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素元安積さん

もともと・あづみと申します。 絵を描くのが好き。 話を作るのも好き。 どちらも未熟ですが、楽しみながら頑張ります。

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嫁入り

16/06/03 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:2件 素元安積 閲覧数:1169

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 それは、雨のしんしんと降る日のこと。

 森の中にいた私は、信じられないモノを見てしまった。

 この天候の中、半透明なベール、色とりどりの花束、キラキラとしたウエディングドレスを着て歩く花嫁と、彼女の腕をしっかりと支えて歩く新郎。

 確か、狐の嫁入りなんて言葉を祖母から聞いたことがあるけれど、まさかこの目で見る日が来るなんて。

 けれど、私には一つだけ納得がいかないことがあった。

 どうして? どうして皆、タヌキなのだろう。

 花嫁も、新郎も、従者達も。皆、キツネではなくタヌキなのだ?

 よく、店屋の入り口に置いてある、あの骨董品のタヌキそっくりな、たぷんとしたお腹のたぬき達なのだ。

 狐の嫁入りならぬ、狸の嫁入り? どうして?


 もしかして、誰かがキツネとタヌキを見間違えていて、それが今になって狐の嫁入りとして伝わったのかしら?

 それとも、タヌキはタヌキで結婚式をするのかしら?

 彼等が気になってしまい、私はタヌキの行列についていくことにした。

 … … …

 森の中でも開けた場所に来ると、タヌキ達は歩みを止める。

 私も慌てて足を止めたが、その際に草むらが揺れ、ミシッと音を立ててしまった。

「お嬢さん。いるのは分かっておりますよ。宜しければ、どうぞ此方へ」

 タヌキの花嫁が、私よりも綺麗な声で言った。

 怖い気持ちもあったものの、見つかってしまっているので逃げ場も無い。

 私はタヌキ達に近づいて行った。

「驚いたでしょう。タヌキが嫁入りするなんぞ」

「は、はい。私は、キツネのことしか聞いたことが無かったので」

「そうよ。こんな大げさな嫁入りをするのは、本来キツネとニンゲンくらいです」

 タヌキも冗談言うんだ。私はつい笑ってしまった。タヌキの花嫁もニコニコと笑う。

「では、どうして嫁入りを?」

「ええ。……キツネの花嫁が、亡くなってしまいましてね」

 タヌキの花嫁は、目を閉じた。

「キツネの花嫁は、猟師に胸を撃たれてしまいました。本当に、本当に美しくて優しい子だったの。だから、森に迷った子供の道案内をしていたら、偶然にもその子のお父さんが猟師で」

「そうだったんですか……」

「彼女は、嫁入りのことばかりを言っていました。亡くなったその後も、その魂を私達のもとに連れて来ると、私達に言ったのです。私の代わりに、嫁入りをしてほしいと」

「キツネさんは、どうしてそこまでして、嫁入りをしたかったのでしょうか」

「多分、安心させたかったんじゃないかしら。この伝統を続けることによって、森の安泰を願いたかったんだと思うの」

 目を開くと、タヌキの花嫁は森を見渡した。

 雨水を得てすくすくと育つ木々、美しい鳥のさえずり、湿っぽい風の感覚。それは全て、今此処に存在しており、ゆったりとした時を感じさせた。

「良ければ、最後まで見ていらして。彼女もきっと喜ぶから」

「はい」

 私は、それからタヌキ達の嫁入りを見届けた。

 通り雨が上がると同時に、嫁入りは終盤に差し掛かり、最後にブーケトスなるものをすることになった。

「それっ」

 タヌキの花嫁が投げると、花束は私の足元に落ちてきた。

 花束を拾い、タヌキの花嫁のもとへ歩み寄る。

「キツネさんのお墓って、どちらですか?」

 タヌキの花嫁は私の言葉に驚いていたが、すぐに嬉しそうに微笑んでくれた。

「ついていらして」

 と言って走り出す彼女の笑顔は、嫁入り中で一番のモノだった。

――大丈夫。この森は今は天気雨のように泣き腫らしているけれど、きっと、青く、美しい空のような笑顔を見せてくれるはずです。だって、それが貴方の願いなんだもの。

 不格好な石が積み重なった簡素な墓に、花束を置き、手を合わせる。


 顔を上げると、空には美しい虹が描かれていた。

 それは、まるで彼女のように。


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このストーリーに関するコメント

16/06/04 冬垣ひなた

素元安積さん、拝読しました。

まさかのタヌキの嫁入り、しかしその裏には悲しい出来事が……。
全体的にほのぼのとしていて、森の安泰を願ったというキツネの優しさもラストでダイレクトに伝わってきました。

16/06/04 素元安積

>冬垣ひなたさん
見て頂き有難う御座います。

ほのぼのと言って頂けると嬉しいです。
きっと、森はいずれ元の雰囲気を戻してくれると思います^^

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