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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
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「弁当」と言う単語が一度も出ないファンタジー

16/07/12 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:9件 あずみの白馬 閲覧数:2485

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「これ、忘れないでね」
 暗殺組織の長、エリーゼ様からサンドイッチ入りのバスケットを受け取った。

 戦乱の真っただ中にあるこの世界、圧政を敷く帝国軍と、解放軍の激しい戦いは、解放軍が優勢で進んでいた。
 戦況打開のため、帝国軍のナンバー2、アマデウスは、闇の司祭エリーゼをトップとした暗殺組織を結成し、解放軍の主要メンバーを葬り去ることを計画した。

 身寄りのない子供などを組織の中に入れ、厳しい訓練を積ませ、忠実に職務を遂行させる暗殺者に育て上げる。
 任務に失敗した者、訓練についていけないものは容赦なく捨てられて行った。

 私も身寄りが無く、街をさまよっていたところをエリーゼ様に拾われた。
 捨てられれば生き倒れてしまうから、必死で厳しい訓練に耐え、そして今日、念願の初指令が下された。
『解放軍の女軍師、コスタンツァを消せ。期限は3日以内』
 私は喜び勇んでアジトを後にした。コスタンツァは帝国軍最大の都市に向けて進軍中との情報も入った。1日あれば捉えられるだろう。

 街道を南へと進む途中、小高い丘の上でサンドイッチを食べた。貴重な白いパンに、レタス、たまご、ハムなどがはさんである。口の中でそれらの具材がハーモニーを奏で、とても美味しいのでじっくりと味わう。エリーゼ様は何故か決まって、指令を任せた者に、これを渡していた。

 さらに街道を南進すると、夕方近くになって前方から解放軍のキャラバンが見えた。私は近くの山の中に身を隠した。正面から行っても負ける。だから遠くから弓で射止める。

 解放軍が夕食の支度を始める。私は丘の上にロングボウをセット。望遠鏡でターゲットを捉えた。方角よし、風は微風。私は引き金を構える。ところが!

「何をしている!」

 迂闊だった。後ろから声がしたと思いきや抵抗する暇も無く、若い女剣士に捉えられてしまった。後悔ばかり先に立つが、遅かった。

 眠れぬまま、キャラバン隊の一室で次の日の朝を迎えた。
 昨日の女剣士が私に話しかけてきた。なぜか笑顔を見せている。手にはスープを持っていた。
「おはよう」
「……」
「あら、顔色が良くないわね」
 余裕のある笑みを浮かべている。私はこの後処刑されるのだろう。戻っても捨てられるだけだから大した差はないと諦めていた。すると、女剣士はスープを一口飲んでから私に差し出した。
「毒は入っていないから、大丈夫よ」
 私は思わずスープを口にしてしまった。香辛料がよく効いていて美味しかった。
「あり……がとう」
「どういたしまして」
「自己紹介がまだだったわね。私はコスタンツァ、解放軍のリーダー」
「なっ……!?」
 まさか!? ターゲットは確実に捉えていたはず。
「ここに居たのは影武者よ」
「……」
 完全に失敗だ。私は死を覚悟した。ところが
「後ろで見てたけど、あなたスナイパーとしては完璧ね。狙いのつけ方もいいし。私の仲間にならない?」
「!!?」
 思いもよらぬ提案に驚く。裏切れば死の報復、だが戻っても捨てられる。捕虜のままでもいずれ処刑される。自分が生き残るための方法があるとすればそれしかない。彼女はそれをわかった上で……
「い、いいわ……」
「よろしくね」
 私は裏切るしか無かった……。

 それから何度かの戦いの後、ついに私のいた組織に総攻撃をかけることになった。

 解放軍は次々と暗殺者を倒していく。そしてついに、エリーゼとコスタンツァ様の一騎打ちを迎えた。

「私に楯突こうなどとは百年早いわ」
「うるさい! 自分の罪を思い知れ!」

 二人は間合いを詰め、剣戟が始まった。こう着状態に見えたが、やがてコスタンツァ様が優勢となった。そして最後の剣の一振りがエリーゼを貫いた。

「ぐわっ……」

 これで終わったと誰もが思った。ところが、奥からアマデウスが出てきた。

「ふははは、ゴミの始末、ご苦労であったな」
「なんだとお!?」
「暗殺組織は我が帝国軍の時間稼ぎに利用させてもらった。おかげで我が軍最強兵器はついに完成した。こいつは用済みだ。礼を言うぞ」
「こっの……」
 コスタンツァ様はアマデウスに攻撃を仕掛けるが、あっさりとかわされた。
「ワシは帝国城にて待つ。悔しかったら倒してみよ。わははは」
 
 アマデウスはそのまま消えてしまった。あとに残されたエリーゼ様が消え入りそうな声で私に話しかけてきた。

「ごめんね。国のために私は心を捨てて……、それなのに……。私はせめてもの気持ちを込めて、サンドイッチを作って……」

 そこまで言うと彼女は倒れてしまった。

 あのサンドイッチに、エリーゼ様に残されたわずかな愛情が込められていたと思うと涙が出てきた。

 コスタンツァ様が目に涙を浮かべて私に頭を下げた。その姿を見て誓った。必ずアマデウスを倒すと……


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このストーリーに関するコメント

16/07/13 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。面白かったです!
「弁当」というお題に対して自由に振る舞う様がとても楽しいです。
しかも、アマデウスは帝国軍のナンバー「2」ですからね……。
その後ろに控えているナンバー1が気になってしょうがありません。

16/07/13 あずみの白馬

> にぽっくめいきんぐ さま
 ありがとうございます。
 弁当の概念が無い世界で弁当のお話を書いてみました。面白いと感じていただけたなら嬉しいです。
 ナンバー2のアマデウスさんが帝国軍でどのような位置か、そしてナンバーワンは……、やっぱり気になりますよね。続きを描く機会があれば描いてみたいと思います。

16/07/15 あずみの白馬

> 海月漂 さま
 ありがとうございます。
 そうですね……。心を殺して冷酷にふるまうエリーゼが贖罪の気持ちを込めたものだと思います。
 続編も機会があればぜひ書きたいです。ありがとうございます。

16/07/15 天野ゆうり

凄い!!あずみさんのはじめてのファンタジーを読んだ気がします!!
サンドイッチに込められた想い……
切なくて、ちょっぴりしょっぱいお話でした……涙腺が……

16/07/18 あずみの白馬

> 天野ゆうり さん
恐ればせながらファンタジー初挑戦です。お楽しみいただけたようでうれしいです。
切ないエンドも初めてでした。何か伝わるところがあれば幸いです。

16/07/26 葵 ひとみ

あずみの白馬 さま

拝読させて頂きました。

アマデウスが作曲家、演奏家の「アマデウス・モーツァルト」と映画「アマデウス」をイメージしてしまいました(^^*)

タイトルの「「弁当」と言う単語が一度も出ないファンタジー」もとても面白いアイデアだと思いました。
とても丁寧な「サンドイッチ」の描写から、愛情とラストのせつなさがひしひしと伝わってきます。

帝国軍のナンバー2、アマデウスと言うことは
帝国軍のナンバー1、はブクステフーデなのか!?
想像力をとてもかきたてられる作品ですね。

ぜひとも、続編が読みたいと思いました。
評価させていただきました(^^*)
素敵な作品をありがとうございます。

16/08/06 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

過酷な状況の中、サンドイッチを作るエリーゼの気持ちが痛いほどに伝わってきます。
コンスタンツァもいい人ですね。世界背景もしっかりしていて、あずみのさんの作風には珍しいアマデウスの憎々しさも、しっかり伝わってきて、この先どうなるのかとても気になりました。

16/08/11 あずみの白馬

> 葵 ひとみ さま
今回、切ない物語に挑戦させていただきました。お読みくださいましてありがとうございました。
この後の展開、やはり描いてみたいと思います!

> 冬垣ひなた さま
ありがとうございます。悪役アマデウスにはモデルがいます。憎憎しく表現できたので……、次回もがんばりたいと思います。

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