1. トップページ
  2. ツアーガイドさんと少年

永春さん

短編が好きで、紹介されて登録してみました。 どんなジャンルでも書きます。 修行の日々です。

性別 男性
将来の夢 おかねがほしい
座右の銘 やさしさを失わないでくれ。 弱いものをいたわり、 互いに助け合い、 どこの国の人たちとも友だちになろうとする気持ちを失わないでくれ。 たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと。 それがわたしの最後の願いだ ――ウルトラマンA(エース)

投稿済みの作品

0

ツアーガイドさんと少年

16/05/30 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 永春 閲覧数:787

この作品を評価する


 そりゃまあ、私はツアーガイドとしては新人だ。仕事を始めてまだ二年目で、経験も足りていない。だけど。それにしたって。さすがに、これは無いんじゃないかと思う。

「えーと……お客様?」
「ん?」
「ほ、本日ご案内する団体様は20名と承っておりましたが」
「うん」
「他の皆さまは……」
「キャンセル」
「キャンセル!?」

 私の前には、リュックを背負った十代前半の少年がひとりだけ立っている。「○○様ご一行」という旗を片手にしてる私が馬鹿みたいだ。
 しかしこんなのツアーが成立するわけない。慌てて会社に電話してみたが、どうやら間違いじゃないらしい。「そこにいる人だけガイドしてほしい」とのこと。

「あの、唯一のお客様が子供なんですが。法律とか大丈夫ですかコレ」
「大丈夫じゃない? たぶん」
「たぶんって何ですか」

 そんな通話をしていると、少年がくいくいと私の袖を引っ張った。

「はい?」
「バスの出発時間、そろそろ」
「あっ!」

 今回のツアーは集合地点からバスで移動することになっている。貸切とは言えバス会社との契約もあるので、時間は守らなければ。
 電話を切り、少年とバスターミナルへ急いだ。

「すみません遅くなりました! よろしくお願いします」
「いえ、こちらこ……そ?」

 バスの運転手さんは明らかに怪訝な顔をしていた。そりゃそうだ。乗員1名、添乗員1名、運転手1名。シュールな観光バスが出発した。

 少年はこっちの気も知らずに楽しそうだ。わくわくした表情で窓の外の景色を眺めている。そして時々私と目が合うと、恥ずかしそうに微笑んだ。
 ああもう! そんな顔をしないでほしい。ただ座ってるのが罪悪感でいっぱいだ。こうなったら仕方ない――私もプロだ。ツアーガイドのプロだ。根性を見せてやる。

『本日は○○旅行ツアーにご参加頂きまして、誠にありがとうございます!』

 通路に立ち、マイクを使ってガイドを始めた。少年は喜んでいる。ええい、もうヤケだ。

『豊かな○○の山を背景に、歴史ある○○の町並みがご覧頂けるでしょうか。右手にございますのは――』

 いつものガイドの何倍も疲れた。この時点でへとへとだったが、バスから降りても私は少年のガイドを続けた。
 やがてお昼の時間になった。やっと休憩できる。

「では11時半より13時までは自由行動となりま――いや、子供をひとりにするのは……うーん」
「お姉さんはご飯食べないの?」
「いえ、私もその辺で何か食べますが……」

 少年が何を言いたいのか理解し、私はため息をついて承諾した。

「じゃあ、どこかで一緒に食べましょうか」
「うん!」

 少年が食べたいと言うので、私たちは出店でケバブを頼んだ。
 お会計はどうするか悩んだが、結局は私が出すことにした。一緒に買って、いい年した大人が子供の分を出さないなんて体裁が悪すぎる。

「お会計、一緒でお願いします」
「ありがとう、お姉さん」

 少年が礼を言うと、出店のおばさんは意味を誤解して「いいお姉さんねえ」なんて感心していた。
 ……お姉さんか。

「ねえ少年くん」
「ん?」

 休憩中ぐらいは、仕事の体裁を取らなくてもいいだろう。ベンチに座ってケバブを食べながら、私は気さくに話しかけた。

「どうして今日はひとりなの?」
「んー」
「せっかくだからお姉さんに話してみたら?」
「んー……」

 家庭の事情などがありそうだと思ったんだけど。やっぱり、知り合ったばかりの他人には話せないか。まあ私も、相談されたって解決に導けるわけじゃないしね。

 と思ったら、少年が口を開いた。

「してみたかったんだ」
「何を?」
「デート」
「…………はい?」

 少年の顔は真っ赤になっていて、冗談を言っている風ではなかった。

「……デートって、私と?」
「うん」
「えっと、初対面……だよね?」
「ううん」

 衝撃の事実。前から知り合いだったらしい。

「ごめ、ごめん。どこで会ったんだっけ。私馬鹿だから物忘れが激しくて」
「それは、ヒミツ」

 私がうろたえたからか、少年はもう意地悪を言えるほど持ち直している。

「まさかとは思うけど、このツアーのキャンセルって全部仕込み?」
「……ごめんなさい。断られるのが怖くて」

 呆れて物が言えない。私ひとりを連れまわすために、何万円のキャンセル代をドブに捨てたと思ってるんだ。一体どこのお坊ちゃんだコイツ。

「……嫌いになった?」

 子犬のように不安そうな顔で尋ねられ、思わず吹き出してしまった。
 腕時計の時間を確認すると、もう時間だった。私は席を立ってツアーガイドの帽子をかぶり直した。

「行きますよ、お客様。午後も楽しいツアーが待っています」

 このあとの半日がどうなるのか、私にもわからない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン