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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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頭蓋弁当のアマミヤ

16/06/28 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:16件 クナリ 閲覧数:1776

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 高校で私と同じクラスのアマミヤのお父さんが、脳の全機能を完全に代替できるICチップとやらを発明した。
 あまつさえ、実の息子のアマミヤを実験台にしたため、息子の脳味噌は頭蓋骨から取り出され、代わりに親指の爪ほどの黒いチップが脳幹の位置に据え付けられた。
 アマミヤの頭蓋骨の中身は、ICチップ以外の部分は、無意味な空洞となった。
 科学者である彼の父親は、無駄、無意味、非効率といったものを心から憎んでいた。
 結果、アマミヤの頭蓋骨は額から上を切り取られてお椀のような形状になり、効率的なことに、その中にはアマミヤ自身の昼食が詰められた。
 頭蓋骨には蓋がなく、ラップを張ることで弁当の乾燥や埃の付着を防いでいる。
 弁当箱いらずである。

 私は悶々と考えていた。
 完全に代替ができようが何しようが、脳味噌がないのなら、あいつはもうアマミヤとは呼べないんじゃないのか。
 姿形は同じ(というか本人)であっても、あれはもうアマミヤとは似て非なる存在ではないか。
 アマミヤは、少なくともはたから見ている分には、脳味噌があった頃と全く変わらなかった。まじめに授業を受け、発表も積極的にする、勉強嫌いの私とは対照的な優等生だ。
 最初に同じクラスになった時は、まじめなだけのつまらなさそうな奴に見えた。
 けれどその整った横顔と、静かな話し方が妙に印象的で、いつの間にか私はアマミヤをしょっちゅう目で追うようになった。

 昼休み、屋上に行くと、片隅のベンチでアマミヤが昼食を取っていた。ここで弁当を食べる癖も、脳味噌があった頃と変わらない。
 ただ、アマミヤが自分の頭のラップをはがして取り出したサンドイッチを食べている姿には、なかなかにへこまされた。
 手術したクソ親父を、殺してやりたかった。唇を噛んで、涙をこらえる。
 こんな弁当の食べ方が、一般的になってたまるか。効率なんて、くそ食らえだ。
 屋上には他に人がいない。私はアマミヤの隣に腰掛けた。
「やあ。君も、僕はもうアマミヤではないと思う?」
 声も話し方も、以前と同じ。
「……分かんない」
「手術は、僕が望んで受けたんだ。本当にチップが脳の代わりをできるなら、僕という人間を僕たらしめているものはなんだろう。人間とは、何なんだろう。その答の一つが、 手に入るような気がして。それに、医学に大きく寄与できるし」
「私は、人間が何でも、どんな病気にかかっても、アマミヤの脳味噌は、チップじゃない方がいい」
 図らずも、真剣な声になった。
 そしてその瞬間、私のお腹が鳴った。
 クソ親父より先に、自分をブチ殺したくなる。
「よかったら、食べる?」
 アマミヤは、頭の中からポテトサンドを取り出して私に差し出した。
 私は尋常でない抵抗を感じたが、断ったらアマミヤを傷つけることになると思い、ありがたく頂戴した。
 そのポテトサンドを噛んだ瞬間、私の歯の間で、バキンと音がした。
 何事かと吐き出してみると、それは、親指の爪ほどの面積の、薄くて黒い板だった。
 何かの電子部品のようだ。
  噛んだせいで、割れてしまっている。
 どう見ても完全に壊れていた。
 これは――何だ。
 まさか。
 アマミヤは、こちらを見たまま、固まっていた。
 まるで、動力を抜かれた人形のように。
「ちょっと……嘘……」
 寒気が背中を貫く。
 全身が総毛立った。
 涙腺に痛みが走る。
「いやあああああッ!――……」
「そんな所に紛れてたんだ、予備のチップ。ごめんね。申し訳なさと驚きで硬直してしまったよ。歯、大丈夫?」
「――あああああアマミヤお前ブッ飛ばす!」
「まあまあ。お詫びに、ツナサンドもどうぞ。僕が作ったんだよ」
 無邪気な笑顔に、毒気が抜かれた。
 これで、……脳味噌がないなんて。
「この実験の結果は、未知数だ。でも、確かに分かっていくことはある。たとえば、僕は手術を受けたことについて正しい選択をしたと思っているけど、君に脳をチップ化して欲しくなはいと思っている。不思議だね。けどそれも、今の僕の答だ」
「ほ……ほー」
 私には、か。理由を聞いてみてもいいものか。
 でも、期待してるのとまるで違うことを言われたらどうしよう。本人の言う通り、今のこいつは色々未知数なのだから。
「ていうかアマミヤ、そもそもお前がそんな手術受けなけりゃ何も悩まずに済んだんだよ。何が僕の答だこの野郎!」
「しょ、しょうがないだろう、それが僕なんだから! 首絞めないで!」
 誰と、どこで、どんな風に、何を得るのも、私たちの選択次第。
 ――でも、限度はあるよなあ。
 アマミヤの頭を見て(首を放しながら)、ため息をつく。
「どうしたの?」
 なんでもないわと、私はアマミヤの背中をぱんとはたいた。
 ICチップが外れないように、ちょっと弱めに。


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このストーリーに関するコメント

16/06/28 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。
クナリさんのSFは意外でした。
そして、これ、いわゆる哲学的ゾンビ問題じゃないですか!

色々と思考が回って困ります(笑)
アマミヤが哲学的ゾンビなのか、人間なのかは、主人公の視点からでは明確に判別できないんですよね。

弁当を食べ終わった後の頭蓋空間をどう使おうと、父親が考えているのか。そこが気になります。例えば、何かの栽培とか?

16/06/29 ノベ・ツムギ

とても面白かったです。
世紀の大発明にはわりと少なくない頻度で実験台になる肉親がいるものですが、アマミヤ君、不憫ですね。ICチップのために差し出したわが身が、お弁当箱にまで……素晴らしい!
やっぱり、キムチとか入れるのは危険でしょうか?
恐らくは、ICチップの実用化に際して「頭しめてください」と言い出す人が出てきますネ。

16/06/30 クナリ

にぽっくめいきんぐさん>
答がでないとわかっていながら、それでも自分の中で何度も問いかけてしまう命題を、ちょうど抱えたキャラクタを見つけたので主役になってもらいましたッ。
頭の中を、何に使うかは、もうその時その時の状況で小物入れ化しそうです。
夏はポカリ、冬はマスクやカイロ入れたりとか。

海月漂さん>
自分というものを規定するには他人が不可欠ですが、それでも「これが自分!」と言い張れる力を自然に持っている人は魅力的です。
できれば、それが肯定されるとなおいいのですけども。
汁物は、間仕切りがあるので大丈夫です。きっと高性能バランとかも使ってるはず!
たぶん丸洗いとかもできるはず。

ノベ・ツムギさん>
ありがとうございます。
アマミヤはアマミヤで独特の思考回路がありそうですが、やっぱりちょっと変なやつです。
キムチより、ワサビのように揮発式のものの方が落ち着かなそうです。
頭の蓋をどうするか、まだ検討の余地はありそうです。開閉式にできればいいのですが、世の中の蓋というものは実によく紛失されますし。
傘みたいにワンタッチ式にすると、金具が壊れたときに落ちちゃうし……。

16/07/02 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

人間とは本当に何なんだろうかと深く考えさせられました。
この状況で自分を強く持ち続け日常に溶け込むアマミヤくんと「私」。
シュールなのに、爽やかな青春ものに仕上がっている所がすごいなと思います。

16/07/03 クナリ

篠川晶さん>
まともに「弁当」というものに向き合った時、自分にはなんの物語も浮かばなかったのでこのような話に(^^;)。
自分は恐らくSFはあまり得意ではないのですが、異様な設定も登場人物が(出来る限り)消化することで、設定よりも人間ドラマとして仕上げられることがあり、そういう方向ならまともなものが書けるのかもしれない、と思います。
コメント、ありがとうございました!

冬垣ひなたさん>
まったく異様な状態になってしまったキャラクタでも、ものの考え方や感じ方が読み手側と(おおむね)同じというか納得行くものなら、主役級の存在として物語の構成人物になれると思うんですよね。
自分とはなんなのか、人間とは何なのか、問いに対する答えが見つかる日は恐らく来ないのでしょうが、個別具体的な相手に対しては何らかの答えを出さねばならない時があると思います。
コメント、ありがとうございました!

16/07/05 石蕗亮

拝読致しました。
読んでて、ああああああああってなりました(笑)
クナリさんのこのノリ好きです。
タイトル見たとき、前作の便所飯を連想しましたがノリ的にはスカートの中の猫的でワクワクしながら読ませて頂きました。
いや〜、毎度面白いですね。ありがとうございます!

16/07/05 せんさく

読みやすく、とても面白かったです。
最初、頭蓋骨の中にお弁当はちょっと…と思っていましたが、違和感を感じている「私」とは裏腹にアマミヤが当たり前のようにそこからおかずを取り出すものだから、ん?ん?と思いながらもそれを受け入れてしまっている自分がいました。

16/07/07 クナリ

石蕗亮さん>
たとえどんなに荒唐無稽――もとい、極端な状況であっても、登場人物が当然のように受け入れてくれる限り、彼らなりのリアルは存在させられると信じています(^^;)。
もともと内容のないというか、ドタバタしているだけのコメディって書くの好きなので、これからも隙をついて放って行きたいと思っていますッ。

せんさくさん>
気になるのは、アマミヤの頭の内側がどうなっているのかなんですよね…金属やプラスチックでカバーされているのか、赤かったり脈打ったりするものがむきだしなのか…(お前)。
小洒落た感じに内装出来るんなら、それはそれで面白いのかもしれませんけども。
ただ、周りから見たらおおごとだったり、逆にどうってことなかったりすることに、本人たちはまるで逆の感覚を持ちながら暮らしているというのはいろいろあり得ると思いますので、そのあたりのリアリティが表現できればいいのですが。

16/07/20 タック

頭蓋弁当、と一見猟奇的なタイトルでありながら、内容はその実ポップさに溢れていて、そのポップさのなかに垣間見える確かな苦しみも、キャラクター性も思考性も哲学性も、ひどく卓越した作品であるように感じました。クナリさんの新たな素晴らしい一面を見たように思いました。大変面白い作品、ありがとうございました。

16/07/21 クナリ

タックさん>
お久し振りでございますッ。
そしてほめちぎりではございませぬかッ――ありがとうございます!
でろでろのホラーにすることもできましたし、それはそれでいいかも……と思ったのですが、時空モノガタリ様に投稿するのにはふさわしくないグロさになりそうだったので、こちらのカラーで仕上げてみました。
エンタテインメントのあり方、限りなく多様なはずなのですが、不才のために取れる手管は限られており、それでもできる限りの中で楽しんでいただければそれに勝る喜びはありませんッ。

16/07/31 つつい つつ

シュールな設定だけど、アマミヤくんがほのぼのしてて面白い、かつ、読みごたえがあって、楽しかったです。

16/08/02 クナリ

つつい つつさん>
シュールな世界観を当たり前のように扱うと、世界観の説明とかをしなくていいので色々助かります( ^^;)。
割りと深刻な状況だとは思うのですが、キャラクタが自分でそれをカバーするという構成は書いてる方も気が楽になりました。
コメント、ありがとうございました!

16/08/11 光石七

ぶっ飛んだ設定を違和感なく日常にしてしまいつつ「人間とは何か?」という深い命題も込められていて、ほのぼのとした青春の爽やかさもあって……
すごい! 素晴らしい! ブラボーです! ←語彙が貧弱
楽しませていただきました!

16/08/12 クナリ

光石七さん>
自分の作品は、とっぴな設定を(驚いたり突っ込んだりはしつつも)そこで登場人物が流れを止めずに話が展開していくことが多いというのは、ひとつの傾向だと思います。
疑問点や生じうる問題の「説明や言い訳」に文字数を使いたくないからというのもあるのですが、おおむね、ある程度運命を受け入れるタイプの人物を主役に選ぶ癖があるのは、自分の好みがあるのかもしれません。
だからこそ、あまり深刻になりすぎないストーリーにするのも、無意識なのかも( ^^;)。
コメント、ありがとうございました!

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