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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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タスケアイ

16/07/18 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:662

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村の集会場に果樹園農家の人間が11人集まっていた。
持田盛光は傷んだ畳の上で腕を組み、あぐらをかいて座っていた。
円を描くように座った11人の中で、岸辺庄司は背中を丸め、正座をして座っていた。
何かが飛び跳ねるのを感じ、下に目を向けた盛光は、親指でそれを潰した。ノミだった。
潰したノミを人差し指で弾いた後、岸辺を見ながら意見を述べた。
「会長さん、オラは反対だ。自分の家のことで精一杯だ。岸辺さんには悪いが、オラは一銭も出すきは無いな」
何人かが頷いた。
会長の前田が「だけど、岸辺さんを見捨てる訳にはいかないべ。オレ達は、昔から村の農家同士で何かあった時は助け合ってきた。いま岸辺さんを助けなかったら、この人、夜逃げするしか方法がないべ」
「言わせてもらうけど、岸辺さんは果樹園農家は向いてないんだ。仕事辞めて親から受け継いだ農園をやり始めたけど、仕事は見てると雑だし、それに嫌々仕事しているように感じてならないんだ」
岸辺は、涙と鼻水を垂らしながら懇願した。
「自分に、今一度チャンスをください。仕事が雑だったのは認めます。これからは、一生懸命に仕事に向き合います。だから頼みます、150万円をお貸しください」
盛光は大きくため息を吐いた後、「どうする?」と言った。
他の参加者は、会長にお任せしますと言う意見で一致した。
会長の前田は、眉間に皺を寄せて考えた後、「今回ばかりは、皆で助けてやろう」と言った。
結局、1人15万円ずつ出しあい、150万円を岸辺に貸すことに決まった。しかし、盛光は納得がいかなかった。そもそも村の者で助け合う風習は、もう今の時代に合っていないとさえ思った。15万円の収入を得るには、1個20円で卸すリンゴがどれだけかと思うと、腑に落ちない気持ちだった。
8月に入り、あと2週間も経てばリンゴの収穫の時期を迎えようとしていた。盛光は家の祭壇に手を合わせ、収穫までの天候の安全を願った。
8月2日の夕方、テレビの天気予報で台風の発生が伝えられた。今世紀最大の規模になるという台風8号は、パピプペポという呼び名になった。
中心気圧は872ヘクトパスカルで、19年振りに900ヘクトパスカルを下回る勢力だと伝えられた。日本を北上すると予想されるパピプペポ台風は、青森を直撃するのは、3日後の夕方だった。
盛光は、家族総出で台風対策のための防除に駆け巡った。
8月5日は、朝から分厚い雲と強めの風が吹いていた。午前中にやっと防風ネットと、摘果と言う強風に耐えられるリンゴだけを残し、それ以外は切り落とす作業が終わった。
時間が進むにつれ、雨風が強まってきた。今世紀最大のパピプペポ台風は、勢力を落とすことなく北上し続け、最大瞬間風速48メートルと言う、驚異的な勢力で間もなく青森を直撃しようとしていた。
盛光は、今朝から何度も家の祭壇に手を合わせ、どうか何事もないように台風が過ぎ去ることを祈った。
夕方6時を過ぎた頃、突然停電になった。点けていたテレビや蛍光灯が消え、家の中は真っ暗になった。窓ガラスは、叩きつける風雨で割れるのではないかと思うほどだった。こんな大きな台風は、19年前のキャサリン台風以来だと思った。
キャサリン台風では、青森の果樹園農家に膨大な被害が及んだ。盛光は、今回のパピプペポ台風も、膨大な被害になるだろうと頭をよぎった。
電気が回復したのは、夜の9時頃だった。嘘のように風と雨は止み、空には満天の星が輝いていた。
盛光は、軽トラックで農園に向いトラックから降りると、絶望的な光景が広がっていた。
リンゴは壊滅的な被害だった。
果樹園農家をやっていると、自然の神に泣かされることが度々あるが、今回は恨みさえ盛光は感じた。なぜ、汗水流して栽培した出荷間近のリンゴを、こうも簡単に落果させてしまうのか、自然の神の悪戯としか思えてならず、強い怒りを覚えた。
翌日、村の集会場に11人の果樹園農家が集まった。
「今回のパピプペポ台風で、一番の被害を受けたのは盛光くんの農園だ。ほぼ壊滅的で、出荷は期待できない。どうだろう、皆で寄付金を贈ってはどうか」前田が言った。
皆は全員一致で、頷いてくれた。
1人10万円、岸辺庄司は3万円を寄付してくれた。
盛光は、自分が援助される側にたってはじめて、この村で昔から続く、農家同士の助け合い制度に感謝した。
人間は痛い目にあって、はじめて気づくことがよくあるが、親や祖父さらに曾祖父の代と、先祖代々から続く村独自の助け合い制度は、自然を相手にする農家にとって、これほど有難いことは無いと今になって分かった。農家は周りと助け助けられながら、ともに繁栄する。
パピプペポ台風の残したつめ跡は甚大な被害だったが、盛光の心の奥底で、泥にまみれて忘れていた村同士の助け合いの精神を、綺麗にパピプペポ台風は洗い流してくれた。


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