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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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手から蕎麦が出せます

16/06/24 コンテスト(テーマ):第111回 時空モノガタリ文学賞 【 蕎麦 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:1468

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 私の息子、縁(えにし)は変だ。つい最近五歳の誕生日を迎えた縁。そんな縁には他の子供と大きく違うところがある。
 手から蕎麦が出せるのだ。
 丼さえあれば、蕎麦をいくらでも出す事ができる。それもツユと一緒にだ。
 これだけ聞くとのほほんとして「面白いじゃない」と言われるかもしれない。
 冗談じゃない。手から蕎麦が出せるなんて異常だ。普通の人間ではありえない。
 我が子が普通の子供ではない。それがただでさえシングルマザーである私に、どれだけ不安とプレッシャーを与えるかわかるだろうか。
 私は普通ではない縁を治療すべく、名医がいると言う様々な病院に行った。しかし結果はどこも同じ。「治療のしようがない」この一言で済まされてしまう。
 それでも私は諦めず、縁を真っ当な人間にすべく病院巡りをするのだった。

 今日向かう病院は、山の奥深くにある。私は曲がりくねった道を慎重にハンドルを切って、車を運転した。
 すると遠慮したような様子で縁が私に話しかけてくる。
「お母さん。もういいよ。僕、人の前では絶対お蕎麦を出さないからさ」
「大丈夫よ縁、大丈夫だから」
 一体何が大丈夫なのか。自分でもよくわかっていない。
 縁は後部座席で静かに座っている。その表情が沈んでいる事にまで私は気が回らなかった。

 それから三十分程して、病院についた。
 縁を連れ、病院の入り口についたベルを鳴らす。すると病院の奥から白髪の医者が姿を現した。医者は縁を見ると人のいい笑みを浮かべる。
「君が縁くんだね。遥々よく来てくれた。私は大塚武、好きなように呼んでおくれ。さぁ、中へおいで」
 物腰の柔らかい雰囲気。縁も安心したように穏やかな表情を浮かべている。この人は今までの医者とは違う。そう感じさせるものがあった。

 そのまま病院に入り、診察室へ。イスに腰掛けると、大塚医師が一杯の丼を取り出した。
「縁くん、私は今とてもお腹が空いて困っている。ここにお蕎麦を出してもらえないだろうか」
 縁が伺うように私を見つめる。私は静かに頷いた。
 縁が大塚医師から丼を受け取り、手から蕎麦を出す。今日は寒いからかけ蕎麦だ。
 縁が出した蕎麦を受け取ると、大塚医師はそれを勢いよく食べ始めた。いい食べっぷりだ。ズズズと音を立てて蕎麦が大塚医師の口に吸い込まれていく。
 時間にして三分ほど。早々に大塚医師は蕎麦を食べ切った。
「ありがとう。とても美味しかったよ。君の蕎麦は絶品だ」
 大塚医師が縁の頭を撫でる。縁はふにゃりとした笑みを浮かべた。
「先生、それで治療の方は?」
「治療? そんな必要あるのかね」
 私が問いかけると、逆に大塚医師が問いかけてきた。
「そんなのあるに決まってます! 縁だけ他の子と違うなんて、異常です! このままじゃイジメの対象にされるかもしれない。とにかく縁を治療してください!」
 私は大塚医師に向け、まくし立てるようにそう口にした。すると大塚医師が渋い顔をする。
「縁くんの顔を見たまえ」
 そう言われ、縁の顔を見てハッとする。縁は先程と違って今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「縁くんをイジメているのは奥さん、あなたの方だ」
 その一言に私は愕然とする。そんな、私の考え方が間違っていたというのか。
 すると大塚医師が縁に向け語りだす。
「蕎麦はいい。夏はざる蕎麦で火照った体を冷やしてくれるし、冬は寒い体をかけ蕎麦が温めてくれる。具合が悪い時も、蕎麦なら荒れた胃を癒してくれる。これだけ素晴らしいものをいくらでも出せるなんて、縁くんは実に素晴らしい」
 大塚医師の言葉を聞き、先ほどまで泣き出しそうだった縁の表情が、一気に明るいものに変わった。
「でも、やっぱり普通と違うのは……」
「子供の個性を劣っていると見るか、特技として見るかは親の良心次第ですよ」
 特技、その一言に私はハッとさせられた。そうだ、どうして私は縁が手から蕎麦を出せる事を欠点として見ていたのだろう。本来であれば、それを特技として磨いてやるのが親の役目ではないか。そう気づかされる。

「またいつか美味しいお蕎麦を食べさせておくれ」
 最後まで大塚医師は縁に対して優しい態度を変えず、送り出してくれた。治療費も「蕎麦をご馳走になったからいらない」と断られてしまった。
 再び曲がりくねった山道を車で走る。すると縁が遠慮気味に私に喋りかけてきた。
「僕、この能力でたくさんの人に僕のお蕎麦を楽しんでもらいたいな」
 行きに来た時とは正反対の言葉。
 その時、私のお腹がグゥと音を立てた。
「まずは家に帰って、お母さんにお蕎麦をご馳走にして欲しいな。天ぷら蕎麦って出せる?」
「わからないけど、やってみる!」
 縁が大輪の笑みを浮かべる。私は縁の能力を今後どうやって活かしてあげるか、それを考えながら車を運転した。


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