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KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
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【指輪と白いビキニ】

16/06/02 コンテスト(テーマ):第82回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:849

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 K子が知らない間に彼は結婚をしていた。
付き合って二年、そろそろけじめをつけないといけないね、と言っていた彼のけじめのつけ方が他の女性と結婚することだったのだろうか。
 仕事帰りにデパートの水着の特設会場で新しい水着を選んでいるとき、彼と彼の新妻に偶然出くわしたのだ。
 K子と目が会ったとき彼はうろたえていたが、すぐに普段の落ち着いた顔になって新妻を紹介してきた。
「どうも、こんなところでお会いするなんて思ってもみませんでした。ええっと、こちらが僕の妻です。ご報告もいたしませんで、その、どうも」
 彼は取引先の営業マン、週に三度はK子の会社に顔を出している。彼が来るたびにお茶を出していたK子はごく自然に彼と話をするようになり、やがて外でも会うようになり、次第に親密な関係になっていった。
 親密な関係になること、つまり付き合い始めることだとK子は思っていた。彼は独身で彼女もいないと言っていたし、K子のような女性がタイプだともよく話していた。先月の誕生日には指輪をプレゼントされた。ビーズの指輪でけして高価な物ではなかったが、それでも何か特別な関係の証のような気がして、毎日その指輪をはめていた。今も指輪は左の薬指で光っている。
 確かに告白されたわけではない。しかし結婚するほどの相手がいるなんて聞いていなかった。いつかは二人の家庭をもちたいと未来を夢みていた。今日、水着売場に来たのも彼に近くの海に誘われたからだった。彼好みの真っ白なビキニを着て喜ばせたかったのだ。
「いつも主人がお世話になっています」と、新妻は丁寧に頭をさげた。
 K子よりは十歳くらいは若いだろうか。春に大学を卒業したくらいか。小柄で愛らしい、屈託のない笑顔がK子の胸に突き刺さる。
「いいえ、こちらこそ。彼には仕事でいつも助けられてばかりでして、うちの会社でも頼りにされているんですよ」
 新妻の笑顔に負けて、K子は言いたい事とは違うことを言ってしまう。本当は彼に詰め寄って問いただしたい。これはどういうことなのかと。
「先月、結婚したばかりなんです」と彼はよそよそしく言う。「来週ハワイに新婚旅行にいく予定でして。それで来週一週間は御社へお伺いできませんで、すみません。部長様には一応連絡をしていますので・・・」
 新妻は彼の隣で恥ずかしそうにもぞもぞしている。左の薬指にはダイヤの指輪、胸元にはダイヤのネックレス、館内の照明に照らされてキラキラと輝いている。そして右手には白いビキニの水着が握られている。
「うらやましいです。近くの海に行く予定だったんですけど、なんだかそんな話を聞くと、私もハワイについて行きたくなります」
 ハッハッハッと、彼はぎこちなく笑う。
 新妻が愛想笑いを浮かべながら彼の腕をつよく引く。
「それじゃ、帰りましたらお土産を持ってお伺いいたしますから。部長へよろしくお伝えください」
 彼はかるく会釈すると新妻といっしょに会計に向かった。横を通り過ぎる時「あとで電話するから」と、彼は小さくささやいた。
 K子は指からビーズの指輪を外すと彼に向かって投げつけた。指輪は外れて新妻の肩に当たる。新妻は驚いて振り返ると、床に落ちたビーズの指輪を拾ってK子に渡そうと近づいてきた。
「いいのよ、その指輪あなたにあげるわ。私からのお祝いよ。ご結婚、本当におめでとうございます」
 そういうとK子は背中をむけて走りだした。エスカレーターを駆け下り、売り場を駆け抜け、人をかきわけ、デパートの外にでると大声で叫んだ。
「どうぞ、お幸せにぃ」


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