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せんさくさん

せんさくといいます。ふっと浮かんだ言葉に少し文章を付け足して短いお話を考えるのが好きです。

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コンビニ

16/07/04 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:3件 せんさく 閲覧数:680

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平日の朝6時40分。私は決まって近所のコンビニへと立ち寄る。買うのはおにぎり2つと菓子パン。それから缶コーヒーだ。おにぎりの具は梅干しとこんぶ。菓子パンはメロンパンだ。缶コーヒーはその場で飲むために、おにぎりと、菓子パンは昼食用に買っている。
レジに立っている人も決まっていて、高校生くらいの男の子。名札には吉川とある。学校に行く前の朝バイトだろうか。社会人も大変だが、高校生もそれなりに大変らしい。
「あの、これ、お昼ご飯っすか?」
私がいつものようにおにぎりと菓子パンと缶コーヒーを置くと吉川くんが話しかけてきた。
「え、あ、ああ、そうだけど。」
突然の出来事に無駄にどぎまぎしてしまう。私が常連さんだから話しかけてきたのだろうか。それともふと疑問に思ったことが口に出るタイプなのだろうか。私はへらっと作り笑いを浮かべてみた。
「栄養、偏るっすよ。あと、少なくないっすか?」
「え、ああ、そうかもね。」
でも、これは私のルーティーンなのだ。中学生の頃からお昼ご飯はこれと決めていて、なんだか今更変えられない。
「弁当にしたらどうすっか?」
「いやぁ、俺、料理は苦手だし、あいにく作ってくれる相手もいないんだよ。」
中学生の時からね。という最後の一言を私は飲み込んだ。私が小学校を卒業すると母は正規社員として働き始めた。家を出るのは私より早く、弁当を作る暇もなかったらしい。机の上には毎朝500円玉が置いてあり、私はそれでおにぎり2つと菓子パンと麦茶を買っていた。
「まぁ、手作りが理想っすけど、そうじゃなくてコンビニ弁当。」
吉川くんはレジから見えるお弁当コーナーを指差した。
「え、ああ、そうだよね。」
私は苦笑いする。ここはコンビニなのだからコンビニ弁当を薦められるのが当たり前だろう。なんで手作りの弁当を連想してしまったのか。
「最近のコンビニ弁当はすごいんすよ。栄養バランスとか考えて作られてるんす。それに安い割にボリュームがある。」
吉川くんは「一人暮らしや学生の味方っす」と付け足して、歯を見せた。普段、表情を変えず淡々と接客する彼を大人っぽいと思っていたが、こうして笑うとまだあどけなさが残っている。
「君はよくコンビニ弁当を食べるの?」
「時々っすかね。俺は自分で弁当作るんで。」
これは意外だ。この子自分で弁当作れるのか。私は感心して「すごいな」とつぶやいた。
「俺、こう見えて栄養士目指してるんすよ。」
これまた意外。それで、栄養がどうのとか言っていたのかと私は合点する。
「来月からはそういう大学に通うんすよ。ちょっと遠いんで、一人暮らしするんす。」
「へぇ、そうなんだ。がんばって。」
「はい、がんばるっす。」
吉川くんは照れくさそうに頭をポリポリと掻いた。
「俺、今日でここのバイト最後なんっすよ。だから、お兄さんと話したかったんす。」
「え?」
吉川くん、まさか…。私は一瞬どきりとするが、次の彼の一言で我に帰る。
「ずっと、この人栄養偏ってるって気になってたんっす。」
「あ、ああ。」
私があははと笑うと吉川くんは不思議そうに私を見つめた。
「じゃあ、明日からは弁当も買ってみるよ。」
「今日は買わないんっすか?」
「うん。今日は中学生から続いたこの昼飯の食べ納めってことで。」
会計を済ませると私は「じゃあ、元気で」と軽く手を振った。
「ありがとうございましたぁ。」
いつもより少しだけ丁寧な吉川くんの挨拶を聞いて、コンビニの外へ出る。まだまだ冷たいが、少しだけ春の予感を感じさせる3月の風が吹いている。
明日からこのコンビニに吉川くんはいなくって、私は初めてのコンビニ弁当を買うんだろう。
こうして、少しの出会いが少しの変化を生んで、私の人生は続いていくのだ。
明日はどんな弁当を買おうか。ハンバーグか焼肉か。栄養のことを言われたから野菜のたくさん入ったものがいいだろうか。吉川くんにオススメを聞いておけばよかった。


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このストーリーに関するコメント

16/07/05 クナリ

爽やかでほろ苦い、お弁当をめぐる人間模様が良かったです。
コンビニ弁当は食べたことがないのですが、店員さんがお薦めしてくれたらなお美味しそうですね。

16/07/05 せんさく

クナリさん
コメントありがとうございます。
爽やかでほろ苦いなんて…素敵な褒め言葉をありがとうございます。
ほんの些細なきっかけでほんの少しだけ変わっていく日常を描きたくてこんな作品になりました。
実は私もコンビニ弁当をあまり食べたことがないのは秘密です。

16/07/22 タック

たとえ小さな出会いでも、人というのは確かに影響し合っているんだな、と感じられるような作品でした。じんわりとした温かさが、とても心地よかったです。
今後、主人公の栄養状態は良化していくのでしょうか。そうなればいいな、と読んでいて思いました。

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