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飛鳥永久さん

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温かい雨

16/06/18 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 飛鳥永久 閲覧数:940

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「雨って温かいよね」

今朝、登校して席に着くなり隣の席の天野君が唐突にそんな事を言い出し私は目を丸くした。

――何を言ってるんだろう

天野君は、この春に中学生になって同じ学校になった。どうやら彼は小学生の時から変人と言われているらしい。
彼のそんな噂を耳にしつつクラスでも浮き気味だった事は知っていたが、あまり関わりがなかった為にその理由が分からずにいたのだが、それがたった今わかった気がした。

「雨が温かいわけないじゃん。外出て雨に当たってみたら?」
私は虫の居所も悪くて、天野君に対してキツイ言い方をしてしまう。

「え?何言ってるの?そんなの冷たいに決まってるでしょう?」

――話にならない

私は無言で視線を逸らした。
これ以上話しかけないで。そう言った雰囲気を出したつもりなのに。

「そうじゃなくてさ、冬の寒い時は雨じゃなくて雪が降るでしょ?温かい時に降るのが、雨だから」

天野君は話を続けてくる。
意味もわからないし、何を言いたいのかわからなかった。だけど、魔力でも宿っているかのように不思議とその話に耳を傾けている私が居る事に気がつく。

「それにさ、雨の日は傘を差すだろ?そうすると顔が隠れるから、泣いちゃった人に優しいから温かいよなぁって」

それを聞いた私は思わず手で目を覆うように触って確かめた。
腫れてない……筈なんだ。朝、何度も確かめたから。
天野君のその言葉で、忘れようとしていた筈の昨日の出来事が鮮明に蘇る。

――私は、昨日失恋した。

失恋とは言っても二個上の先輩に私が勝手に恋心を抱いていただけ。
同じ図書委員で一緒になって格好良くて頼りになって優しくて。
そして『凪ちゃんは可愛いね』と、笑顔で言ってくれた人だった。
そんなの好きになるに決まってるじゃん。

だけど、そんな素敵な人に彼女が居ないわけないんだよね。
昨日私は先輩との当番を楽しみにしてて、いつもよりほんの少し早く着いたら見ちゃったんだ。
先輩が、美人で有名な先輩とキスしてるところを。
私はあまりのショックに手に持っていた傘を落としてしまい、その音に驚いた先輩達は慌てて離れて私を見る。

「あ、凪ちゃん……早かったね」
そして、取り繕うように笑う先輩が今まで描いていた人と別人に思えて仕方なかった。

「……気分が優れないので今日は帰ります」
私は傘を拾ってその場から逃げ出した。

今すぐに泣き出したい気持ちだったけど、こんな事で泣いたって思われたくない。
その気持ちだけで玄関に向かう。

外は、雨。

外靴に履き替えて玄関を潜り、傘を差す。

すると視界が遮られて。今この空間には自分の世界。
そう思うと他人の目なんて気にならなくなって、静かに一人涙を流す事が出来た。

ここで今泣いておけば、帰ってから部屋に篭ってお母さんに心配もかけることもなく過ごせる。雨なんて憂鬱なものだったけど、生まれてはじめて、雨で良かったって思ってた。

確かに昨日の雨は私にとって温かいものだったなと思う。


だけど何故天野君がそんな事を言い出したのか。
思い当たるのはこれしかなかった。

「……もしかして、見てたの?」
誰も見てないと思ってたけど周りなんて確認してなかったからもしかしてと思って尋ねてみた。

だけど、天野君は笑顔を浮かべるだけで肯定も否定もしてくれなかったから、きっと見られたんだなと悟る。

泣いたのを知られたくないのもわかったから肯定をせず、だからと言って嘘もつけなかったのではないか。そうだとしたら彼の行動に説明がつく。

「ねぇ、何で雨って降るんだろうって考えたことある?」
また、天野君はそんな事を言い出した。
先程の時とは違い、今度は比較的素直に話を聞けた。

「……空気中の水蒸気が雲になって、それが重たくなって落ちてくるからでしょ?」
彼がそんな化学的な事を言いたいのではないと思ったがそう答える。

「それって、なんか空も雲で心をごまかして、大きくなった時に耐えきれずに雨となる。
まるで人間みたいだよね。人間も耐えきれなくなったら泣いてスッキリさせようとするから」

その言葉に私は感心を寄せた。そうかもって思わされたから。

「雨が止むと、必ず晴れになる。……今の私の心のように」
そして私は天野君が言う前に、この言葉を口にすると彼は柔らかく笑った。

確かに彼は変わっている。
だけど、少なくても私は『雨が温かい』なんて言う彼は優しい人に思えてならなかった。

それにしてもこれが慰めの言葉だって、私以外の誰か気付くかな?
そして、何故私は気が付くことが出来たのだろうか。

――失恋したばかりの筈なのに。

昨日ついた心の痛みが和らいだ気がした。

「ありがとう天野君」

彼のことをもっと知りたいと思った。雲一つない快晴の出来事――


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