて虜囚の辱めを受けずと教えられて手榴弾で自ら木っ端みじんに爆死した一家の霊には、これからも家族愛という基本的価値観を継承していくことを約束しました。今日の繁栄のために捧げられた命に対して「ありがとうございます」と丁重に礼を述べると、幽霊たちは白い光に包まれて消えていきました。自分たちの死が無駄死にではなかったと知り、さぞ幸福な気持ちで昇天できたことでしょう。
 いつしか戦時下の混沌と不条理の記憶は風化していき、愛する家族と国の未来を守るために自らの命を賭して敵を殺すことこそが美徳であると考える島民が多くなりました。そんな折に第三次世界大戦が勃発し、軍事拠点が集中するこの島は再び激しい戦地になりました。敵軍が上陸すると、軍人・民間人の区別に関係なく多数の死傷者が出ました。かく言う私も焼夷弾の油をかぶり、黒焦げになるまでのたうち回って死にました。見るも無残な幽霊がいたる所に溢れ返りましたが、ありがとう大作戦によって先の戦争の霊を一掃しておいたのが幸いし、ぎゅうぎゅう詰めにはならずに済みました。
 何もかも破壊し尽くされた後、戦争の終結が決定しました。政府の代表者がヘリコプターで焼け野原に降り立ち、テレビカメラの見守る中でスピーチを行いました。
「国境の島は、国家防衛の最前線となる宿命を常に背負っています。この島は甚大なる戦禍に見舞われましたが、島の犠牲は本土決戦を回避し、多くの国民をさらなる戦災から守るという尊い貢献を果たしました。我々は皆、今回の戦争で身を尽くして軍の活躍を支えた島民に感謝しなければなりません。彼らは一人残らず、国の平和のために見事に散った誇り高き英雄なのです。私もここに心からのお礼を申し上げます。ありがとうございます」
 私にも昇天の時が来たようです。白くて美しい光が見えてきました。


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