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ノベ・ツムギさん

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性別 女性
将来の夢 幸せなばあさん。
座右の銘 人生とは自分を見つけることではない。人生とは自分を創ることである。

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デイム&ナイト

16/07/06 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 ノベ・ツムギ 閲覧数:969

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「まいったな。あれか?」
「違うだろ。顔、母親そっくり」

 相棒の金城はスマートフォンで舞台の様子を撮影している。下手寄り、つまり舞台に向かって左側の群集にまぎれ、酒を飲みながらダンサーたちを物色している──ふりをしているわけだ。

「沙弓もここにいたのか」
「ママにナイショでいけないバイト。いいねぇ〜」

 資産家の後妻として何不自由ない暮らしを手に入れた藤上磨弓には、ただひとつ許せないことがあった。前妻の忘れ形見、藤上礼央奈の強さだ。正に女帝として君臨していた。普段はダンサーとして家を空ける。しかしきちんと帰ってくる。すると磨弓は、自分が仮初めの女主人であることを思い知らされるのだ。礼央奈は使用人たちにも慕われ、父親から絶大な信頼を受けていた。当然だろう。藤上家は女系なのだ。
 そこで俺たちに依頼が舞い込んだ。義理の娘を殺してほしいと。

 だがどう見ても、今エメラルドグリーンのドレスを翻し傘を振って踊っているのは、藤上沙弓だ。年も標的である礼央奈より若い……というか、幼い。礼央奈は24歳、顔立ちも父親似で東洋人のくせにやたらスパニッシュ的な魅力がある。反対に磨弓は小さな尖った顎と細い鼻筋がまるでフランス人形のようで、沙弓も母親によく似ている。
 ショーの三番目。エメラルドグリーンのドレスに傘。
 
「情報源が実の娘?」
「かもな。おー」

 鼻の下をのばしている場合ではない。
 既に前金をもらっているし、観客を沸かせているのは沙弓で、礼央奈がいない。
 その時、雷鳴が轟いた。続いて照明が点滅し演出であることがわかった。沙弓が首をすくめ傘を開く。舞台では銀色の粒が連なったカーテンが下り、雲を模ったらしいゴンドラが現れた。
 強烈だった。プラチナのドレスで身を包み、赤い髪を結いあげ、首にドレスと同じ色のスカーフを巻いている。額の上で光るのは、角か。
 歓声が沸いた。

「これは稀に見ぬ龍神様だな。フォーウッ!」
「……雷神だろ」

 一緒に盛り上がっている金城はリズムをとって上機嫌だ。
 スリットの入ったドレスから美しい脚を覗かせて礼央奈が舞台を練り歩く。強い眼差しにとって喰われそうだ。磨弓のような女なら礼央奈に追従してしまったほうが生きやすいはずだと思ったとき、礼央奈が舞台を下りた。顎をあげ、煌めく強い視線で観客を従わせる。一瞬の出来事だった。
 礼央奈がこちらに歩いてくる。歩いているはずだが、躍動感に満ちた足取りと女王然とした微笑み、それに光るドレスが、まるで飛んでくるように見せた。

「まずいぞ」
「援護頼む」

 金城も察したらしい。
 礼央奈がスカーフを外し羽衣のようになびかせ、俺の首にかけた。歓声があがる。礼央奈は獲物を捕らえた肉食獣のように笑い、俺につないだ首輪をひっぱる。そうして舞台上まで連れてこられた。礼央奈は沙弓から傘を奪い、俺をゴンドラに乗せ隣に座った。
 音楽は続いている。沙弓が雨に濡れるのを楽しむように踊っている。店内に目を走らすと、金城は元いた場所から消えていた。遊び人だが命は預けている。

 礼央奈が傘を開いた。小さな世界に閉じ込め顔を寄せてくる。
 礼央奈はもう笑っていなかった。

「沙弓は渡さない」

 見た目通り、強い声。だが微妙に筋書きが違う。

「殺すのは君だ」
「いいえ。聞いて。私が依頼を受けたの。磨弓は沙弓の父親を殺した。二人目も沙弓にとってはいい父親だったけど、死んだ。沙弓は母親を憎んでいるし恐がっている。あの子を助けたい。協力して」
「金をもらった」
「私たちの金」

 礼央奈の言う事にも一理ある。藤上家の財産は婿養子の父親と直系の礼央奈が守っている。磨弓には儚い美貌しかない。俺たちに支払われた金の出所は、この女だ。

「間抜けな父親のせいだろ」

 呆れが口から洩れた。すると予想に反して礼央奈は笑った。

「沙弓は子どもだった。召使にしてくれたら一生無償で働くと言うから、必要ないと言ったの。だって可愛いでしょ」
「沙弓を買ったのか」
「違う。妹が欲しかったの」

 沙弓か。義妹を溺愛しているのが純粋な笑顔からわかる。だが俺の脳裏には磨弓の顔がちらついた。沙弓は母親に瓜二つだ。中身もいずれ似てくる。いや、もう母親を越えたのかもしれない。礼央奈は情に弱そうだ。

「わかった。で、俺たちは失業」
「うちへ来て」
「へえ、お兄ちゃんも欲しいのか」
「門番」
「嘘。家に入れてくれないの?」

 礼央奈が唇を噛んで笑った。悪戯っぽい表情につられる。

「身辺調査しなきゃ」
「いいよ。腕には自信がある」
「名前は?」

 ゴンドラが動いた。礼央奈が雷神の顔で傘を放った。

「播谷守」
「ハリヤね」
「守だ」

 俺の首に腕を絡め、脚を組む。細い爪先がゆれる。
 ──んん、眩しい。
 


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