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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

性別 女性
将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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タイムカプセル

12/09/18 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:13件 草愛やし美 閲覧数:1952

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 四季が巡って来るように、僕はこの駅に戻って来る。このホームに立ち、君の笑顔を思い出す、それ以上にもそれ以下にもならない笑顔を……。心に閉じ込めた君はいつも笑顔でなければいけない。
 駅のあの階段を小走りで駆け上がって来る君は、僕を見つけると満面の笑みで、嬉しそうに近寄って来る、息せき切って。僕の広げた腕に飛び込んで来た君を受け止めるのが、僕の役目、君は最高の笑顔をしていて、とても可愛かった。
 季節は変わっていく、町も変わっていく、人も変わっていく……、だけど僕の記憶の中の君は変わらない。あの時のままこの駅のホームにやってくる。

 町が大きく変わってしまった。この前は駅の前に知らないビルが建っていて驚いた。本当にこの町だったのかと思えるよ。君は変わらないというのに……。僕も変わったのだろうか? この駅ももうすぐ変ってしまうそうだ。風の噂が、今住んでいる僕の町にも流れてきたよ。君の駆けてきた駅の階段もなくなってしまうのだろうか? 今度、僕がこの駅にやって来た時、僕は駅の景色の中に君の姿を映し出せるだろうかという不安でいっぱいだ。

   ☆   ☆

「はい、タイムカプセル、大切にしてね」
「タイムカプセル?」
「そうだよ、この古い駅のタイムカプセルだよ」
「駅って、ここ……」
 僕はあっけにとられたまま立ち竦んでいる。
「だから、ここは、あなたの心のふるさとだからね。あなたが持っているのが一番相応しいわ」
「あなたは……?」
「私はあなたなの。あなたそのものよ。大切なものを忘れないようにあなたが作ったタイムカプセルを渡すためやってきたの」
 釈然としない僕は彼女から差し出された丸いカプセルをまじまじと見た。手のひらに納まるそれは透明で水晶のように見える。だけど質感が水晶のものとは全く違って、柔らかく暖かい。
「涙の成分を使って形成されているのよ」
「涙、誰の?」
「あなたのものでしょ。心の中にずっと閉じ込めてしまった成分、あなたは無機質な心で閉じ篭ってばかりではいけないってもう気づいているよね。心を開いてこれからは、あなたの想いはこのカプセルに詰めて持っているってどう? いいでしょ、だってここはあなたの始発駅にも終着駅にもなるのだから」
 僕は自分のものだというタイムカプセルの駅を覗いてみた。
「僕自身の想い……」
「再スタートね、ここからまた始まるの。人は同じ道を辿っていくものだから、いつか必ず、巡り逢える日がやって来る」
 彼女の声が自分の胸から響いてくる。私は両腕でそっと胸を抱き頷いた。


    ☆     ☆

 季節は変わり、町も変わった。そして、人も変わった。だけど、消えない記憶の中で君は生き続けている。一人逝かせてしまったという気持ちを抱えた僕は、君の笑顔を求めてこの駅から抜け出せないままだった。

 僕も変わらなければいけないのだね。僕は今日、君の笑顔と一緒に、この駅をタイムカプセルに入れた。いつの日かそれを開ける日、君が驚くほど僕はいい男になっているよ。タイムカプセルを持った僕は、その時を楽しみにできる。ホームに出発を知らせるミュージックが流れている。
「さあ、行こう、君に出逢うためのその時に向かって」
 僕は力強く立ち上がった。


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このストーリーに関するコメント

12/09/18 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

持ち運びが出来るタイムカプセルって面白い発想ですね。
過去の自分をそんな風に思い出として持って歩けたら嬉しいね。

忘れるのではなく、別枠で生き続ける記憶がある。
それはロマンティックな心ですね(笑)

12/09/18 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

亡くなった人の時はそこで止まっているので、時間がたつにつれ、他の人やモノが変わってしまうのが切なく思うのかもしれません。
タイムカプセルによって、新しい駅に踏み出すきっかけをもらえたのかもしれませんね。

12/09/19 結城 希

ちょっと切なくて、甘酸っぱくていいですね。
散文詩のようにも感じられました。

12/09/19 鮎風 遊

タイムカプセル、欲しいですね。
もう一度見てみたい駅の風景があります。

終着駅より始発駅にしたいものです。

12/09/23 ドーナツ

拝読しました。

読み終わったあと、なんていうんだろ、風を感じました。
春風じゃなくて、さわやかな秋風、妙な感想でごめんなさい。でも、ほんとにそういう風を感じました。
いろんなものがどんどん変わっても、忘れられない古い思い出の中に生きていたい、心のふるさとみたいなもの忘れちゃいけない大事なことですね。
そういうこともしんみり考えさせてもらえるお話、とてもよかったです。

12/09/29 くまちゃん

せつなさを感じています。
タイムカプセルを私も欲しいですね。
逝った人にあった時には強力に自分をアピール^^

12/10/06 草愛やし美

泡沫恋歌さま
コメントありがとうございます。

タイムカプセルって幼い頃に宝物と称して大事にしていた箱のようなイメージです。他人から見れば、がらくたでも当人にとってはかけがえのないものだったりします。辛い思い出でも生きるための糧にするというのは私の願いのようなものかもです。

12/10/06 草愛やし美

そらの珊瑚さま
人が亡くなる、とりわけ親しい身近な方の死は辛いものがあります。現実社会にも、まるでそこで時間が止まって動けない人もいらっしゃるのではないかと思います。
こういう思い出を留めておければいいなぁと思って書きました。読んでくださってコメントをありがとうございました。

12/10/06 草愛やし美

結城 希さま
お読みくださりコメントをありがとうございます。とても嬉しいです。

これは元は詩でしたものから、モノガタリに起こしたものです。散文詩というのは大変難しいと思っていますので、そう思っていただけて大変嬉しいです。

12/10/06 草愛やし美

鮎風 遊さま
始発駅はいいですよねぇ、座れる可能性が非常に高くなりますから私も好きです。(笑)

もし目に見えるタイムカプセルのようなものに思い出など見えないはずの気持ちなどを入れて持ち歩ければ凄く楽しいでしょうね。私も欲しいです。

12/10/06 草愛やし美

ドーナツさま
風のようなイメージって素敵ですね、そんな風に感じていただけとても嬉しいです。ありがとうございます。

大切なものを忘れないことはとても大事だと思います。親しい人がいなくなるという辛いことを忘れないでそこから旅立つというのは難しいですが、きっとそれが生きていく上での励みになるのではないかと考えています。

12/10/06 草愛やし美

くまちゃん来てくださって嬉しいです。
コメントありがとうございます。

強力にアッピールは前向きでいいですね。いつも前進してく素晴らしいことだと思います。
書いた私自身もこんなタイムカプセル欲しいです。(笑)

12/12/27 笹峰霧子

懐かしくてずっと夢に出てきた場所があります。
でも現実には、思い出の中のそれとはまったく変わっていました。
タイムカプセルに閉じ込めたそのままが見れたらうれしいですね。

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