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つつい つつさん

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友達に会える日

16/05/29 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:6件 つつい つつ 閲覧数:1770

時空モノガタリからの選評

「把空薔薇ちゃん」などのネーミングなどから、ある種の家庭の雰囲気が伝わってきますが、それを色眼鏡で描くのではなく、子供の親を思う気持ちが素直に描かれていると思います。無条件の愛と言いますが、親の子供に対する愛よりも、どちらかというと幼な子が親に抱く感情の方が、純粋であるのではないかと感じました。絵本のような優しい語り口で、過酷な現実を描いているせいで、余計に胸に迫るものがありますね。

時空モノガタリK

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 把空薔薇(バーバラ)ちゃんはいつものようにお気に入りの絵本を寝そべりながら読んでいます。そこには、クジラ、サメ、イルカ、ジュゴン、アザラシ、セイウチ、トドなどの海の生きもの達の写真や可愛いイラストがたくさんのっています。その中でもバーバラちゃんは特にイルカさんが好きです。いつかイルカさんと仲良くなって、いっぱいいっぱい遊びたいなって思っています。
 バーバラちゃんは、すくっと立ち上がるとリビングの隅のおもちゃ箱から画用紙をクレヨンを取り出し、画用紙を床にばっと広げます。その勢いで床に置いてあったコップからジュースがこぼれたけど、そんなこと全然気にしないで楽しそうにお絵かきを始めます。赤や青や緑のたくさんの色とりどりの線で自由に絵を描いています。バーバラちゃんには何が見えているのかな? そこでは、どんな楽しいことが繰り広げられているのかな?

 Tシャツにスラックス姿で頭ボサボサのママが眠たそうに目をこすりながらリビングに入ってきました。お絵かきしてるバーバラちゃんの横にはジュースのしみが広がっています。ママは顔をしかめると、バーバラちゃんを蹴飛ばします。
「コラッ、あんた、こぼれてるやん!」
 バーバラちゃんはびっくりしてしまって、両手で頭を抱え固まってしまいます。頭隠して尻隠さずな状態のバーバラちゃんのお尻をママはまた蹴飛ばします。
「こぼすな言うてるやろ。お行儀良くしとけっていつも言うてんのわからんのか?」
 ママは転がったまま顔を両手で覆い隠し怯えているバーバラちゃんを体ごと引っ張り、バーバラちゃんの来ている服をひっぱり、それでジュースのしみを拭き取ります。そして、なにごともなかったかのようにソファに座ると、ネイルアートが少し剥がれた綺麗な指先でスマートフォンをいじりはじめました。
 しばらくすると、バーバラちゃんは指の隙間からそーっとママの様子を窺います。すると、ママは嬉しそうにスマートフォンを眺めています。バーバラちゃんは安心して、ママの顔を見つめます。バーバラちゃんはママの笑顔が大好きです。笑っているママが一番好きです。でも、ママはあんまりバーバラちゃんに向かって笑ってくれません。それでも、バーバラちゃんはママが笑ってる時が一番好きです。

 リビングにあご髭をはやしたイケメンのお兄さんも入ってきました。
「腹減ったわ。なんか作ってや」
 ママは面倒くさそうに周りを見渡します。
「そのへんにパンでもない?」
 お兄さんは鼻をつまみます。
「あ? なんか臭ない?」
 そして、またかって顔でバーバラちゃんを指さします。
「コイツちゃう?」
 ママはバーバラちゃんを睨みます。
「あんた、また漏らしたんか!」
 お兄さんは「コイツ、どうにかしろよ」って顔をしかめながら、バーバラちゃんを無造作にひょいと片手で抱えると、ベランダに放り出します。お兄さんは即座に鍵を閉めるけど、ママはもう興味なさそうな顔でスマートフォンをいじっています。

 バーバラちゃんは今日は絵本を持ったまま放り出されたので、ラッキーでした。この頃は暖かくなってきたら、寒いって泣きわめいてまた叱られる心配もありません。青空の下、いつかイルカさんとこの空のような青い海で泳ぎ回ることを夢見ながら絵本を眺めまます。

 どのくらい時間が経ったのか、バーバラちゃんが目をさますとすでにベランダはぐしゃぐしゃに濡れていました。局地的な大雨がバーバラちゃんの住む街を襲います。強くて大きめの雨粒が激しい音と共にバーバラちゃんの体を容赦なく叩きつけます。おぼろげな意識の中でバーバラちゃんは立ち上がろうとしますが、冷たくなっている体はなかなか動いてくれません。ママとお兄さんはこの激しい雨に気づいてないのか、バーバラちゃんが外にいることを忘れているのか、それとも、最初から気にしてないのか、ベランダの鍵は閉まったままです。
 ぼんやりとした中、バーバラちゃんは鍵を開けようとしますが、扉はびくともせず、雨音と水の冷たさだけがバーバラちゃんを包んでいきます。さらに朦朧としてきたバーバラちゃんは倒れ込んだまま動かなくなり、バーバラちゃんの意識は深く深く沈んでいきます。まるで海の底に沈み込むようにバーバラちゃんはゆっくりゆっくりと深く蒼い世界に落ちていきます。

 聞こえる? 
 呼んでるよ バーバラちゃん。

 蒼暗い底に沈んでいくバーバラちゃんのまわりにイルカさん達がいっぱい集まってきました。

 もうすぐだよ、バーバラちゃん。 
 もうすぐ、友達が出来るよ。 
 もうすぐ、友達に会えるんだよ……バーバラちゃん。


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このストーリーに関するコメント

16/06/04 冬垣ひなた

つついつつさん、拝読しました。

児童虐待という痛ましいテーマを描きながら、最後まで暖かいのは、バーバラちゃんの絵本の世界を通して、友達の優しさに包み込まれるからでしょうか。
非情な仕打ちと雨がもたらした、友達に会える日……バーバラちゃんの魂の安らぎを祈ります。

16/06/05 つつい つつ

冬垣ひなた 様、感想ありがとうございます。
テーマは重いのですが重さを前面に出したくなかったので、絵本調に書いてみました。
痛ましい事件とかあると、別の結果がなかったのかなと思ってしまいます。

16/06/23 宮下 倖

拝読いたしました。
タイトルと冒頭、やさしい語り口から穏やかな作品かと思いきや、一転する展開で最後まで興味深く読ませていただきました。
『蒼暗い底に沈んでいくバーバラちゃんのまわりにイルカさん達がいっぱい集まってきました』
この一文の情景を想像し切なくなりました。
子どもに関する虐待事件は本当に胸が痛くなります……。

16/06/25 つつい つつ

宮下 倖 様、感想ありがとうございます。
虐待する人はひどいことをしていると気づいてないような気もします。
どうにかして気づいてくれないかなと思います。

16/07/08 光石七

拝読しました。
優しい、絵本のような語り口の中、明らかになっていく痛ましい状況。涙を禁じえませんでした。
こういう虐待は根絶されてほしいと心から思います。特に親としての自覚や責任感が無い親は許せない。
温かく柔らかい空気感が救いのようでもあり、切なさを際立たせてもいて…… ああ、また涙が……
心に深く染みこんでくるお話でした。

16/07/09 つつい つつ

光石七 様、感想ありがとうございます。
虐待のニュースを見ると本当につらいです。親としての責任とか自覚、子供に対する気持ちを少しでいいから持ってほしい。最悪なことになる前に持ってほしいと思います。

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