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isocoさん

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脱皮のあと、煙

12/09/26 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:0件 isoco 閲覧数:1786

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 右も左も真っ暗なので、あぐらをかいて深呼吸。
 何度まばたきしても、星ひとつ見えない。
 そうこうしているうちに耳から秋が入りこんできた。
 しがみつくようによじ昇ってきては、
 両耳から入りこんできた。
 いつ会っても人懐っこい。
 こうなってしまえば、
 鼻先で香るのは濃厚な闇ではなく、
 真っ赤な秋。
 背中を見せている方はそれでもまだ闇で、
 そちらから鈴虫の声が透明に点滅した。
 その声に涼しさを感じはじめれば、
 あぐらの足を組み直したりして、
 私はどうしてここでこうしているのか、
 忘れる。
 星が一個、また一個、
 勿体ぶるように夜空に浮かびはじめる。
 しまいに夜空がきちんと完成すると、
 一気にホームが明るくなった。
 電灯も拍手をするように点灯する。
 古い電球は跳ねるように全体へ飛んでいく。
 明かりは真っ白に私まで伸びてきて、
 せっかく肌に馴染みだした秋を、
 あちこちに存在している田園までおいやった。
 耳から飛び出す秋は、
 私から離れることが少しだけ嬉しそう。
 いまとなっては田んぼの上で手を振っている。こっちは夜なのに、
 そこだけ何故だか青空。
 追いかけるように手を伸ばしてみても、
 ホームの光を手にいれた鈴虫の音が、
 液体になって指に絡まるばかり。
 手の隙間から滴り落ちる音と一緒に、
 戻ってこないものを愛しく思いつつ、
 下を向いていれば、隣でなにかが相槌を打つ。
 踏切に設置された警告ランプ。
 赤と黒を繰りかえし、
 もうすぐやってくる列車を告知していた。
 告知が止まったときには風が起こることを予測して、
 予測通りになった瞬間、
 冬が風と共に停車した。
 降車してくる乗客たちはみんな耳を赤くして、
 雪解けの肩をしんみり濡らしながら、
 暖房の熱で薄い湯気を立たせている。
 女の子は頬が真っ赤で、一生懸命に相槌を打つ。
 それが仕事なのだと信じて疑わない。
 長い髪の毛で体の半分を隠し、
 自分より大きなものを見あげ、相槌を打つ。
 電車が通る前の、大人への警告。
 けれども、私だけに笑ってくれた。
 ホームの端っこで小さくなっている私に、
「懐かしい」などと言ってくれた。
 まだまだ小さいくせにと思いつつ、
 私も素直に相槌を打つ、
 発車のアナウンスを聞きながら。
 電車が体のあちこちから風を噴きだし、
 やっとのことで出発すれば、
 女の子はいなくなった列車に、
 無言でお礼を言っていた。
 心の中で、誰にも聞こえないお祈り。まるで雪解けのよう。
 その薄い背中を見て、私も懐かしいと思う。
 そして、
 電車が消えた跡には手を振る秋。
 私に向かって、
 笑いながら言う、
 もう二度とこない。
 女の子は秋に気付かず上を見る。
 分からないことに対して、一生懸命、相槌を打つ。
 だから私と秋だけでする、本当の、さようなら。
 悲しいことに、同じ秋は二度とこない。
 なのにレールは、一秒ごとに錆びる。
 それでも私はあぐらをかいて深呼吸。
 一秒ごとに、思いも錆びるが、
 価値は増す。


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