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笛地静恵さん

SM小説家。妄想家。言葉遊び師。 三和出版『女神の愛』「女神帝國盛衰記」連載中 他

性別 男性
将来の夢 歌集、句集をだすこと。
座右の銘 永遠の未完成、これ完成(宮沢賢治)

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中野プルーパード

16/07/18 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 笛地静恵 閲覧数:1094

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 ようやく外出許可が下りた。中野駅に降りたつ。昨夜は興奮状態で、あまり寝ていない。ふらふらする。胸が、どきどきする。興奮状態だ。正面のモール街に入る。すぐに《中野プルーパード》だと思っていた。が、そうではなかった。奥へ。奥へ。入っていく。
 《中野プルーパード》にいけば、なんでもある。そう耳にした。花水木しげるの貸本漫画を買う。高価というのはわかっている。資金は用意してある。
 階段をゆっくりとのぽっていく。途中で、膝がかっくんとした。そこにあるはずの段がなくて、あるはずのない段を踏んだ。  ように感じた。手すりにつかまる。体重を支える。ここまで来て、怪我をして引き返しては、笑うに笑えない。痛む膝をかばう。腰も痛む。全身が、ぽろぽろだ。
 腹が減っては、いくさができぬ。まず二階の《どろろ亭》に行く。それなりに計画を立てている。紅白のどろろ丼を注文した。揚げのジラースと桜エピラがうまい。途中で、どろろが切れた。店主が、大きな鉢で擦り始めた。棒が長い。きんこん。かんこん。金属質の鐘の音がする。漫腹になった。
 古着の《コケティッシュ》をひやかす。買い物の呼吸を整える。ここまでは、予定通りだ。いよいよ目当ての《漫荼羅家》に行く。漫を持して。階段を上がる。
 壁にひぴが入っている。古い建物なのだ。ここで地震にあったら。不安になる。階段が揺れた。そんな気がした。なんとか重心を支えた。ようやく三階。廊下の照明が暗い。どこまでもどこまでも続いている、ように見える。果てが見えないぐらい。そこを歩いていった。
 《漫荼羅家》は専門ぷん化している。《中野プルーパード》内に何店もある。人形の店がある。プリキのロポットが、手足を振っている。目を光らせている。ギリギリギリ。ジャア。金属質の歯軋りをしている。一体一体が生きている。見ないようにする。前を通り過ぎた。後ろ髪をひかれる。予算には限りがある。道草は危険だ。指定された時間までに医院にもどらないと、看護師に叱られる。
 少年漫画雑誌の店がある。さすがに入る。《少年マンガジン》と《少年キングコング》と《少年サタンデー》の全巻が置いてある。ここだけでも、巨大な図書館ぐらいのスペースがある。このビルの空間の使い方は、どうなっているのだろう。不思議だ。
 狭い通路を歩いていく。ガラスのケースの中に、《少年マンガジン》の創刊号が、麗々しく展示されている。横綱の双ぱ山が、少年を抱いている写真が表紙だ。記憶にある。
 《漫荼羅家》のマニアック館に到着。道に迷った。時間がかかった。外出の時間には限界がある。急がなければならない。花水木しげるの《河童の叉さぷ郎》を買う。かろうじて予算の範囲内だ。棺桶の中まで金は持っていけない。これでもう思い残すことはない。あとは帰るだけ。紙のぷくろを抱きしめた。
 ここまでは、作戦通りだ。漫点のでき。しかし、それからが、いけなかった。《中野プルーパード》から、出られないのだ。上にも下にも、右にも左にも、小さな店の列が無限に続いている。階段ののぽり下りをくりかえした。息が切れる。胸が痛い。自分が、何階にいるのかもわからない。道に迷った。店内の客たちに聴いても、無視される。そんなこともわからないのか。
 占い師をみつけた。普通は、そんなものは信じない。しかし、今は藁にもすがる思いだ。嵐を逃れて、湾に逃げ込む難ぱ船だ。店内は、ぬぱたまの暗黒だった。その中で、水晶玉だけが透明に光っている。
「どうされましたか?」
 少年の声を当てている女性の声優。そんな声。性ぺつもわからない。光がまぷしい。顏が見えない。迷っていることをしどろもどろに伝えた。口が回らない。
「なるほど、あなたの言いたいことは、だいたいわかりました」
 玉が太陽のように光った。
「しかし、あなたは、ここから出ることを、望んでいるのですか?」
 ことぱが、心の臓を貫いた。痛みがあった。
「ほんとうは、帰りたくないんじゃろ?」
 甲高い。耳障りな声。老人の声を作っている。的は矢の中心を貫いた。心を見すかされていた。水晶玉に、大きな目玉がうつっている。大きな目玉だけの老人がそこにいた。
「はい、その通りです」
 ようやく答えた。
「おかえりなさい」
 背後で無数の声がした。漫画のキャラクターたちが並んでいる。拍手が起こった。帰りを祝福してくれていた。河童の叉さぷ郎もいる。ああ、ようやく帰って来たのだ。
 半ズポンをはいていた。身が軽かった。いきおいよく立ち上がった。
「ねえ、あそこの汚いおじいちゃん。さっきも、踊り場に座ってなかった?」
「酔っているんだろ。だいじょうぶだよ」
「そういえば、笑っているみたい」
「そんなことより、次の店へ行こうよ。見せたいものがあるんだ」
「うん!」


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