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石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

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雨の妖

16/06/12 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:6件 石蕗亮 閲覧数:1249

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 テレビで和傘を見たら欲しくなってネットで調べた。中古で程良い値段の物があったので即決で購入した。
届いた傘を開いてみると結構な年代物で一部が破けていた。
 道理で安いわけだ。
そう思いながらも柄が気に入ったので早速雨の日にその破れ和傘をさして外へ出た。
和紙を打つ雨の音がビニールのそれとは違い趣があった。
そのまま雨を楽しんでいると、パサっと傘が閉じてしまった。
古い物だった為だろう。中の番のところが緩くなっており下がってしまったのだった。
現代の傘とは違い大きめの番傘であったため、閉じた傘の端は腰のやや上まで覆っており、破けた所から顔だけが出てやや間抜けな風体を晒していた。
 「おい!お前。」
不意に子供の声がした。が傘が身体を覆っているので視界が悪い。
きょろきょろしてると脇を子供がすり抜けていった。
 「お前、いいのか?そんなゆっくりで。試験に遅れるぞ!」
その子供は自分と同じように破れた和傘で上半身を覆い、破れから顔を覗かせていた。
 「ほら!」
子供は私の服の裾を掴んで走り出した。
「ちょっ!ちょっと待て!待てって!」
 「なんだよ!遅刻しちゃうだろ!」
子供は早く早くと急かしながら強く裾を引っ張りそのまま走り続けた。
「うわわわっ」
引っ張られるが侭に幾何か走ると見慣れない景色になった。
訝しげに思いながらもそのうち間もなく離すだろうと、自分と同じ間抜けな風体の子供に付き合ってみようと一緒に走った。
思った通り程無くして子供は手を離すと、その先には同じような和傘の被り方をしている子供達がいた。
 これ流行ってんのか?
皆年代物の和傘を被っている。
さしているのではない。被っているのだ。
しかも一律に正面が破け、そこから顔を覗かせている。
 なんだなんだ!?
不思議そうに見渡していると先ほどの子供が「あんまじろじろ見るなよな。田舎者だと思われるぞ。」と小声で忠告した。
「悪い悪い。なんか珍しくてさ。」
 「珍しい?お前何年『雨降小僧』やってるんだよ。そんなに身長伸びるまでやってるなんて、よっぽどの落ちこぼれなんだな。」
っと子供に笑われてしまった。
だが、それどころではない。
 雨降小僧だと?
記憶を漁るとうっすらと妖怪としての知識に当たった。
 まさか…。
そう思いながら他の小僧たちを見渡していると覗かせている顔に大きな目がひとつだけ付いている子供が居た。
「うっ!」
 「なんだよ。あいつの顔が珍しいのかよ。一つ目小僧だっていいじゃないか。
お前みたいな奴が差別感情でイジメとかするんだよな。やめろよ、そういうのは。」
驚いて声を上げた私に先ほどの子供から注意されたが、それこそそれどころではなかった。
 「俺、今回の試験で必ず合格して小雨坊に成るんだ。」
「小雨坊?」
 「お前、本当に何も知らないんだな。ほら、試験管であそこに数人立ってるだろ。」
指差す方を見ると僧侶姿が数人居た。
しかしその顔は人間の風貌ではなかった。
水草のような眉に坊とはいっても総髪が顎鬚と繋がって生えている。
目尻は垂れているが眼光鋭く、一目で怪異なる存在だとわかる。
 「俺は一日でも早く小雨坊になって、そして更に雨師様になるんだ!」
「雨師って、雨の神様だろ?」
 「当り前じゃないか。俺たち雨降小僧はそれぞれの雨師様の下で修業して雨を完璧に操れるようになったら、今度は小雨坊として独立して人の世を学び、全てを修めて雨師様に成るんじゃないか。お前のところじゃそんなことも教えてもらわないのか?」
「いやぁ、実は放蕩者なもんで。」
 「なんだ、はぐれ者かよ。そんなんじゃいつまでも故郷に帰れないぞ。」
苦し紛れの返答を信じて雨降小僧は答えてくれた。
「早く故郷に帰りたいのか?」
 「まぁね。雨乞いの生贄として殺されちゃったけどさ。
俺が雨師様になったらさ、故郷の村にたくさん雨を降らせてやるんだ。
もうだれも苦しまなくて済むようにさ。
そうすれば、俺みたいな可哀想なやつもいなくなるだろ。」
「そうか。お前はえらいんだな。」
 「そんなんじゃねぇよ。」
雨降小僧は照れくさそうに答えた。
 「お前もいつまでもだらけてないで頑張れよ。」
…。
 「なんだよ?」
「ごめん。俺、人間なんだ。」
 「え!?嘘だろ?そんなのばれたら俺怒られちゃうよ。」
涙声になる雨降小僧に「大丈夫。」と言うと私は試験管の小雨坊に近付き、勝手についてきてしまったのだと説明した。
 「ほう?お前のその傘は雨降小僧の傘だ。だからナメラスジを通って迷い込んでしまったのだな。」
小雨坊は私のこの傘を手放すことを条件に人間界に帰ることを許してくれた。
もちろんあの雨降小僧はお咎めなしだった。
少し残念な気もしたが、あの雨降小僧には頑張ってほしいと心の中で応援しながら私は元の世界に帰ってきた。


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このストーリーに関するコメント

16/06/23 宮下 倖

拝読いたしました。
妖怪のお話、大好きです!
雨降小僧が雨師様になりたい理由にほろりとしました。
今まさに雨が降っているのですが、どこかで雨師様たちががんばっているのかなと思ったら、鬱陶しい雨への気分も変わった気がします。
すてきな作品をありがとうございました!

16/06/23 石蕗亮

宮下倖さん
読んで頂きコメントありがとうございます。
妖モノいいですよね!
渇きというお話も雨師の話ですので宜しければ読んでみて下さい。

16/07/05 白虎

拝読しました。
雨降り小僧の目標に思わず涙ぐみながらも傘の存在感が活きていて面白かったです。
雨降り小僧の傘だから。なるほどと納得の内容と世界観でした。

16/07/05 海神

拝見しました。
前の作品ではナメラスジを戻るのにあんなに難儀してたのに、と作中人物の徳の差を考えてしまいました。

16/07/05 石蕗亮

白虎さん
コメントありがとうございます。
あったらいいな(あったら買いますが)という想像から生まれた作品でした。
NHKの美の壺という番組にはよく触発されます。

16/07/05 石蕗亮

海神さん
コメントありがとうございます。
ばれるまで隠れたのと自己申告の差かもしれませんが、狐相手には隠れたいと私も思います。
相手次第というところもあるかもしれません。

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