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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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先人の言い伝え

16/07/19 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:778

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「ただいま、婆ちゃん!」
トオルは、土間で靴を脱ぎ座敷に上がった。座敷の中央では、トメ婆ちゃんが囲炉裏鍋の中を杓子でかき混ぜていた。
「もう、外は真っ暗だよ。こんな時間まで外で遊んでちゃ、隠し神がさらいに来ちゃうよ」
「大丈夫だよ。ユウタ君もトモキ君も一緒だから。ねぇ婆ちゃん、今日の夜ご飯なに?」
「今日の夜ご飯は、シシ鍋だよ。拓造のお爺さんが猟で仕留めて、少し分けてくれたんだよ」
「やったー!。僕、お肉大好き!」
トオルは体を揺すりながら、トメ婆ちゃんが杓子でかき混ぜているシシ鍋を、待ち遠しい気持ちで見つめていた。
一瞬、風が強く吹いて来て、藁ぶき屋根の家を震わした。所々剥がれ落ちた土壁の隙間から、風が流れ込んできて、煮だっている鍋から立ち昇る湯気をさらった。
東京で父と母と3人で暮らしていたトオルが、両親の諸事情から、父方の祖母であるトメの家に預けられるようになったのは、半年前のことであった。10才のトオルは、トメに会うのは生まれて初めてのことで、最初の数週間は泣いてばかりいたが、子供は大人よりも器用に環境に慣れやすいのもあってか、1ヵ月も経てば学校で友達もでき、今では外が暗くなるまで友達と遊び暮れていた。
また大きな突風が吹いて来て、家を震わした。
「婆ちゃん、この家壊れないの?」
「昔の家は丈夫なんだよ。この家はね、婆ちゃんのお爺ちゃんが建てた家なんだよ。もう150年くらい、人が住み続けてるんだよ」
「でも、ボロボロだね」トオルは笑みを浮かべて言った。
「さあ、ご飯にしようかね」トメは、お櫃で冷ましておいたご飯を茶碗に盛り、お椀にシシ鍋をよそり、トオルに手渡した。
「いっぱい、食べなね」
「うん。いただきます!」
トオルは、弾力の強いシシ肉を、顎に力を込めて咀嚼しながら「婆ちゃん、美味しい」と言った。
「美味しいね。よく噛んで食べるんだよ」
「うん」
「ところで、今日はどこで誰と遊んできたの?」
トオルは口の中のシシ肉を呑み込んで「ユウタ君とトモキ君と一緒に、青龍洞で遊んでた」と言った。
「あんな遠くまで行ってたのかい。あの洞窟は暗くなると、足元が見えなくて危険だから、遊ぶところじゃないよ」
「大丈夫だよ。だって、あの洞窟面白いんだもん」
トメは、トオルの空になったお椀に、シシ鍋をよそって手渡した。
「何、面白いことがあったんだい?」
「声が聞こえるんだもん」
トメの箸が止まり、怖い顔でトオルを見つめた。
「洞窟から、なんて聞こえたんだい?」
「パピプペポって、何度も聞こえたの」
トメは天井に顔を向け、エライ事だと呟いた。
その日の夜、薪で沸かした五右衛門風呂から上がったトオルが、座敷に行くと、トメが珍しく電話を掛けていて、慌てているような口調に、トオルは子供ながらに言い知れぬ不安を感じた。
電話を切り終えたトメは、どこかに出かける支度を始めた。
「婆ちゃん、どこかに行くの?」
「ちょっと出かけてくるから、先に寝てなさい」
トメは、数珠と線香と一升瓶を持って家を出て行った。
トオルは、食事中に青龍洞の事を話したのがいけなかったのかと、話すんじゃなかったと後悔した。
翌日、教室でユウタ君とトモキ君と会うと、2人とも元気が無かった。理由を聞くと、よく分からないけど、爺ちゃんと婆ちゃんが慌ててたと、2人とも同じことを口にした。
学校が終わると、3人はカバンを背負ったまま、青龍洞に向かった。近くまで近づくと、昨日よりもさらに大きく「パピプペポ」と、誰かが叫んでいるかのよに、洞窟の奥から聞こえた。
トオルは全身に鳥肌が立っていた。早く婆ちゃんが待つ家に帰りたくなり、2人に帰ろうと促すと、ユウタ君が謎を解いたような表情で言った。
「な〜んだ。この洞窟の奥から聞こえてくる声、強い風が洞窟に入ると聞こえてくるんだぜ」
確かに強い風が洞窟に入った時に、決まって「パピプピポ」と奥から聞えてきた。
3人は安堵し、この日も外が暗くなるまで洞窟で遊んだ。
夜、布団で寝ていると天井につき上げるような振動と爆発音が鳴った。
「婆ちゃん!」トオルは叫んだ。
トメ婆ちゃんは、急いで部屋に入ってきて、トオルの頭を抱いた。
爆発音は何度か続き「青龍山が噴火したんだよ!」と、トオルの頭を強く抱きしめて言った。「ナンマイダ! ナンマイダ!」
外から、消防車のサイレンがけたたましく鳴り響いてきた。
「婆ちゃん、怖いよ!」
「婆ちゃんに、しっかりと掴まってろ! 青龍洞からパピプピポと聞こえたら、山が噴火すると昔から言い伝えられてるんだ。こればっかは、仕方がないことなんだ」
トメ婆ちゃんの抱きしめる手が、震えていた。
トオルは、ユウタ君とトモキ君と一緒に、青龍洞で何度も小便をしてしまったから、山が怒ったのではないかと思った。でもそのことを、トメには言えなかった。


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