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リアルコバさん

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応援団

16/07/31 コンテスト(テーマ):第85回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:720

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「県立東山代高等学校〜校歌〜斉唱〜」

地方都市のそのまた地方 進学率も高ければ不良たちも共存する伝統の男子校だ。
ひと時男女共学を実行したらしいが、動物園の檻に娘を入れる親などいない。結局はそのまま事実上の男子校となっている。


一回の表、我が校の攻撃が始まった。吹奏楽部の有志が鳴り物を鳴らす。
「それ〜ぇ」
スタンドは学生より父兄OBの数方が多い位だ。今時母校愛などないのだろう。
「それ〜ぇ」
我が東山代高校が(バンカラの東山)と呼ばれたのも今は昔。
「フレ〜〜フレ〜〜 トウヤマッ フレッフレットウヤマフレッフレットウヤマソリャ〜〜〜ぁ」
そんな校風は薄れ我等応援団も、俺を含め3年が4人2年が1人間違いなく廃部の危機である。
「其では城南学院の健闘を祈り〜エールを贈る〜」
それは時代というものか。敵も応援団ではなくチアリーディングの時代だ。
「フレッフレッ城南〜」
既に一回の表の攻撃は終っていた。

今日の試合は準決勝戦。我が校18年ぶりの快挙だ。
相手は部員75名の県下有数の甲子園常連校、こちらは部員17名、今大会の台風の目となった。

『ウワァー』
歓声と共にブルーのユニホームが二人、ホームを駆け抜けた。
紅白のポンポンが揺れる三塁側スタンドはお祭り騒ぎだ。
「江口水っ」
「押忍」

唯一の2年 江口義隆は律儀な男である。東大は確実という偏差値を持ちながら応援団を志望してきた。俺はこの男に来年の団長をと・・・それも夢となるのだろう。

バケツから柄杓で掬った水を口に含む。
「水沢ファイト〜行きます」
水沢信二はエースで4番。小学生の頃はバッテリーを組んでいた俺の幼馴染みである。
「ファイトォ〜」《ドン》「ミ・ズ・サ・ワ」「ファイトォ〜」《ドン》「ミ・ズ・サ・ワ」
短い檄を飛ばし振り向くとマウンドで汗を拭う奴と眼があった。あいつとは大抵のことは眼で話ができる。

俺は胸を大きく張り、白手袋の手を青空に伸ばしてから素早く後に組んだ。
真っ青な空には白銀の太陽がグラウンドを容赦なく照りつける。
汗は滝のように流れスタンドが陽炎で歪む 。

2点で凌いだ我が校のユニホームが全力で一塁側ベンチへ走る。
「大団旗掲ぇ〜」
団旗持ちは田辺淳夫、根っからのバンカラ応援団である。巨体と体力を買われ1年の時から団旗を任された逸材だ。
「押〜忍」
重さ38キロの伝統の大団旗がスタンド後列に揚がる。
「応援歌一番〜」
《ドン》
大太鼓は大畑勇。吹奏楽部の彼を無理矢理応援団に入れたのは俺だ。
「三三七拍子〜」
《ドンドンドン ドンドンドン ドンドンドンドンドンドンドン》
淡白な攻撃は直ぐに終りまた城南の長い攻撃が繰り返された。


「おっ0−2、粘ってるじゃないか」
徐々にスタンドに学生が増えてきた。
今日から始まった夏期講習の午前ガイダンスを受けてきた連中だろう。
副長の剣崎圭介が座席を指定し少しでも応援の声が纏まるように配置する。
剣崎は怪我で野球を諦めた者だ。

3回、3塁まで走者を勧められたが水沢は凌いだ。
この大会、たったひとりでここまで駆け上がったと言っても過言ではない。
陽炎の立つマウンドで 既に顎から汗は滴り落ちている。

『ファイトー 東山〜』
少しずつ増えてきた白いワイシャツ姿に向かい、伝統の学ラン姿の3人は、全身全霊声を張り上げる。学ランの中で汗はもうなくなり 干からびていく肌が熱を帯びる。
『ソリャ〜〜〜ァ』
黒の革靴がスタンドのコンクリートを蹴る。目の前が歪む。
しかしグラウンドにあいつらがいる限り、水沢が投げ続ける限り、俺達はグラつくこともフラつくことも絶対にあってはならない。

そう、俺達は《応援団》であるからだ。

5回裏、連打で1点を失い3対0だ。
「江口水掛けろ」
「押忍」
バケツの水を学ランの上から浴びる。
「こっちも頼む」
団旗と一体化した田辺の静かな太い声にバケツの水がキラキラ光ながら舞った。

6回 ショート河合のファインプレーでまたなんとか0点に抑えた。

《ドン》
「応援歌第三〜力の限り〜」
《ドン》
「全員ご起立願います」
剣崎が促し、江口が歌詞カードを配りに走る。
伝統のラッキーセブン応援だが《力の限り》を歌える学生はもう少ない。

トランペットの音を背に左手をグランドに伸ばし右手の拳で突きを繰り返す。
(頼む打ってくれ)
過去2年 この力の限りを歌い終わる前に攻撃が終っている。
《キーン》
快音は歓声に掻き消されたが、白球はセンター前に転がった。
「それ〜っ」
一瞬コンバットマーチに変更しようかと思ったが応援歌を続行した。
《コツ》
山田のバントは絶妙だった。 一塁クロスプレー、土煙が舞い審判の手が広がる。
純白のユニホームに染みた土の勲章を拳で叩く。
「我々は〜力の限り〜この戦いに〜勝利する事を〜・・・」
ムッとする熱気のなかに俺の声はこだまして、 一塁側スタンドが今確実にひとつになった。

城南の先発の背番号10をマウンドから下ろし、エースナンバーがマウンドで投球練習を始めた。
『フレ〜ッ フレ〜っ ト・ウ・ヤ・マ ソリャ〜〜〜』
《ガッ》
ぼてぼてのゴロをエースが捌きダブルプレー、そして三球三振で締められた。

その裏、明らかに疲れの見えた水沢から 駄目押しとも言える2点が、グラウンドの中を走っていった。

8回表、クリーンナップの登場だ。3番の瀬川は今日も無安打。ネクストサークルに控える水沢が天を仰ぎ歯を食いしばった。
『カッ飛ばせ〜瀬川』
『カッセ瀬川 カッセ瀬川』
11球粘って執念の四球を選んだ

『コンバットマ〜チ』
スタンドの学生がスクラムを組む
俺たち三人は、水沢に拳を向けて突きを送り続ける。
(打て水沢)
バットが回り、白球と歓声が青空に溶け込んでライトスタンドの芝で跳ねた。
『ウォォォォォ』
何を叫んだか覚えてはいない。ただ過去に教えられた伝統《ホームランダッシュ》
スタンドの階段を最上段まで駆け上がりそして駆け下りた。
全員が立ち上がり狂喜乱舞の中、古ぼけた応援団旗だけが凛として掲げられている。


9回表、逆転劇を演出してくれるほど、勝利の女神は甘くはない。


団旗が下段にされて田辺の膝がガクガクと震える。
俺たち団員は後ろ手に組み低頭の姿勢で相手の校歌を聞いていた。
江口がしゃくりあげている。
俺の足下にもいくつもの感情がコンクリートにシミを作っている。
校歌の後、三塁側が歓喜の歓声に包まれる。

俺はゆっくり振り返り最後の声を張上げた。
「城南学院の勝利を称え〜決勝戦での〜健闘を〜祈願し〜エールを贈る〜」
《ドン》
「全員起立っ」
剣崎の声が裏返る。
《ドン》
大畑の顔もくしゃくしゃだ
《ドン》
田辺が歯を食い縛り暑さと疲労に顔が歪ませながら、団旗を再び上段に掲げる。

「このエール、江口お前がやれ」
「押忍」
伝統の型《勝者へ送る》だ。
「フレ〜フレ〜城南」
力強く白手袋が灼熱の中に舞う。
(良い型だ)
俺は肩幅に開いたままの足で回れ右してグランドを向いた。

グランドに整列した水口が泪を拭いて笑う。
(よくぞやった。強豪相手に5失点完投はナイスピッチ。そして8回表のツーランホーマーは最高だった。ありがとう水口。)
『フレッフレッ城南フレッフレッ城南』
三塁側から拍手が湧き起こる。

カンカン照りの太陽の中、俺達の夏が終わった。
『フレ〜フレ〜フレ〜ッ ト・ウ・ヤ・マ』






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