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イルカさん

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定食屋さん

16/06/19 コンテスト(テーマ):第111回 時空モノガタリ文学賞 【 蕎麦 】 コメント:0件 イルカ 閲覧数:1286

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 朝の六時、新鮮な空気で少し肌寒い、友達と飲んでこれから家に帰るところだ。
駅を出ると急に空腹を覚えた。
この時間じゃ、どこも無いだろうと思っていたら、駅前に定食屋さんが開いているのを見つけた。

 自然に足がお店に向かった。
中に入ると、客でいっぱいだった。
 客は、みんな温かい蕎麦を食べていた。
席について、何を食べようかと、壁に貼ってあるメニューを見た。
他の客は蕎麦定食を注文していた。見ると、かけ蕎麦にご飯、生卵に海苔とサラダで三百円と安いのに驚いた。
私も蕎麦定食を注文した。

 「夜勤ご苦労様。看護師さんも大変だ」
 「仕事だから」
 客を見ると、夜勤の人ばかりらしい。
 中に母に連れられた小さな子供もいた。
 定食が運ばれて食べて見ると、蕎麦もスープも美味しい。

 小さな女の子が眠いのかご飯を食べたがらず、母親が困った様子に、おばさんが見て小さなお握りにすると、美味しそうに食べだした。
 「すみません」
 「母親一人で、頑張ってるだんね」
 「夜勤だと、賃金が少し高いから、それに託児所もあるから助かるの」
 昼間に勤めている私は、夜勤で働く人のことを、余り気にしていなかったが、
 この人達がいなければと思うとその存在の大きさを感じた。

 

 「いつ頃から、店を始めたの?」と母親が聞いた。
 「そうだね。長くて忘れたよ」
 最初は、ごく普通に昼間にやっていて商売も繁盛していたそうだ。
 ある日、たまに来る常連客が、朝にこの店がやっていたら助かるだと聞き、
 無く困った様子でそれなら思い切って夜中から朝にしようと決めたそうだ。
「助かるわ。いつも温かい蕎麦が食べられて」
「主人のこだわりの蕎麦だからね」
「この店を閉めるって本当なの?」

 しばらく黙っていたおばさんだったが、
「もう歳で体がね」
 「やっぱり」
それを聞いて、店内は静まり返った。みんな淋しそうな顔になり、困った顔をする人も
いた。

 「長い間、ご苦労様 無理は言えないしね」と別の客が言った。
 「こちらこそ、ありがとうね」
 この店は、始めて入ったけれど、もう何年も通っている気がした。お店の雰囲気と
言おうか。おばちゃんの人柄だと思った。
 もっと早く、この店に来れば良かったのにと、後悔した。
 
 一か月後、店の前を通ると閉店の張り紙がしてあった。
 あの親子連れや
 看護師さんは、どうしているのだろうと思ったりした。

 ある日、お店が工事をしている。たぶん壊して、新しい店が出来るのだろう。
駅前も都市計画で美しくなって便利になったけれど、人が必要としているのは人情溢れる店だと思った。
 
 工事が終わりあの店がリホームされて綺麗になっていた。
 再開するのか思って嬉しくなった。蕎麦が食べられると思い朝早く起きて、お店に行ってみた。

 店内は満員で老夫婦じゃなく、若い女性が切り盛りしていた。
 「お姉ちゃんが継ぐとは思ってなかったよ」
 「前々から定食屋さんをしたくて、そして今回おばちゃんから話しがあり、
 主人と決めたんよ」
 「そうだったんだ」
 嬉しそうに、年配の男性がしゃべっていた。
 若いのに、しっかりしていて、苦労人と思った。もちろん、蕎麦定食もあり味も前とは 変わらない。
 私と歳と変わらない人が、生き生きとしている。そして、お客さんのことも考えてい る。
 何か、元気をもらったと言おうか、自分を見つめ直す機会となった。

 「ご馳走様」
 「三百円です」
 「美味しかったです」
 「また来てください」
 私は、元気な声で「また来ます」と言った。

 あのおばさんの後を、引き継いでいると思った。


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