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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢 プロ小説家になること!
座右の銘 焼肉定食!

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誰がために

16/06/26 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:2件 海見みみみ 閲覧数:1797

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 私は毎朝、夫のためにお弁当を作っている。彩りや栄養に気を使いつつ、夫の好物も入れて、特製お弁当の出来上がり。できたお弁当は携帯で写真を撮り、個人的に保管している。夫が帰宅して「今日もお弁当美味しかったよ」と言ってくれると、未だに喜んでしまう。
 夫のためにお弁当を作る事。それが私の楽しみだ。

 キッカケは友人の一言だった。
 とある日。ランチタイムを友人と過ごす事になり、その最中、たまたま私の作ったお弁当の写真を見せた。すると友人が予想外の反応を見せる。
「これ凄い! ブログとかに載せたら人気が出るんじゃない?」
 友人の反応に逆に私が驚く。夫のために細々作っていたお弁当が、そんな人様にウケるのだろうか。
 友人の強い勧めもあり、私はその場でブログを作り、お弁当の写真をアップした。しかし特にこれといった反応はない。
 まぁ、こんなものだろう。でもブログを写真の保管庫に使うのは便利かもしれない。それから私はお弁当の写真を毎日ブログにアップし続けた。

 変化は一ヶ月程経って起きた。急にブログのアクセス数が増え、コメントが大量につき始めたのだ。
 調べてみると、私のお弁当が大手ブログで紹介されたらしい。その効果で人が私のブログに押し寄せるようになったのだ。
『美味しそうですね!』『彩りもキレイ!』『こんなお弁当が食べられるなんて、旦那様が羨ましい』
 そういったコメントを見ているうちに私は気をよくした。日々のお弁当作りに精が出た事は言うまでもない。夫も「最近お弁当がいつも以上に豪華だね」と上機嫌だった。

 そんな事を続けて半年。二度目の変化が起こる。大手出版社からブログを本にしないかとメールが届いたのだ。これには更に気持ちが舞い上がった。
 編集さんと話し合いを何度も行い、いよいよ私のお弁当写真が一冊の本になり販売される。するとこれが驚くべき事に大ヒット。重版が次々かかり、印税がたくさん入ってきた。
 更に今度は別の出版社から声がかかり、次はお弁当の作り方をまとめた本を出版した。なんとこちらも大ヒット。
 気づけば私はカリスマ弁当主婦と呼ばれるようになっていた。

 それから私の元にはお弁当に関するたくさんの執筆依頼が入ってきた。当然仕事で忙しくなる。いつしか夫のお弁当を作る時間が取れなくなってしまった。
 だけど夫は「お前はチャンスを掴んだんだ。俺の事は気にするな」と言って私を後押ししてくれる。
 私は夫のためにお弁当を作らなくなり、夫は毎日コンビニ弁当を食べるようになった。

 仕事は執筆業だけでなく、その内テレビ番組の出演依頼が飛び込んでくるようになった。最初はローカルのテレビ局。次第に大手テレビ局からも出演依頼が入るようになり、私はカリスマ弁当主婦として更に有名になった。
 それからレギュラーでのテレビ出演が増えていき、日々撮影のためにお弁当をいくつも作るようになった。
 お金がどんどん入り、知名度も上がっていく。だけど同時に、夫と過ごす時間はどんどんなくなり、顔を合わせる日の方が少なくなっていった。

 とある土曜日のこと。
 その日私は執筆の仕事で一日家にこもり、パソコンに向かっていた。すると会社が休みだった夫が声をかけてくる。
「どうだ、久しぶりに二人で食事でも」
 それはとても嬉しい誘いだ。同時にイラつきもする。私はこんなに忙しいのに、二人で食事でもだって? そんな余裕、今の私にはない。
「これで好きな物食べてきて」
 財布から一万円札を取り出し、夫に渡す。
 この時夫がどんな顔をしていたのか、私はまったく見ていなかった。

 その日もテレビの撮影を無事終えた。今日も撮影用のお弁当を大量に作り、もうへとへとだ。
 タクシーで家に帰り、自宅の玄関ドアを開ける。すると家の中は真っ暗だった。もう夫は寝てしまったのか。そう思いリビングに向かう。するとテーブルの上に書類と手紙が置かれていた。
 離婚届け。それも夫の分だけはもう記入済みの。
 あまりの衝撃に私は意識が遠のきそうになりながら、手紙に目を通した。

「君は君の道を進んでくれ。ただ、最後に君の弁当が食べたかった」

 簡潔にまとめられた手紙。私は最後の行を見て、心の中でつぶやいた。
 あなたのためのお弁当ならいくらでも作ってあげられる。現に前はお弁当を毎日作っていたじゃない。
 そこまで考えてから、夫のために最後にお弁当を作ったのはいつだったか思い出そうとする。思い出せない。それくらいの長い月日、私は仕事に没頭し、夫の事を忘れていたのだ。
 最初は夫のために作っていたお弁当。でも、今は誰のために作っている?
 私の両目から止めどなく涙があふれた。


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このストーリーに関するコメント

16/07/20 タック

弁当は誰のためにあるのか、ということを改めて考えさせられました。しかし、こういう家庭ももしかしたら現代にはあり得るかもしれませんね。面白かったです。

16/08/11 光石七

拝読しました。
本来の動機を見失い、本末転倒になり、家庭の悲劇が。
実際にこういうことが起こっていそうで、切なくなりました。
ようやく気付いた主人公、やり直せる可能性があればいいのですが。
筋立てがシンプルな分、込められたメッセージがストレートに心に刺さりました。

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