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つつい つつさん

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一握れない感情

16/07/20 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:1086

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 放課後のひっそりとした教室の中で沢木和哉が机の上に座り、少し腫れて赤くなった左頬をさすっていた。
「智士、あいつなんなんだよ」
「智士の気持ちもわかってやってよ」
 傍に立つ川上薫がやれやれといった顔で和哉を見る。
「でもさ、最初パピプペポになるって言い出したの智士なんだぜ」
「いつの話? 幼稚園の頃じゃない」
 教室の窓からピピィーというホイッスルの音が一際高く響きわたり、和哉と薫はつい、気をとられる。
「和哉、高校はパピプペポの進学コース行くの?」
「当たり前だろ!」と力強く言い切る和哉の真っ直ぐな目を見ていると、薫は智士が和哉を殴りたくなる気持ちも分かるような気がした。幼稚園の頃なら、智士も自分だって和哉と同じように何の疑いもなくパピプペポになりたいって答えただろう。だけど、中学三年生になっても同じことを言える人間はそうはいない。ほんの一握りの優秀な人間だけがなれるもの、それがパピプペポだった。
「薫も受ければいいのに。俺よりよっぽど成績だっていいんだし」と、不思議そうな顔をしている和哉を見てると、智士に「殴ってくれてありがとう」って言いたくなる。
「私には無理だよ」
 和哉が目をギラつかせて薫を睨む。
「薫も、智士も、すぐ無理っていうよな。なんでそんなに簡単に諦められるんだ?」
 薫は窓の外を見つめ答える。
「簡単に言ってるように思う?」。
「……俺には諦める奴の気持ち、わかんないよ」
 教室のドアが開く。不機嫌そうな顔で森田智士がズカズカと入ってくる。
「また、薫に泣きついてんのか?」
 和哉は机から飛び降り、智士の方へ近寄る。薫は呆れて二人の間に割って入る。
「ほんと顔合わせる度、いちゃつくよね。仲良すぎるんだよ、和哉と智士は」
「は?」
「いちゃついてるってなんだよ」
 和哉と智士が同時に声を上げ、顔を見合わす。そして、気まずくなって視線をそらす。
「智士もいい加減、認めたらいいのに。和哉が今更何言われたって諦めないこと、知ってるでしょ」
 智士が顔をそむけたままつぶやく。
「ああ。でも、なんか腹立つんだよ」
「なんだよ、嫉妬してんのか?」と、和哉が智士を挑発すると、智士は拳を固く握り詰め寄ろうとするが、その前に薫が和哉のシャツの胸倉を掴む。
「そう、嫉妬よ。悪い?」
 荒々しい薫の態度に驚き呆然とする和哉と智士に向かって薫はペロっと舌を出す。
「嫉妬されたぐらいでいちいち怒ってたら、パピプペポなんてなれないよ、和哉」
 ふてくされる和哉。
「ほんとは、みんなで目指したいんだ。三人でパピプペポになりたいんだ。薫は俺より頭いいし、体力だったら智士のほうが上だし、だから」
 智士が鼻でフンッと笑うと、軽く和哉の頭をはたく。
「お前、パピプペポになれる確率知ってんのか? 何千、何万、何十万分の一だぞ」
「だからって、わかんないだろ」
 和哉が真剣に問いかけるが、智士と薫は首を振る。薫は和哉の肩をポンとたたく。
「わかんないって思えないよ。なれないって思ってしまうから」
 静かに智士もうなづく。
「俺はパピプペポにはなれないけどな、たぶん俺が目指すものは他にあるって思うんだ。今は、いいわけにしかならないけど」
「そうか」と、和哉がしぶしぶうなずく。
「でも、お前が諦めてないのは、納得出来ないけどな」 と茶化す智士の肩に薫が手を回す。
「でも、どっかで和哉なら、なれるって思ってるんでしょ」
「お、思ってねえよっ。こんな奴なれやしねえよ」と、口をとがらせ誤魔化す智士を横目で訝しげに見る薫。
「俺もなれるなんて思ってねぇけど、なれるまで進むのをやめないぜ」
 和哉が薫と智士に向かって堂々と宣言する。
「和哉がパピプペポになるの、楽しみだな」と、穏やかに和哉を見つめる薫に、右手でガッツポーズを作り答える和哉。
「その時は、みんなでお祝いしないとね。ね、智士」
「お、俺はそんなの祝う気ねぇよ!」
 智士は、改めて和哉の方を向くと、真剣な口調で問いかける。
「まあ、お前が目指すのはわかったし、もう茶化したりしないよ。でも、お前、もうちょっと頑張ったほうがよくねぇ?」
「ぐぁっ!」
 痛いところを突かれたとばかりに大げさに胸を押さえる和哉に、「それは言えてる」と追い打ちをかける薫。
「やべぇ、とりあえず走ってくるわ」と告げ、リュックを掴むと乱暴に教室のドアを開け走っていく和哉。
「あいつはずっと、ああなんだろうな……」
 少し寂しそうに開いたままのドアを見つめる智士の問いに「そうだね」と薫は小さくつぶやいた。


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