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まきのでらさん

某老舗同人集団所属。 キャリアだけは無駄に長いです。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 作家
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SMILE AGAIN

16/07/16 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 まきのでら 閲覧数:759

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 私の妻は料理が下手だ。何を作ってもことごとく不味い。
 新婚当初は浮ついた高揚感も手伝って何とか美味いと言っていたが、年月を重ねてくると一向に上達しないその腕に嫌気が差してくる。
 しかし、妻は優しい女だった。柔和な笑顔で料理を出されるとどうにも不味いとは言い辛い。
 なので毎日せっせと早起きして作ってくれる愛妻弁当も、断ることが出来ず職場まで持っていく。しかし、面と向かっては我慢して食えていても、外で一人でまではとても辛抱できず、毎度米の上に焼き海苔で眉と目と口を作って描かれたニコニコ顔に申し訳ないとは思いつつ、中身をコッソリと捨て、コンビニで惣菜パンなどを買っては侘びしい昼食としていた。
 
 弁当に関しては何度も断ろうとしてきた。
 毎日大変だろうから。
 外で同僚と軽く済ませるから。とか何とか言って。
 
 しかし妻は、その場では「そうねえ」などと曖昧に相槌を打つが、結局次の日の朝になるとまるで働き蟻のようにせっせと弁当をこしらえているのである。
 その健気な姿を見ると、どうしても「不味いから止せ」何て言えずに、また捨てるハメになる弁当を持って出社するのだ。

 そんなある日、いつものように弁当を処分しようとすると「シクシクシク」とむせび泣く声が聞こえる。
 始めは空耳かなと思ったが、どうやら違うらしい。
 その声は、カバンに入っている弁当箱の中から聞こえてくるようなのだ。驚いた私は人目を気にしつつこっそりと弁当箱のフタを開けた。
 すると、いつもは丁寧にニコニコ顔を作っている焼き海苔が、どういうワケか八の字眉にへの字口の、悲しげな泣き顔になっている。これは、一体どうして――
 弁当箱を開けた瞬間から、泣き声は聞こえなくなっていたが、この哀れな顔つきは捨てられる運命を嘆いているようにしか見えないではないか。
 もしや妻は私が毎日弁当箱の中身を捨てていることに気づいていたのではないか。それで、こんな無言の抗議をしてきたのでは?
 しかし同時に、移動の振動で米の上の海苔がズレただけとも考えられた。
 結局私はその泣き顔弁当を捨てることが出来ず、会社の屋上に出ると黙々と食べた。やはり、不味い。
 
 その日の帰り、私はある決意を固めて玄関前に立っていた。
 片手の紙袋には、何冊もの料理教本が入っている。
 これでイチから始めればいい。妻一人ではなく、私も一緒に。
 もう泣き顔の弁当は見たくないからである。
「ただいま」
 ドアを開けると妻はいつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
 やはり妻と米の上の海苔には、いつも笑っていてほしいものである。 了


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