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汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

性別 男性
将来の夢 物書き
座右の銘 日々前進

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天邪鬼

12/09/19 コンテスト(テーマ):【 コンビニ 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1561

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「バイト始めたん」
 蜜柑色の夕焼けが差し込む教室の中、僕は椅子の上で胡坐をかきながら本のページを捲っていた。
「へえ」
 僕の後ろの席ではシゲが僕とは背中合わせで机に腰かけて漫画を読んでいる。明け放った窓からは青春に身を投じる運動部たちの掛け声が聞こえていた。
 『ここに居るよ』『僕はここに居る』、そんな自己主張のように姦しい声が耳に障る。
 あっそう。だから? どうでもいいよ。
「……シゲ、いい加減にその机に腰かけるのやめたら? また後で鬼の委員長に怒られるよ」
 シゲが腰かけているのは、僕たちのクラスの誇るツインテールの委員長の机。テンプレートのように真面目な彼女の口癖は『あんたバカぁ!?』。狙ってるのかは分からないけど、顔といい声といい某アニメのキャラクターに似てる、と一部の男子の株は高い。
「あー、いいよ。嫌いじゃないから」
 だるそうな声で応えるシゲ。どうやらシゲも一部の男子のようだ。
「……まあ、良いけどね。傍で見てる分には楽しいし」
 もちろん、僕もそう。ところで。
「何の漫画読んでるん?」
「んー、バスケの漫画……。人外の動きばっかの」
「……へえ、面白いん?」
「……つまらんよー」
「そっか」
「うん」
 ぺらり。
 ページを捲る音が響いた。
 窓の外から聞こえる、ファイトー、ドンマーイ。
 彼らは何を頑張って、何を気にしなければいいんだろう。
 意味を分かって言ってるのかな。
 そうでもなさそうだけれど。
「でも、俺らの学校、バイト禁止じゃなかったっけ?」
「いや、シゲもやってんじゃん、学校の目の前の牛丼屋で」
「俺のは良いんだよ。先生公認だから」
「いやいや、それを言うなら先生放任でしょ」
「……そうとも言うかもな」
「先生が常連って時点でそうとしか言わんよ」
 ぱた。シゲが本を机に置き、がたっと立ち上がり、再び僕の隣の席に乱暴に腰を下ろした。
 僕も視線をシゲに向けると、シゲはどうでもよさそうにあくびをしながら尋ねた。
「で、何のバイト始めたん、お前」
「駅前のコンビニ」
 僕の言葉を聞いて、シゲはうっすら涙の浮かぶ目を丸く見開いた。
「……まじで? 駅前って、あのけしからんルイさんの居る?」
 ルイさん。涙、と書いてルイと読む、僕らの学校の中で知らない人は居ないとされるほど有名な、コンビニの店員さん。
「うん」
 僕は鼻の下を人差し指で擦りながら頷いた。なぜか少し気恥ずかしかった。
「それはうらやま……いや、恨めしいな」
「あはは」
 シゲは僕の笑みに、引き攣ったようにハハ、と笑い返し、きょろきょろと周りを見回してからぐいっと顔を寄せてきた。
「で、どうなん?」
「何が?」
「ルイさんだよ、やっぱ小さいん?」
「ん、まあね。取れないものがあると上目づかいで『取ってくれん?』って聞いてくるくらい小さいよ。本人に聞いたら身長145センチって言ってた」
「ぬう、挨拶は? 俺らが顔を出した時はいつも出来過ぎた対応だけど、怠けたりするん?」
「いや、いつもハキハキと最敬礼で挨拶してる。お客様との会話中はしっかり目を見てるし、お釣りを渡すときは肌が少し触れるようにしてるよ。正直店長の指導よりもルイさんを見てたほうが参考になる感じ」
「ぬうぅ……、休憩中は? 大人の女らしくアダルトな会話してくるん?」
「ううん、ルイさん、休憩中は地図見てるからあまり話せないんだ」
「地図?」
「うん、お客様に道を聞かれたときにすぐに答えられるようにって」
「……何それ、ありえねえ。本当にけしからん人やな」
「……けしからんねえ、本当に。一回興味半分で彼氏いるんですかって聞いたけど、『今まで誰とも付き合ったことないよ』って耳まで真っ赤になってたし」
「それはけしからなすぎるだろ。絶対高すぎて誰も届かないだけだし」
「だねえ。小さいのに高いよ、ルイさんは」
 二人して背もたれに体重を預けて天井を見つめた。
 遠く、遠い、どこまでも遠い果てを見つめるように。
「……お前、今日バイトなん?」
 シゲがぼんやりと口を開いた。
「うん、18時から21時まで。シゲは?」
 僕もぼんやりと返す。
「いや、今日は休み。……なら、今日はそろそろ帰るか。良い時間だろ?」
「んー、まあね。シゲ、コンビニまで付いてくる?」
「……そだなー、お前のバイト姿も見てみたいしな」
「……まあ、いいけどね」
 そうやって、僕らは荷物をまとめて教室を後にした。

 残された教室には。
 窓の外から響く、中学校の頃に僕も吐いていた掛け声が。
 委員長の机の上には、中学校のシゲが目指した夢のかけらが。
 そして、決して声には出せない『好き』や『かわいい』の言葉が。
 煙のようにもやもやと燻っていた。

 誰も居ない教室にいつも残るのは、2人の天邪鬼のそんな思いだけだ――


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