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ネコライオンさん

学生です。趣味は旅行とアニメ鑑賞です。よろしくお願いします。

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傷心旅行

16/06/04 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 ネコライオン 閲覧数:916

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頑張っているのに空回り。
何もうまくいってなかった。要するにスランプってやつだ。
満員電車の中でふらふらと揺れる火曜日午後九時。
スーツを着たサラリーマンが不満気にスマホを触る。
そんなに不満なら触るなよと思いながら、僕もスマホを触る。
Facebookを開く。他人の幸せが目に移る。
なぜ世の中にそこまで幸せ自慢をしたい人がいるのだろう。
気分が悪くなって閉じる。
なぜスマホをいじるんだろう。
いじる必要はあるのか?ないと困るのか?
何で世の中は発展して、便利になったのに僕や電車の皆の心の中にはもやもやがあるのだ?
工業発展って一体なんのために、誰が何をしたくてしているんだ?
そんな、エセ哲学的なことーー負のスパイラルがぐるんぐるんと、悪魔の囁きのように僕の脳内で反響する。
気分が悪い。だから僕は何か楽しいことをグーグルで検索しようとした。
日本絶景。
とりあえず心を癒したかった。
色々検索して等々力渓谷とやらを見つけた。都内に存在する絶景である。
近場だし土曜日になったら行こう。僕はそう決めた。
四月病と五月病が併発したしがない大学生である僕の、荒んだ心を癒しに行こう。
そうだ。旅をしよう。

**

土曜日

僕は三〇分電車に揺られ等々力渓谷へ行った。
休日の電車は不満気な人が少なく、子どもたちの愉快な笑顔も見られる。
幼い子どもは無邪気で可愛いなと心の中で思った。
休日は大学の研究会で疲弊した身体を休めるため、家で寝ていることが多かった。
そのため、久しぶりに乗った休日の電車は、何か心地良かった。
そして等々力駅に着くと、スマホでグーグルマップを開いた。
スマホをいつも手放そうと思っても、このグーグルマップの便利さを知ってしまってから手放すことができなかった。
方向音痴な僕は、グーグル先生に完全に飼いならされてしまった。
画面から目を逸らさずにいたが、辺りが段々と暗くなっていくにつれ等々力渓谷に近づいていることが分かった。
顔を上げるとそこには長い間見ていなかった大自然があった。
鳥のさえずり声を聞いたのは久しぶりだった。
森や木、林がここまで美しかったのか。
思わず涙が出そうになった。
僕の頭上をアーチ状に森が囲んでいて、辺りを見渡しても森から目を逸らすことはできなかった。
そこには川もあった。
川のせせらぎ音を聞き、心の中に張り付いていた悪質な膜を剥がしてくれるような感覚だった。
僕の家の近くも、僕が通う大学のキャンパスの周辺も、辺りを見渡すとビルと巨大な建物で囲まれていた。
キャンパスには疲弊した就活生が不安そうに携帯とにらめっこをしていた。
しかし今、僕を取り巻く景色は違う。
そこには時間の制約も、焦りも、不安も、何もなかった。
そこにあるのは綺麗な森と自然だった。
心の悪質な膜が剥がれたあと、僕は真っすぐ渓谷を歩いて行った。
丁度良い暗さと自然の臭いを存分に堪能しながら、僕は歩いていた。
歩きながら二ヶ月を振り返っていた。
僕の中では失敗だと思う二ヶ月をーー

僕は三年生になり、研究会に入った。
大学生になり、色んな人に出会い、他の人と比べ自分のできなさに絶望し、三年生になる頃には低い自尊心と虚栄心に浸食されていた。
このままじゃダメだ。もっと自分は頑張らなければダメだ。
まるで後ろからトラックに追いかけられるような必死さでただただ疾走していた。
そして何も考えずレベルの高い研究会に入ってしまった。
毎週忙しい課題にハイレベルの学生。
僕は再び絶望し、自分のできの悪さに嘆いていた。うまくいっている人を嫉妬し、逆に自分がうまくいってない理由を『頑張らない』の一言で片付けていた。
そんな二ヶ月はーー自分の人生で最も心身とも疲弊した二ヶ月であった。
そう思いながら、美しい森や自然をゆっくり、ゆっくりと歩いて行った。
綺麗な自然、美しい小川の音色ーーこれらの景色や音を心で感じて、ようやく後悔している二ヶ月から前に進める気がした。
正直失敗したと思う。
もっと頑張らないといけないと焦りすぎていた。
自分を信じてやることができなかった。大切にしてやることができなかった。
自然に目から涙が溢れた。そして抑えていたーー押し殺していた声が漏れた。
「自然は……きれいだなぁ。本当に……綺麗だなぁ」
涙を抑えることができなかった。美しい景色に僕の心は救われたのだ。
また辛くなったら会いに行こう。
色々悩みを聞いてもらおう。励ましてもらおう。

そう思いながら、僕は等々力渓谷を後に去った。
コンクリートジャングル東京で可憐にそびえ立つーー美しい景色を後にした。

心や身体が疲れたら、ちょっとした旅をしよう。
心を回復させて、また少しずつ頑張ろう。
明日は昨日や今日よりも、大分良くなる気がした。
ありがとうーーこれからもよろしくね。


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