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リアルコバさん

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プロレスファン

12/09/15 コンテスト(テーマ):第十三回 時空モノガタリ文学賞【 格闘技 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1771

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「慎二 家の物置小屋を壊すから片付けを手伝いに来い。でないとお前の物は全部捨てるぞ」
それは困る。物置には青春のガラクタが沢山詰まっている筈だ。
そんなわけで土曜日の実家は 久しぶりに賑やかになった。
私と妻、兄貴夫婦と子供たち、両親が全員顔を揃えるのは久しぶりの事であった。

頭に浮かんでいたのは、《開封厳禁》とマジックでかいた段ボール箱だ。よりすぐりのエロ本とアダルトビデオが入ったあの箱を、誰に気づかれる事なくどう処分したものだろうか。
「さて、ぼちぼちやるか」
土産話でお茶を飲み干し、女達は台所へ向かい、男達も重い腰を上げる。子供達は既に近くの公園で遊んでいるのだろう。

「随分傷んだな」
「あぁもう50年だからな」
「何が入ってたかな」
「ガラクタさ」
そう呟いて親父が立て付けの悪くなった戸を開けた。
薄暗く澱んだ埃臭いような、昔のままの冷たい空気が張り付いたような、そんな空間に目が慣れてくると、懐かしい自転車の向こう側に、整然とダンボール箱が積み重なっていた。
「大体は整理してある。あとはお前たちの判断で捨てようと思ってな」
几帳面な親父の仕事はそつがない。

「おぉプラモデルか」兄貴がひとつの箱から戦闘機のプラモデルを取り出した。
「子供らのおもちゃに貰ってこうかな、ククク慎二は不器用だったよなぁこれだもん」
翼の合せが歪み、塗装もおぼつかない一つを取り出して笑う兄貴は、今で云うとオタクだったのだろう。いやそんなことより俺の箱はどこだ。

「うわっこんなにあるのかよ」
プロレス関係と書かれた箱が別の一角を占めていた。 
「あぁこれどうしようかと思ってな、お前のもあるぞ』
親父は街頭テレビの頃からのプロレスファンである。(力道山がアメリカに勝った時の興奮はこんなもんじゃなかった)他のスポーツで日本が勝った時に、必ず呟いていたことを思い出した。

「やっぱり最終的には藤波だよな、ドラゴンスープレックスは最強だった」
箱を開けて兄貴がプロレス雑誌の表紙に食いついた。
「何がドラゴンだ。その前に猪木のコブラツイストで足腰立たなくなるぞ」
俺の頭にはスローモーションのように、技をかけられやすい体制で待つ相手レスラーの間抜けな仕草が浮かんでいる。

「でもあの時代はやっぱり鶴田かな」
「あぁあいつは強かった。身体が強い。しかし馬場の16文だけはかわす事ができなかった」
ダンボールの一つに親父が腰を下ろして雑誌を手に取って捲り始める。
「今までの中で最強は誰だろうな」
「力道山だろう」
「いや空手チョップだけじゃ無理だろう、初代タイガーの佐山聡はすごかったもん」
兄貴が別の箱を開けた。俺はあのアクロバティックな空中殺法を思い出し(力学的に不条理だ)と思いつつ、開封厳禁の文字を探していた。
「前田や船木の時代だとK1に近いし、やっぱり長州や天竜あたりまでがプロレスの王道かね」
「あぁ藤原組長の関節技も玄人好みのいぶし銀だったな」
もう止まらないふたりのプロレス談義は、時代を超えたバトルロイヤルを展開していく。 
力道山がタイガーマスクを空手チョップで叩き落とし、その空手チョップをかわした三沢のエルボーが力道山を倒し、その横で武藤が決めのポーズを始めるとそこに馬場が16文キック、待ってましたと前田や船木がローキックを浴びせ猪木がフォールした。 

「でも格闘技なら今の総合格闘技の方がリアルに強いだろ」
何気なく呟いた俺の一言に、冷ややかな視線が注がれた時、開封厳禁の箱が右下奥に見つかった。

しらけた空気の中で、作業が黙々と進んだ。
「惜しいけど捨てるか」
最後まで残ったプロレス関係の箱を親父と兄貴が見つめる。 
「ん?なんだその箱」
兄貴が目ざとく開封厳禁と書かれた箱を見つけた。

「あぁ俺のガラクタ、捨てだよ捨て」
俺が急いで焼却所行きの軽トラックに、ダンボールを積み込んだ時、
「あら懐かしい、私前田日明さんのファンだったんですよ」
3時のおやつと呼びに来た妻が、開いていたダンボールから雑誌を取り出す。彼女が隠れプロレスファンだと知ったのは結婚して数年が経ってからだった。
「おっ知ってるのかい」
タオルで汗を拭いながらまた笑顔になった親父が話し始める。兄貴が前田日明の特集記事を箱の中から探し始めた。

俺は話について行けずに開封厳禁の中身の甘酸っぱい青春を思い出しながら
「じゃ捨ててくるぞ」
軽トラックをゴミ焼却所に向かい走らせた。
(まぁいいさ あんなに好きなものならこの先どこかに置いてあっても無駄にはならんだろう)俺の頭の中で街頭テレビにかじりつく若かりし親父の顔がはっきりと浮かんだ。

3人のプロレス談義は子供たちを巻き込み、夜遅くまで続いていた。 


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