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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 魁! 不労所得!
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ウルトラプロライフ

16/07/08 コンテスト(テーマ):第84回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:841

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 中絶クリニックの自動ドア――当節の風潮を鑑みて、旅順要塞もかくやといったバリケード――が爆破され、投薬によって完全にラリッた女性強襲部隊が一挙になだれ込んできた。
 彼女らの組織名は〈ライフガード〉。某炭酸飲料と頻繁にまちがわれるのが珠に瑕である。
「全員手を上げなさい!」
 ものわかりのよい患者は即座にそうした。ものわかりの悪い患者や〈中絶テロなんかに屈しないわ!〉などという無謀な信念を持つ患者はそうせず、彼女らは三秒後には全員、蜂の巣にされて血だまりのなかに横たわる仕儀となった。
 生き残ったのは若い看護師と男性医師、それに少数の中絶希望者だけ。全員滝のように汗を流している。無理もない。一歩まちがえばそこらに転がっている連中と同じところへ送られるのだ。
「そこの医者、前に出なさい」とリーダー格の女。
 医師はしぶしぶそうした。「あの、帰ってくれませんか」
 リーダーは腰にぶら下げていた拳銃で医師の太ももを撃ち抜いた。悲鳴が上がって、彼は床にもんどりうって倒れる。
「問われたことだけに答えなさい」
「はい」と脂汗を流しながら医師。ぶざまに床へ這いつくばっているのはプライドが許さなかった。気力で立ち上がる。
「お腹の子どもに生命がいつ宿るか、答えなさい」
 医師の脳内は大車輪の忙しさだ。嘘をついて当座をしのぎ、信念を犠牲にする。もしくは信念を貫き通してかっこよく決め、生命を犠牲にする。そうとも、なにかを犠牲にせねばなるまい。無傷というわけにはいかない。
 ところで俺よ、と医師は自分に問いかける。お前はこんなご時世のなか、なんで中絶医師になんかなったんだ? 望まれない妊娠によって女性が苦しむのを放っておけないと決心したからだろうが!
「ぼくにはよくわかりません」
 左腕に一発。今度は悲鳴も上がらなかった。彼は歯を食いしばって耐えたのだ。
「……気が早いな。これから続きを言うところなんだがね」
「もったいぶらないこと。次に返答が遅かったら、逆の足を撃つ」
「本当に俺にゃわからん。でもこれだけは言えるぞ」息も絶え絶えに、「受精した瞬間でないことだけは確かだ、狂信者どもめ」
「そう思う理由は?」ゆっくりと拳銃をかまえる。すでに彼女のなかで、医師をどうするかは決まっていた。「一応、聞いてあげる」
「理由もなにも、あんたらは精子やら卵子やらが単なる生殖細胞だということがわからんのか? もしそいつを破棄するのが殺人なら、ほとんどすべての女性はそうなっちまう。それと知らないうちに流産がどれだけ起きてるか、聞いたことくらいはあるだろう」
「意図的にそうするのと自然にそうなることのあいだには、大きな溝があるのよ」
「そうかい。では月経のたびに生命の源が失われたといって、せいぜい神に懺悔するんだな」
「貴重な意見をありがとう。じゃあね」
 ヘッドショット。医師の脳漿がぶちまけられ、看護師と患者たちが逃げ惑う。しかし出口はほかの隊員たちによって固められていた。なまじ旅順要塞のごとく堅固にしたのが仇になっているのだ。
 看護師と患者たちは横一列に並べられた。両手を頭の上で組んでいる。銃殺刑に処されるのが早いか、警察が突入してくるのが早いか。騒ぎが大きくなって近隣住民の通報を億劫がる気持ちが払拭されるかどうかに、彼女らの命がかかっているわけだ。
 右から順番に医師にしたのと同じ質問がなされ、答えに窮したり〈ライフガード〉の望む答えでなかったり望む答えではあったものの本心でないと判断された者――つまりどう答えてもということだが――は、頭をすっ飛ばされた。
 最後に残ったのは若い看護師だった。彼女はおおむね最初に頭をすっ飛ばされた医師と同じような理由から、中絶クリニックに勤務することを決めたという背景があった。彼女は毅然とした態度でリーダーを見据える。
「あなたに言っておきたいことがあります」
「聞きましょうか」
「受精卵は後生ありがたがるくせに、成人の命に無頓着なのはなぜでしょう」
「その成人が殺人に手を貸しているからよ」
「受精卵に本当に命が宿っているのか、あなたがたでさえ確信はないようですね」
「それがなにか?」
「本当に命が宿っているかわからないものを破棄したかどで、今日この場でまぎれもない殺人が行われました。それについてどう思いますか?」
「あんたはうるさいってところかな」拳銃が看護師の眉間に突きつけられる。
 彼女はなにも言わなかった。じっとリーダーを見つめている。言葉で伝えるよりはるかに多くのことを、その目は語っていた。
 リーダーは引き金を引いた。
 武装した機動隊が突入したのは、それから二分後のことだった。


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