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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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王者のつぶやき

16/06/30 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1130

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ここでは俺が王者だ。
かれは胸をそびやかして豪語した。
それにしてもここは、なんて窮屈なんだ。
かれは背をのばして、あちらをみやった。
すると、いやにまんまるの、異常なまでの紅潮した顔が目にとまった。
かれはおもわず生唾をのみこんだ。
「どうしました。涙ぐんだりして」
隣にいた昔懐かしアフロヘヤの、これまたいやに顔色のあおざめた奴が、きゅうに声をかけてきた。
「いまのいままで、あんなに威勢のよかったあなたに、涙はふさわしくありませんよ」
「みられてしまったか。おまえにもあれがみえるか、あそこのあの………」
「どれどれ、ああ、あの丸い顔の」
「あの顔に無数に刻みこまれた深い皺をみろよ。これまでひとかたならない苦労を重ね、辛酸に辛酸をなめてきたんだろうなと思うと、ついホロリときちまった」
「みかけによらず、人情派なんですね」
「みかけによらずだけ、よけいだ。おれは王者だぞ。王者には弱者にたいするおもいやりがなくてどうする。ところで、おまえはどうしてそんなに顔色がわるいんだ」
「これで健康なんですがね」
「信じられない」
するとそのときどこかから、
「うるさいわね。なにをわいわい騒いででいるのさ。まったく、ゆっくり寝ることもできないじゃないの」
みると、卑猥なまでにまっかな唇をしたのが、アフロヘヤの頭ごしにこちらをにらみつけている。
「これはとんだ失礼を」
弱腰になるアフロヘヤをみた王者は、憤慨した。
「なにを謝っとるんだ。こら、うるさいとはなんだ」
「うるさいから、うるさいといってるのよ」
「なにを」
「まあ、まあ。王者はつねに寛大に」
かれらのあたりをはばからない大声に、それまで沈黙をまもっていたまわりの面々も、にわかにざわつきはじめた。
「なんだ、なんだ。もめごとか」
「いったいどうしたというの」
が、そのとき突然おこった、キャーというけたたましい悲鳴に、とたんにあたりはぴたりとしずまりかえった。
みれば、いまのいままでケンカ腰でいたあの赤いのが、ある一点を見据えて怯えたように震えている。
王者とアフロヘヤがそちらに目をやると、これはなにか、無数の触手がいやらしくからみあった得体のしれないものが物陰にひそんでいるではないか。
「でた、原子怪獣あらわる。みればみるほど気色のわるい怪物だ。あなたの出番がきました。さ、王者、はやいこと退治してください」
「よ、よし。ここは俺にまかせろ。なに、あんなやつ、一撃でノックアウトだ」
「その意気、その意気―――さ、はやく。なにをぐずくずしているのです」
「そうせかすな。まずはおまえ、おれにかわって相手をしてこい」
「なんで私が。わ、おさないでください」
するとそのとき、頭上からなにやら二本のさきの尖ったものがおりてきたかと思うと、あの怪物の頭をぎゅっとはさみつけるなり、かるがるともちあげてしまった。そしてみるみる高みにまであげていき、いったいそれからどうなったのか、あまりに離れすぎたために誰にも見届けることはできなかった。
王者もみんなも、何が何やらわけがわからず、しばらくは茫然としていた。だが、怪物の脅威はとりのぞかれたのだ。しだいにあたりの雰囲気は明るくなって、そこここで楽しげな笑い声があがるようになった。
「どうだ」
「なにがどうだなんですか」
その理由は説明せずに王者は、まるでいまのできごとが自分の手柄でもあるかのように、アフロヘヤを上から目線でながめた。
そのかれの目がふと、例の苦労に苦労をかさねた丸顔のうえにとまった。とたんにごくりと生唾をのみこんで王者は、
「あんただけ、ひとつも嬉しそうじゃないようだが、それはどうしてだね」
「あたしにゃ、すべておみとおしさ。いままのあたりにしたできごとは、ここにいるみんながたどる、運命なんだとね」
「なんだって」
王者がいろめきたったとき、横でアフロヘヤがすっとんきょうな声をあげた。あっとおもったときはその青々した体は空中にもちあげられていた。さっきの怪物のときとおなじに、やはり先の尖ったものがかれをはさみつけている。
みているうちに、つぎつぎと周囲の連中がやつぎばやに空中にあがっていくのをみた王者が、
「いまにきっと、この王者の俺が、おまえたちを助けてやるからな」
「なにいってるのさ。あんただって、すぐにもう」
とその声がおわらないうちに、王者は体をがっちりはさみつけられ、ヒョイともちあげられていき、たちまち人の口のなかにポイとほうりこまれた。
卵焼きがたべられるのをみても、べつに梅干しはかなしまなかった。
いずれは飯粒ひとつにいたるまでみんなたべつくされてしまうのだ。小だこの煮物、ウィンナーに、ブロッコリー、さいごにこのあたしさ。たべられてなんぼのわれわれだ。せめて人さまの栄養になるよう、神様にお祈りでもささげようじゃないか。


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