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ゆきどけのはるさん

こちらのサイトでは短編を主に執筆予定です ホラー、アクション、グロをよく書きますが、気ままに書いていきたいと思ってます。 Twitter @HrhrKoharu

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彼女を捜す、神の元へ向かう

16/05/30 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 ゆきどけのはる 閲覧数:870

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 太陽に照らされた水面がゆらゆらと揺れている。透き通った水色と白が交互に俺の身体を行き交う。奥へ奥へと引き摺りこまれていく、光の届かぬ黒い闇に、俺の身体は沈んでいく。息も出来ず只、己の最期を感じ取りゆっくりと瞳を閉じる。何も聞こえない、たまに耳にする水音は母胎の中を思い出させる。覚えている筈もないのに体はそれを覚えている。
 ――ああ、どうしてこんなことになったのだろう、と俺は薄れゆく意識の中彼女を捜していた旅中を思い出す。


 ある日、置手紙もなしにいなくなった俺の婚約者。彼女の荷物も全て家から消え、まるで最初からここにいなかったような錯覚に陥る。二人で撮った写真もお揃いで買った食器も俺の分しかない。家中ひっくり返してもどこにも彼女がいた形跡がない。

「彼女はね、神様に選ばれたのよ」

 村人がそう言った。名誉あることだと村中はお祭り騒ぎになった。この俺達が住む小さな離島は周りが海に囲まれている。その為か少しの地震があれば直ぐに津波に呑まれ、多くの被害者を出した。それを防ぐ為何十年、何百年に一度神にお供え物をするのだが、それが彼女だったというのだ。
 神を祀っているのはこの島を東に向かった離島にあるというので、俺はたまらず船を出した。彼女を返してほしいその一心で。ただその離島に辿り着いた者は神域を犯した罰として殺される。のだが、俺は彼女を失った時点で一度死んでいる。どうなって構いやしない。

 海を渡る旅は初めてだった。そもそも村から出ることが初めてで、俺は不安に駆り立てられながら櫂で海の上を渡る。波は穏やかで水面下には魚が自由に泳ぎ回っている。青い空には鴎が白い羽を広げ、風の流れを読んで飛び回っている。何とも穏やかな旅だろうか、と一瞬彼女の事を忘れかける。方位磁石を頼りに東に東に進んでも離党の影すら見えてこない。
 どのくらい時が経ったのだろうか、辺りは段々と暗くなってきている。日が沈むにつれ海も荒れだした。黒い波が高くうねり船に衝突しては、引き、またあたりにくる。木で造られた小さな船はその度ぐらりぐらりと揺れ、今にもひっくり返ってしまいそうだ。倒れないよう均衡を保ちながら船を操るが、朝から船を出していたせいか疲労で眠気が襲ってくる。瞼が重く意識も朦朧としてくる。寝たら死んでしまうという危機感はあっても、眠りからは逃れられるわけもなく、俺はいつの間にか意識を手離していた。

 目が覚めると、船はどこかの海岸に打ちあがっており、俺も無事生きていた。途中波が押し寄せてきたのか髪も服も海水でべたべたになっていた。森林に覆われたこの島は、俺が目指していたところなのだろうか。船を波に攫われないように、砂浜に上げてから俺は付近の捜索に出掛けた。

 誰も住んでいないのか雑草は生い茂り、道もなく木々を掻き分けながら進む。見たこともない鳥や生き物たちが俺の事をじっと見つめている…ように思える。地面には気味の悪い虫が移動している。それを踏まないように気を付けながら道を進むと、急に舗装された場所に出る。雑草は一切なく、木が円を描いて祠を囲っており、木の合間から差し込む太陽の光が何とも神秘的に見える。
 美しさに目を奪われていると、ふとさざ波の音が近くでした。海からはだいぶ距離があるはずなのに、と俺は後ろを振り返ると波がすぐそこまで押し寄せてきていた。悲鳴を上げながら俺は前へ前へと走り、祠の扉を音を立てて開いた。

「――どうしてここにっ」

 婚約者がそこにはいた。薄い布を一枚纏った姿で一人祠の中に閉じ込められていた。俺を見るや否や驚いた彼女を連れて帰ろうと手を伸ばす。伸ばした。しかし彼女との距離は縮まらず、俺は強い力で何かに引っ張られていくのを感じた。その途端息をしようとするが、口や鼻から入ってくるのは大量の水、だったのだ。濁流にのまれて俺は水の中へ沈んでいく。水の中を漂い彷徨うが、力がうまく入らない、呼吸が出来ない。ほんの少しの旅だったが、彼女を最期に一目見れたことだけが、俺にとっては嬉しかった。
 肺に水が回る。体の中の水分が満たされていく。パンパンに身体が膨れ上がり意識が遠のく。

 ――俺が最期に見たのは、水の中に飛び込む彼女


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