1. トップページ
  2. 星に願いを

せんさくさん

せんさくといいます。ふっと浮かんだ言葉に少し文章を付け足して短いお話を考えるのが好きです。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

星に願いを

16/07/06 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 せんさく 閲覧数:624

この作品を評価する


夜中の1時を過ぎた頃、私は幼馴染みの美里に道でバッタリ出くわした。
「こんな遅くに何やってんの?」
私が聞くと美里は空を指差した。
「星。見に行こうと思って。」
「星?」
空を見上げるとなるほど雲が少なくて星がよく見える。
「そっちはこんな遅くに何やってるの?」
「あんまり暑くて眠れないからアイス買いに行ってた。」
私はアイスの入ったコンビニの袋を目の前に持ち上げた。
「何アイス?」
「シロクマ。」
私の答えに美里は「いいね」と微笑んだ。

私と美里は小学生の頃からの幼馴染みで、高校3年生の2月に恋人同士になった。
バレンタインデーに美里からメールで告白されて、私は「よろしく」と返事を返した。

「ところで美里さん、こんな夜遅く1人で出歩くのは危ないですよ。」
「龍ちゃんもね。」
私は苦笑いしながら「そうですね」と答えた。
「でも、もう大丈夫だね。2人になったから。」
美里が右手でピースをしてにやりと笑う。
「はいはい、そうですね。」
私は適当な返事をすると家に向かって歩き出した。
そんな私を美里は呼び止める。
「龍之介。星、見に行こうよ。」

結局、私は美里の誘いを断り切れなかった。
「ここの河原ね、星がよく見えるの。」
「今日の感じだと家の窓からだってよく見えると思うけどね。」
「まぁ、騙されたと思って座りなよ。」
美里はゴロゴロとした石の中から少し大きめの座りやすそうな石を見つけて腰を下ろした。
私もその隣の石に腰を下ろす。
「ね?」
空を見上げながら美里は誇らしそうに笑っている。
確かにここは建物も木も電線も空を遮るものが何もなかった。
河原には街灯もないため、星がチラチラと揺れているのがわかるほどよく見える。
「星が揺れてダンスしているみたいでしょう。」
「そうだね。」
ザーザーゴウゴウピチョピチョという川の流れる音がメロディのように聞こえてくる。
私と美里はシロクマを食べながらしばらく黙ったまま星空を見上げていた。

「どうして、星を見に来ようと思ったの?」
シロクマを食べ終えたタイミングで私は美里に聞いた。
「ちょっと眠れなくて、窓から空を見たら星がキレイだったから。」
「眠れなかったなんて珍しいね。マリッジブルー?」
美里は照れくさそうに「どうかな」と首を傾げた。
美里はこの秋結婚することが決まっている。相手は私ではない。

私と美里は大学1年生の5月に仲の良い幼馴染みに戻った。
子どもの日に別れを切り出したのは美里の方だった。
「好きでもないのに付き合ってもらうの、なんだか申し訳ないなと思って。」
美里はヘラヘラと笑いながらそう言った。
私は恋人になる前も恋人になってからも恋人でなくなった後も、一度も美里に好きだと言わなかった。
好きでなかったわけではない。ただ、なんだか言えなかったのだ。
別れを切り出された時、私は「残念だ。」とだけ返事をした。
今思えばあの時「好きだよ」と一言言えばよかったのだと思う。
そうすれば、美里と結婚するのは私だったかもしれない。
そうでなかったとしても、私の心はもう少し晴れやかだっただろう。

シューッと空を切るように流れ星が通り過ぎる。
テレビで見るようなくっきりとした流れ星だった。
「かっこいい。」
「かっこいい。」
ため息混じりの声が2つ重なる。
美里は目を輝かせてこちらに顔を向ける。
「見た?今の。すごくない?」
「ああ、すごい。」
「かっこよかったぁ、今の流れ星。」
「願い事すればよかったな。」
「まぁ、いいんじゃない。」
美里はのんびりと言った。
「あんな流れ星なかなか見られないもん。それだけで充分だよ。」
「ああ、確かに。」

星達はさっきよりも少し低い位置でチラチラと踊り続けている。
美里はもう一度流れ星が流れないかと空を見上げている。
「美里。」
「ん?」
美里は空を見上げたまま返事をする。
ずっと言いたくて言えなかった言葉。
今、美里に言ってもいいだろうか。
私は美里の横顔を見つめた。
いや、この言葉は口に出さない方がいい。

「なんでもない。」
「ふふっ、なにそれ。」

私は空に目を向ける。
明るくなりつつある空で星達は最後のダンスを披露する。
私は目を閉じ、そっと願う。
どうか、私と美里の2人だけのためにもう少し踊っていてはくれないだろうか。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン