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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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テロリストたちのダンス

16/07/06 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1119

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犯人たちが百名の人質とともに、国際ダンスコンテスト会場にたてこもってすでに5時間が経過した。
各国から集まった踊り手たちが、この日のために磨きに磨いたダンスを披露している最中に、自動小銃を構えた7名の男女たちが会場内にとびこんできて、天井むかって発砲した。それからおこった大混乱の様子を数馬は、フロアの隅にうずくまりながらふりかえっていた。
最初はなにがなんだかわからなかった。彼はそのとき理恵を相手にジルバを踊っていて、そろそろ佳境に入ろうかという矢先の出来事だった。武装した闖入者に、周囲は騒然となった。
犯人たちにいわれるままに、フロアの片隅にみんなはいっしょにかたまった。顔半分を布で覆った一人が、スマホを耳におしあて、誰かにむかって声高にしゃべっている。その会話の内容から、人質と交換に収監されている仲間の解放をもとめていることがわずかにききとることができた。
「私たち、どうなるのかしら」
理恵が数馬の耳元でささやくようにいった。その唇はいまもかすかにふるえていたが、5時間の経過がいくぶん、彼女におちつきをとりもどさせていた。
「おそらくいまじぶん、この建物の周囲には、大勢の特殊部隊がとりかこんでいるはずだ。犯人たちの隙をみて、飛び込む機会をうかがっているにちがいない」
政府が犯人たちの要求に応じるとは思えなかった。だとしたら、強行突破の道しかありえなかった。
「かれらが、しびれをきらさなきゃいいけど………」
理恵はこわごわ、これまで審査員が座っていた椅子に陣取った犯人たちが、出入り口と窓、それにこちらに銃口をむけているのをみやった。
と、そのなかの一人がたちあがったと思うと、踊り手たちに用意されたボトル置き場にいって、冷えた水をごくごくとのみだした。五時間のあいだ、緊張をしいられていたみんなは、そのときはじめて喉の渇きをおもいだしたように、かれの様子をくいいるようにみつめた。
水をのみおえた女が、片手でみんなを呼ぶようなしぐさをみせた。おずおずと、ためらいがちに一人がボトルにちかづいていった。そして女がうなずくのを確認してから、キャップをあけて水をのみだした。ほかのみんなも集まってきて、つきつけられている銃に神経をとがらせながらも、体がもとめるままに水をのみだした。
そのことがあってから、犯人たちと踊り手たちのあいだに、これまでとすこし異なる空気がながれはじめた。とはいえ、例のスマホをもつ男は、相変わらず強い口調で要求をとおそうと躍起になっていて、いつまた一触即発の状態におちいらないとは誰にも断言できなかった。
犯人たちのなかに女はもう一人いて、数馬はさっきから、この女が踊り手たちの煌びやかな衣装に興味を示しているのを感じていた。みんなが水をのんでいるとき、この女がつま先立ちになって、体でリズムをとっているのもみえた。
「理恵、踊ろう」
「なにをいってるの、こんなときに」
「かれらに、ダンスのすばらしさをみせてやるんだ」
理恵はまだ、彼のいわんとするところがのみこめない様子だった。が、生きていることの歓びを全身で表現するのがダンスなら、その生命を武器によって否定しようとしているかれらにむかって、踊ってみせるのが自分たちにできる最大の抵抗だということに気がついた。
「勝手に動くな」
しかしその声にも怯むことなく、数馬と理恵はフロアの中央に立った。それをみていきりたつ犯人たちもいたが、二人がためらうことなく踊りだすのをみた例の女が、手をたたいて歓声をあげると、ほかの連中も数馬たちに注目するようになった。
いつ撃たれるかもしれないという恐怖はたちまち雲散し、命の底からわきおこってくる躍動感に身をまかせて数馬と理恵は、一心不乱に踊りつづけた。
これにはフロアにいた全員が魅了され、誰もが感動に心ふるわさずにはおれなかった。
かれらの踊りにあわせて誰かがリズムにあわせて歌いだすと、つぎつぎと周囲からも歌声があがった。各国から集まったメンバーだけにいろんな国の言葉がいりまじったが、そこには犯人たちの口からでたものもまじっていた。
いきなり、ガラスの割れるけたたましい音がひびき、たなびく煙とともに投げ込まれたものが広いフロアの上をめまぐるしくかけめぐった。
数馬と理恵が愕然としてその場にたちつくしたとき、窓からいっせいに飛び込んできた特殊部隊の姿が見えた。
すさまじい銃声のなか、数馬は理恵を抱き抱えるようにして壁際まではしり、ほかの人たちとともにその場にうずくまった。
もうもうと煙がさかまくなかに、犯人たちとおもわれる人影がうかびあがった。銃弾をあびて、次々と身をよじらせ、またそりかえらせて、白煙の海にとけこんでいくその様子は、数馬の目にはまるで、幻影のなかでダンスを踊っているようにみえた。


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