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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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蕎麦食う女  

16/06/24 コンテスト(テーマ):第111回 時空モノガタリ文学賞 【 蕎麦 】 コメント:2件 デヴォン黒桃 閲覧数:2431

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 とある蕎麦屋で噂に成っている、蕎麦食う女。

 長い長い黒髪と赤白模様の派手な着物に、裾を引きずり、シャナリシャナリと街を歩いておるそうな。
 真っ白な頬に、小さく赤い唇、仄かな笑みを浮かべては、切れ長の瞳で上目遣いに男たちを見つめる。
 あまりの美しさに、男たちが声を掛けると、蕎麦の食べ比べで勝てたらば、一晩自由にしていいと、勝負に誘って来ると云う。
 
 ソンナ昼下がりに、件の女を見つけた。コレは上玉、ドウニカ一晩共にしたいと、女に声を掛けた。
 
「アンタか、蕎麦の大食い女ってのは。ドウダイ、俺と勝負しては呉れネエか?」

 女はピタと足を止め、振り返るとこう云った。
「アラ、残念。ワタシ、先程、お昼を済ませたバカリで……」

 軽く頭を下げて、歩き出す女の手を取り、こう持ちかけた。
「分かった、ジャア、俺が負けたら、金を払うし五枚分の余裕を持たせてやる。ナア? イッチョやっちゃあ呉れないかね」
 切れ長の目を一層細く伸ばして、ニコリと笑う…… 
「ソコまで言われチャ、断る訳にもイキマセンね、十日分のお給金と、十枚の余裕を持たせて呉れたら、スグソコの蕎麦屋で勝負しても構いません」
    
 アマリに細身な女なので、ドウ転んでも負けはせぬと、男は二つ返事で了承した。男は、十日分の給金を、女は一晩の自由を賭けて、蕎麦の大食いをスル。
 
 蕎麦屋に入ると、サッソク野次馬たちに囲まれる。
 女は、冷やかな笑みを浮かべ、赤い唇を歪ませる。

「ヨッシャ、コッチは一気に十枚お呉れ」
 と、腕まくりの男。 

「ワタシには二十枚」
 一気にザワめく店の中。
「お姉さん、強がりはおよし、蕎麦代だって馬鹿に成らないよ?」
 女は、シナシナと指遊びをシながら、モウ一つお願いが有ると云う。
「食べる姿は、恥ずかシイので、仕切りを立てて頂けませんか?」
 男は、なんだソンナ事、と、店主に言い付けて、仕切りを立てさせた。


 程なくして、茹で上がった蕎麦が並べられる。
「其れでは、始め!」
 店の中に響き渡る、蕎麦を啜る音、音、音。


 ソレ行けヤレ行けと、囃し立てる野次馬たち。

 ズルズルズルッ、ズルズルズルッ

 男はアッと云う間に、十枚を平らげて怒鳴る。
「親父! モウ十枚だ!」

 コレは誰もが、男の勝ちだと疑わなかった。
 何しろ、女は口元を抑えた侭、ユラリユラリと揺れているダケに見えた。
 仕切り越しにも、蕎麦を啜って居る様子も感じられ無かった。

 が、奇妙にも、男が蕎麦の茹で上がるのを待つ間にも、ズルズルズルッと、啜る音が響く。
 シカシ、女は相も変わらず、ユラリユラリと揺蕩って居るだけ。


「ヘイ、お待ち、蕎麦十枚だよ」
 店の親父が、威勢良く運んで来ると同時に、又啜り始める男。
「ハッハッハ、コレでお姉さんは、今晩俺の物だ。ナアニ、蕎麦みたいに優しく啜って上げるよ、ハッハッハ」
 などと、冗談を飛ばしながら、女を見やる。
 
「親父さん、アト、二十枚お願いね」

 途端に静まり返った店の中。仕切りからは、カラに成った二十枚の器がスルスルと押しやられて来る。

「へ? 二十枚の蕎麦を食って仕舞ったのか? 俺が今、十枚を超えてモウ十枚。お姉さんが、二十枚喰って仕舞ったのなら、約束の余裕の十枚と合わせて、三十枚。ソコに又、二十枚追加ってんだから、五十枚に成っちまう。トテモじゃないが食い切れん」

 ソウは云っても負けて仕舞えば、女は手に入らず、十日分の給金を失う。
 死に物狂いで、蕎麦を啜り上げる。
 
 ズルズルズルッ、ズルズルズルッ

 必死の形相の男を尻目にコンナ声が聞こえた。
「親父さん、アト、二十枚お願いね」

 コレを聞いて男は戦意喪失。口に含んで居った蕎麦まで吹き出して倒れ込んだ。

 其の拍子に、立てて有った仕切りを、倒して仕舞った。
 
 ソコには白肌の女が、着物の腹をパックリ開いて、蕎麦でマンマルく膨れ上がらせた腹に、ドンドン蕎麦を運んで居った。
 女の腹には、モウ一つ、大きな赤い口が付いて居った。
 握りこぶし程の白い歯が並び、ナマズのような上唇と下唇。デロンと舐めずる大きな舌。
 其の口が、旨そうにドンドンと蕎麦を飲み込んで居った。

 男は目を丸くして叫んだ。

「何だソノ腹は、人面疽ジャアないか。この化け物め」

 女は、腹の奇怪な口で、蕎麦を啜り続けながら、小さな赤い唇でこう云うた。

「一晩自由にしていいから、ドウかユルシテ」


 了



  


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このストーリーに関するコメント

16/06/25 クナリ

人外のものの気配を感じさせながら展開し、最後はそのまま人ならざるものを出して終わるのではなく、キャラクタ性溢れる一言で締めくくる構成が見事ですね。
その一言が普通の人間の思考であれば出てこないはずのものであること、そもそも夜中の墓地などではなく衆人環視の蕎麦屋で(衝立を立てたくらいで)堂々と腹の口を使用することなどで、なおさら奇怪さが際立っています。

16/06/26 デヴォン黒桃

クナリ様
なんとか「蕎麦」で考えて椀子蕎麦とかの大食いを連想し、相手方に物の怪にオイデ頂き、なんとか間に合わせました。
落語のようなストンと落とす事を意識して書いてみました。

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