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デヴォン黒桃さん

「黒桃将太郎」名義でKindle作家として活動。「デヴォン黒桃」名義で猫面師としてアート活動も。人間ドラマや人の感情に興味があり、書きたい物をジャンル問わず書いております。「黒桃短篇集」発売中昭和浪漫のスコシばかり怪異なお話、アナタの脳髄へソット、注入サせて頂きます。 心の臓のヨワい御方は、お引き返し下さい。 精神に異常をキタしても、責任が取れませぬ故。http://amzn.to/2jPBe4m

性別 男性
将来の夢 りっぱなおとな
座右の銘 悔しいけど感じちゃう

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異形の心臓 

16/06/03 コンテスト(テーマ):第82回 【 自由投稿スペース 】 コメント:4件 デヴォン黒桃 閲覧数:1317

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 ――夏が近づく。コンナ蒸し暑い夜はアイツを思いだす

 嫌な湿気に身体を撫でられて、ウロコのようにカサついた肌は、皮膚病変で爛れて捲れ上がって居る。

 俺の白く濁った瞳が視る此の世界は、灰色一色に映る。昼間でさえも、陽の灯りの下で、ヤット、セピア色に映る程度。

 手足は異形に膨張して、太く曲がって、関節が最早、蟲のアレ。肘は棘が飛び出ており、脚は太く変わり、甲殻のように硬い皮膚は茶黒く変色。しかし此の脚、疾走れば昨日迄のニンゲンの動きを遥かに超えた、最高速の疾走が出来た。

 ――俺がこう成ったのも、去年の夏の事、連れ合いと出掛けた夏祭りの帰りの出来事の所為だった。

 ソノ連れ合いと云うのが、未だ十六に成ったバカリの世間知らずのお嬢さんであって、仄かな恋心を抱いたりしておった。

 ソンナ帰り道の折、竹ヤブでナニヤラ動いたかと思うと、魔物の顔をした、半分腐ったような犬が飛び出てきた。

 イイトコを見せようと、連れ合いを守って、犬を殺したモノの、チョット、ソイツに腕を引っ掻かかれて仕舞った。それからソコが腫れて、熱が上がり、腫れ上がって痒く、掻けば膿が飛び出してくる様になった。

 慌てて駆け込んだ病院の、医者曰く、コンナ奇病の特効薬は存在せぬ、妖術使いにでも頼むが宜しい、と匙を投げる始末。

 ツギに尋ねたのが、町外れの怪し気な妖術使い。曰く、若い女の心の臓を、潰して喰えば、ジワジワと治って行くと……

 ソコで、何処かで若い女の心の臓をドウニカ手に入れること出来ぬかと思案した。

 躰を売って居る様な、身元の判らぬ女なら、一人消えたとて、誰が気に掛けようか……

 ソンナ提案に連れ合いは嫌がり、 他にナニカ、皆が幸せに成れる、いい方法が或るハズだと、同じ言葉を繰り返すばかり。全ての出来事が大団円で締めくくられると信じて疑わない、純粋を通り越した、馬鹿とも阿呆ともいえる連れ合いに嫌気が差して来た。

  元はと云えば、此奴を守って出来た傷が膿んで腫れ上がって、俺は魔物の様に成って居るのだ。

 誰しもが納得する、幸せな結果を、無責任に望んでばかりの、此奴の若い心の臓を使って、私の此の苦しみを取り除けないだろうかと思い立った。

 そう思ったと同時に振り上げて仕舞った、俺の斧の如く変化した手の平を、連れ合いの腹へ突き刺した。ソシテ其の侭みぞおち辺りへ切り開いて、骨の折れる音と、黄色を帯びた脂のスキマから、赤く血の滴る心の臓を引き千切り、吹き出す返り血と、ドウシテ私を……と疑問で一杯の、連れ合いの表情を後にして、妖術使いの元へと疾走った。

 ソシテ、妖術使いの目の前で、若い女の心の臓を潰して喰うた。

 妖術使いは俺の手足を鎖で縛り、動けないようにした。副作用で暴れないようにする為だから、と云われて信じてしまった。

 次に顔を上げた時、妖術使いが持っていた大きい包丁で、俺の腹が切り開かれた。

 妖術使いが云うには、若い女の心の臓を喰うてしまった魔物の脾臓が、万能薬に成ると云う。

 意識が薄れつつ有る俺の後ろには、ヨボヨボと蠢く爺と婆の姿、頭の膨れた赤子を抱いた母親が、俺の死を待っていた。意識が段々……薄れゆく……

 


 ――――ホラ、ご覧、連れ合いよ……誰しもが幸せに成る結末なぞ、此の世に有りはしないのだよ、魔物に成り、苦痛を取り除こうと誰かを殺そうとする、ソンナ魔物さえも騙して仕舞う妖術使い。

 ――――ホラ、ご覧、連れ合いよ……後ろに控えて、俺の脾臓を喰らおうと、俺に早く死ね早く死ねと、念仏のように唱える爺婆、奇病の赤子の母親よ、誰かが悪い訳では無いのだ、俺と連れ合いには不幸な結末であっただろうが、この爺婆と母親からしてみれば、大団円では無いだろうか……
 
 ――――ホラ、ご覧、連れ合いよ、俺の滴る臓器を掻き分けながら、笑みを零すニンゲンよ、浅ましい程に生へ執着して居るのだ……  

 ――――ホラ、ご覧、連れ合いよ、俺も同じ様に腹を割かれて居るのだよ、痛かったろう、恐かったろう、苦しかったろう……
 
 ――――ホラ、ご覧、連れ合いよ、今日の月は何時もより黄色いね、嗚呼、灰色しか視えなかった、俺の眼が、死の間際にニンゲンに戻ったのかも知れないね……



 ――夏が近づく。コンナ蒸し暑い夜はアイツを思いだす

  
 

 

 了


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このストーリーに関するコメント

16/06/04 名の無い魔術師

拝読させて頂きました。
因果応報が明快に描かれ読みやすく面白かったです。
異形なのはいつもニンゲンなんでしょうね。

16/06/04 デヴォン黒桃

名の無い魔術師様
コメントありがとうございます。
誰かが喜ぶ影に誰かが苦しんでおる、避けられない運命でも御座いますね。

16/06/19 猫野まち

夢野久作さんみたいな文章を書くのですね!
すごくかっこいいです。私がこんな文章書くとどうしても不自然になってしまうので、心底才能が羨ましいです。
先ほどは間違えてコメント送ってしまってすみませんでした!

16/06/19 デヴォン黒桃

猫野まち様
ありがとうございます。
感想いただけて迚もうれしいです

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