1. トップページ
  2. 羽比布ペポの恋愛事情

日和まろさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

羽比布ペポの恋愛事情

16/07/18 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 日和まろ 閲覧数:807

この作品を評価する

 彼女は僕の手を取ったかと思えば、すぐに“ぱっ”と離した。

「ああ汚い。汚らわしいこと」

 鈴の音のような声が、乱暴に言の葉を紡ぐ。
 先に触ってきたのはそっちじゃないか。夏樹はその言葉を出すことなく飲み込んだ。

「ごめん、汚くて」

 代わりに謝罪の言葉を贈る。
 少しでも、彼女の気を留めておきたかった。

 高嶺の華。
 彼女、羽比布ペポ(ぱぴぷ・ぺぽ)はその言葉が特別似合う女性だ。
 
 夏樹は同じクラスの高嶺の華である彼女、ペポに恋をしている。

「どうして私が貴方なんかの手を取って差し上げたと思って?」

 ペポはシルクのハンカチーフで白魚のような手を丹念に拭きながら夏樹に問う。その表情は不機嫌そうに見えた。

「え?」

 急に聞かれても分からない。夏樹はただ、教室の椅子に腰かけていただけだ。
 放課後、多くの生徒が部活や家路に着く中、夏樹は当番だったため日誌を書いていた。そして、そろそろ書き終わる頃、急に教室に入ってきて夏樹の目の前にきたペポが夏樹の両手を勝手に取った。それだけだ。だから夏樹に理由を問われても答えが出ないのは必然ともいえる。

「シャンとしなさい!」
「はいぃっ」

 ペポは背筋が狼狽する夏樹が気に食わなったのか少し声を荒げて言った。
 反射するかのように背筋が“ぴっ”と伸びる。

「この私が話しかけてあげてるのよ?!」
「そう言われましても……」
  
 分からないものは分からない。夏樹は視線を下に泳がせた。
 今、さぞかし情けない表情をしているだろう。そんな顔をペポに見せるのは恥ずかしかった。

「……ふふっ」

 頭上から“ぷっ”とほんの少し噴き出す声が聞こえた。
 ペポが、笑ってる……?

 この学校でペポが笑っているところなど見たことがあっただろうか。
 少なくとも、夏樹は見たことがない。
 顔を上げると一瞬だけ、破顔するペポが見えた、気がした。
 一瞬でいつもの表情に戻ってしまったので確信が持てなかった。

「ペポさん、今笑って……」
「あなたなんかの前で笑う訳ないでしょ。思い上がりも甚だしいわよこの愚民!」
「そ、そこまで言わなくても」
「もういいわ!そもそも私がここに来たのは理由があるの。その理由を貴方に教える筋合いはないわ。だからさっさと帰ってくれる?!」
「え、でも日誌……」
「〜〜〜〜さっさと書いてしまいなさい!」

 気持ちのやり場がなかったのか、ペポは机の上にあった消しゴムを“ぺっ”と夏樹に投げつけた。

「痛いですペポさん」
「っ、書き終わってないあなたが悪いのよ」

 ペポはそう言い捨てて、ふいと背中を向けてしまった。
 ああ、終わっちゃった。
 恋い焦がれるペポとの交流はどんなものでも胸がときめく。あと少しだけ、話せたら良かったのにな。でも、

 同じ空間にいるだけでも、夏樹は幸せだった。

「夏樹、」
「っ、はい!ペポさん!(名前で呼ばれた……)」
「貴方のせいで帰りが遅くなったわ。だから送っていきなさい」
「え、それってつまり一緒に帰「分かっているなら皆まで言うんじゃないわよ!」」
「はいぃ!」

 少しだけ見えたペポの頬が“ぽっ”と赤らんでいたのは、夕日のせい、かもしれない。







コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン