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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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プロトタイプ

16/07/18 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:1316

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「水無瀬。答えと違えば、○はやれない」
 苛々した国語教諭の高橋は、恨めし気に私を睨み付けた。
 夏休み前、昼休みの職員室は、高橋には数少ない休憩場所であり、訪ねた私がそれをじわじわと奪っていることは百も承知だ。
 私は先程返ったばかりの答案用紙を指し示した。
「確かに私の解答は作者の意図とは違うかもしれない。ですが、テストの問題としてあの文脈だけ抜き出した場合、これは間違っていないはずです」
「そんな屁理屈こねたって点数はやらんぞ」
「しかしですね。他にも私のように、正答している生徒がいるかもと思うと高校受験も近いのに、黙ってはいられません」
 私はなおも食い下がった。
「水無瀬。受験生の自覚があるのか?お前みたいな和を乱す奴は、大多数にとって迷惑でしかないんだ。そもそも、このテストの意義は……」
 ボルテージが上がった高橋はここぞとばかりに説教を垂れ始めた。
 その机には温め直したばかりのコンビニ弁当が鎮座している。見目麗しいおかずの数々とふっくらした秋田県産コシヒカリ。大量生産されたおふくろの味は、高橋を待たずに温もりをなくしてゆく。
 ああ、お腹すいた。高橋のバカヤロウ。これくらい思っても、バチは当たるまい。


 私は可愛げのないランチバッグを手に、校庭の影をを小走りで横切った。二つ結びのおさげが揺れ、肩を叩く。
 運動場の手前、校舎から離れて建っている図書室は、私の住処のようなものだった。私は時間を有効活用するため、たいてい図書室の裏で食事する。いわゆる『ぼっち飯』だけれど、私は気にしていない。多分、誰にも気にされていないだろうし。
 暑いけれど、此処が一番過ごしやすかった。クラスメイトの談笑の中では窒息しそうだ。
 コンクリートに腰を下ろすと、私はさっさと弁当箱を取り出して開く。本当に可愛げのない、ただ家にあった残り物の素材を突っ込んだだけの昼ご飯。
 焦げた卵焼きを箸でつまみ、口に放り込む。
 焼きすぎた鮭。切っただけのソーセージ。飾りにならないレタス。
 どれもこれもおふくろの味、ではない。
 自分で作ったのだから、怒る相手もいない。
 お母さんの愛情弁当とか、流行りのキャラ弁とか。皆みたいに見せ合って食べるレベルじゃないし。私のお弁当は。
「水無瀬さん」
「ぬうぉ!」
 突然声を掛けられて、私は奇声を上げる。
 目の前に立っていたのは、うちの文芸部の顧問で、ふわふわした印象から『森の妖精』とあだ名される森野先生だった。
 森野先生も、ランチバッグを手にしている。
「ここ、いいかな」
 座ると、弁当箱を開いた森野先生は、ため息を一つ零した。
 ……そっか、職員室じゃ食べづらいんだ。
 10も年上の高橋は、まだ新米の森野先生を事ある毎に苛めている。フラれた腹いせというのが専らの噂で、結婚しても教師を続けたいと理想を語っていた森野先生が可哀想だった。そんな理由で、高橋を嫌う生徒は私一人でない。
 しかしお弁当はそんな裏事情も感じさせず、森の妖精らしく華やかだった。
 スクランブルエッグも。
 サラダも。
 唐揚げも。
 おにぎりも。
 手抜きなく女子力全開の出来栄えだ。
 素直に羨ましいと思った。
 言葉無くこんなにも、可愛い女の子を表現できる森野先生が。
 私なんか、足元にも及ばないよ。
「お弁当、水無瀬さんが作ったの?」
「あー」とか「うー」とか呻き声を上げながら、私は苦し紛れに言う。
「これはそう、試作品なんです!」
「試作品?」
「いつか、何かの時のための……いや、決して失敗作ではなく!」
 私、何言い訳してるんだろう?
 二人して並んで食べるなんて初めてだから、出来損ないのお弁当に価値なんか求めたりして。森野先生はそんな私を見て、ニコニコした。
「わたしも、そんな時あったな。何だか似てるね」
 私は何だか照れ臭くてお弁当を大袈裟に掻っ込んだ。森野先生はついばむように、美味しそうに箸を運んでいる。
「……水無瀬さん、テストの件は高橋先生に掛け合ってみるから」
「え、駄目駄目、駄目です」
「大丈夫。これでも先生なんだから」
 わたし、水無瀬さんの味方だからね。森野先生は言ってくれた。


 正直、高橋の弁当が羨ましかった。
 量産型の愛情でも、美味しい方がいい。
 みんなそう思うに決まっている。
 けれど、どうでもいいや。
 下手糞でも、他人とかけ離れていても。
 一人でも認めてくれるのなら。
「次、次こそは!ワンランク上のお弁当を目指してるんですよ」
「そうなんだ、お互い頑張ろうね」
 最低の一日、最高のランチタイムだった。


 私は少女。
 夢見る、プロトタイプ。
 森野先生に近づく自分にうっとりする時間は、人生の無駄じゃない。
「ごちそうさまでした!」
 私は心の鏡を磨いて、私自身に手を合わせた。


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このストーリーに関するコメント

16/07/19 霜月秋介

冬垣ひなた様、拝読しました。
コンビニ弁当を量産型の愛情と表現したところに、なるほどなと思いました。さらに思わず食べたくなるような表現に感服いたしました。
私はコンビニ弁当よりも森野先生の弁当を食べてみたいです(笑)

16/07/25 あずみの白馬

コンビニ弁当、まだまだこれからと言った感じの手作り弁当、そして美味しそうな手作り弁当。
それぞれの違いが見事に表現され、そこから「人間」を垣間見ることが出来て良い作品だと思いました。

16/07/25 葵 ひとみ

冬垣ひなた さま

拝読させて頂きました(^^*)

お弁当とは話がずれるのですが、小説を読むと一万人いると一万人の答えがあるとことろが面白いところかもしれません

実際の大学受験の現国の解答発表の後に、
作者が「そんな意図で執筆したのではない。」と受験後に言い始めたことがあるそうです。

水無瀬さんの言い分も正しいのかもしれません……

私も自動車学校の頃、ポツリと一人で空いた講義室で読書をして、
いわゆる『ぼっち飯』をしていた頃を懐かしく想い出しました(^^*)
私の場合は、森野先生的な御方は掃除のおばちゃんでしたが、
そして接点は「お弁当」ではなく「読書」でしたが……

最低の一日、最高のランチタイムだった。

ここの文章も天才的な言いまわしだと思います(^^*)

珠玉の小説をありがとうございます。

16/07/25 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

ずっとフルタイムで働いていたので、それを言い訳にずっといい加減な弁当を作っていた母親の私です。

まあ、うちの娘も文句を言わずに食べてくれたので助かりました(笑)

主人公もいつかはプロトタイプではない、自分らしいお弁当が作れることと思います。

写真のお弁当がとっても美味しそう♪(๑´・ᴗ・`๑)

16/07/29 冬垣ひなた

霜月秋介さん、コメントありがとうございます。

人々がコンビニ弁当に求めるものを突き詰めると、安心感じゃないかと思います。自分用を作り始めるとそういう事が分かってきました。食べ物はなるべく美味しそうに書くよう努力します。そうでないと、自分が料理に失敗したような錯覚に陥るので(笑)。


あずみの白馬さん、コメントありがとうございます。

表現は2000字で詰め込めるように頑張っています。そうすると文体にも影響が出るので、作品ごとのキャラの書き分けが楽になりました。いつもは用いるキャラは2人なのですが、今回は3人で、普段書かないタイプにしています。そこを評価していただけて嬉しいです。


葵 ひとみさん、コメントありがとうございます。

一応今回のキャラクターにはそれぞれモデルがおります。森野先生的な人はいましたね、その先生がいなかったら、やっぱり学校生活が面白くなかったように思います。
今回は尖った主人公なので言い回しもずいぶん考えました。
そこを良いと言って頂けて感謝します。


泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

私は職場へマイ弁当持参なのですが、みんなで囲むように食べるので、いつもチェックが入ります。弁当の写真は自分で作って撮りました。最近手抜き気味だったので、今は頑張って作っています。テーマに影響されてよくマイブームが来るのですが(笑)、食生活を見直すいい機会になったと思います。

16/08/07 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

たとえば国語の読解力などを問うテストに正解があることが正解ではないのでは?と屁理屈こねたくなりますが、
自分が学生の時は、この主人公のようなまっすぐさはなく、出題者の意図する正解をさがしていたように思います。
そういう意味では学校がめざす量販型に意識せずとも乗っていたのかもしれません。よくもわるくも。
主人公が、自分もなりたいと思わせてくれるような森野先生と出会えたことがこれからの未来に力をくれるといいなあと思います。

16/08/13 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

学生時代に色々もやっとした事を話にしてみました。未消化な感情は形にするのが難しかったのですが、主人公がはっきりした性格なので話を進めやすかったです。進展は小さなものかもしれませんが、彼女たちにとって明るいものであるようにと願って描きました。

16/08/17 光石七

拝読しました。
高橋先生、むかつきますね…… その分森野先生の素晴らしさが際立っています。
森野先生とのランチタイムが、主人公の自己肯定と一歩前進する力になり、爽やかな読後感でした。
毎回、キャラクターの具体性・現実性、書き分けが見事ですね。
面白かったです!

16/08/20 冬垣ひなた

光石七さん、コメントありがとうございます。

嫌な人の書き方が難しいのは、プロの作家を見てて一番感じた事で、今回特に力を入れて書きました。日常系の話なので、夏らしい爽やかな締めくくりに出来て良かったと思います。面白かったと言って頂けて嬉しいです、キャラクターの書き方は最近強化しているので、これからも頑張ります。

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