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笛地静恵さん

SM小説家。妄想家。言葉遊び師。 三和出版『女神の愛』「女神帝國盛衰記」連載中 他

性別 男性
将来の夢 歌集、句集をだすこと。
座右の銘 永遠の未完成、これ完成(宮沢賢治)

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飛礼祭

16/07/04 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 笛地静恵 閲覧数:959

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 左右の翼への力の入れ方は、均等でなければならない。頭ではわかっている。しかし、どうしてもできない。八転九倒している。このままでは、みなに迷惑をかけてしまう。飛礼祭は八日後だ。
 オナガは、何もかも投げ出したい気分だった。やめる。そう言いたかった。しかし、口に出せない。みんなの気持ちがわかるからだ。
 いつかはできる。そのときを待っている。頭上の光輪をふるわせて、びんびんと伝わってくる。頭痛がするぐらいだ。輝きもにぶった。
 オナガは、それなりに努力はしてきた。二つの太陽。公転する八つの惑星。軌道を忠実に真似る。太陽にいます八百万の神への讃歌である。
 オナガは、第五惑星を割り当てられている。内側の第四惑星と、同調しなければならない。そこにコサギがいる。オナガの進歩のない練習と、気長につきあってくれている。同じ動きを何回も繰り返した。
 オナガは、生まれつき、左側の翼が右側よりも、一回り小さい。色も純白ではない。かすかな灰色を帯びている。
 卵の中にいるころ。敵の尾族に襲われた。母親役のムクドリは、オナガを守って命を落とした。オナガの卵は、連れ去られた。あやうく八つ首の黄金竜の餌にされるところだった。
 父親役のツグミの光の輪が八面七臂の奮戦をした。助けだしてくれた。しかし、冷たい石の洞窟の内部で、オナガの卵は手荒い扱いを受けた。柔らかい翼の根元に傷が入った。
 今にいたるまで、完全に機能が回復することはなかった。いろいろな方法で鍛えて来たが、左右の力に不均衡が残存する。
 普段の生活では、特に支障を感じることはない。しかし、飛礼祭は正確な動作を要求される。わずかな重心の傾きが大きく響いた。
 唯一の救いは、コサギがオナガを信じてくれていることだ。ふたりは、幼ななじみだ。
 コサギは、幼生体である。二つの乳房も、まだふくらんでいない。股間の性器も、皮をかぶっている。毛も生えていない。しかし、動作は敏捷だった。力も強い。たまにとっくみあいをする。オナガの筋肉の盛り上がった二の腕の羽交い絞めから、するりと白い体が抜け出る。関節が柔らかいせいもある。が、その七臓八腑の肉体は、強靭な発条を秘めていた。押さえきれなかった。
 金髪の頭の回転も鋭い。決断がはやい。碧眼が光る。
 今日は、オナガの左の灰色の翼を縛った。それがあるから、動作がぎこちなくなる。はじめからないものとして扱おう。そういう判断だ。自分も同じにさせた。右の翼だけで飛んだ。それで惑星の飛礼祭を踊った。また舞い降りた。学校の八面玲瓏塔の周囲を、螺旋形に飛翔した。左に回り、右に回った。白い積乱雲の峰を、成層圏に近い高度まで登った。ほてった体に、冷たく薄い大気が気持ちよかった。虚空の大樹から甘い桃の実をもぎって食べた。
 夜が訪れていた。練習に夢中になっていた。時を忘れた。夜は尾族の世界である。
 二人は、ねぐらとしている不死鳥山脈に下降していった。
 途中で若い黄金竜に出会った。一匹だけである。迷い竜だ。左の翼が裂けていた。群れの長と戦って、敗れたのだろう。飛び方がよたよたしている。それでも、翼族の匂いに気がついた。空腹のようだ。
 八つの口から火炎をふきかけてきた。だが狙いがぶれている。容易に火線を避けることができた。このままでいくと、竜は鳳凰山の国境を越えてしまう。翼族の衛兵が来る。オナガは、黄金竜に哀れを感じた。自分の同類に思えた。
 オナガは果敢に火をかいくぐった。長い黒髪がたなびく。竜の八つの首のひとつに飛びついた。付け根にある銀色の鱗が、彼らの弱点だ。そこを刺激する。自由に操れる。尾族は、この方法で竜を家畜として使役する。オナガの光輪が、まばゆく輝いた。蓬莱海に出る方向に力で転針させた。西に向かう高速の気流に乗せた。惑星の湾曲に太陽神が沈んでいく。
 竜は海流の彼方の島で、新たな竜の群れを見つける。迎えられるかもしれない。みるみる遠ざかっていく。
 オナガは満足していた。それから、自分がこの危険な行為のすべてを、片方の翼だけでやってのけたことに気がついた。コサギが左の翼を縛った縄をほどいてくれた。オナガは自由にはばたかせた。荒療治が功を奏した。感覚がつかめた。左右の翼のみにこだわっていた。七臓八腑の全身を活用するのだ。翼族は、翼の力だけで飛行しているのではない。光輪が彼らの肉体を太陽神へと引き上げるのだ。コサギがいたからできたことだ。何かあれば適切に対応してくれるだろう。信じていた。
 紅玉の海を見下ろしていた。オナガは飛礼祭が楽しみになってきた。
 飛礼祭は彼等に勝利の美光をもたらした。オナガはコサギの小さなからだを左右の翼で抱擁した。コサギは興奮していた。皮をかぶっているのに、それはオナガよりも太くて長かった。やがて二人の巣を作る。それを約束した。


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