1. トップページ
  2. 【老人の夢】

KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

【老人の夢】

16/05/25 コンテスト(テーマ):第81回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:883

この作品を評価する

「君の夢をきかせてくれないか」
 杖をついた老人は、携帯電話を片手にメールを打っていた若者に話しかけた
 駅前のスクランブル交差点で信号待ちをしていたときだ
 街の騒音にまぎれ老人の声は若者にとどかない
 信号が青になり、若者は携帯の画面を見たまま歩きだす
 老人はさびしそうに首をふり、駅の方へと歩いていった


「君の夢をきかせてくれないか」
 杖をついた老人は、改札口の前で心配そうに携帯電話をにぎりしめている少女に話しかけた
 改札口からはありとあらゆるタイプの人間がながれ出、ありとあらゆるタイプの人間が吸い込まれていく
 同じような色、同じような形、同じような匂い、しかし別々の存在
 少女の肩がおなじ豹柄のシャツを着た少年にたたかれる
「もう、おそいよ、何分待ったとおもってるの」
「ごめん、ごめん、早く来すぎたもんだから、その辺をふらふらしてたんだ」
 少女と少年の笑顔はまぶしい
 老人はあきらめ顔で首を振り、改札をとおっていった


「君の夢をきかせてくれないか」
 列車の中、杖をついた老人の向かいに座る女の子、七歳くらいだろうか
 両足を楽しそうにゆらしている
 女の子は口を半分ひらいて、かたまった
 次の瞬間、たちあがると隣の車輌にかけていった
 風景は都市から田舎へと水平にながれている


「君の夢をきかせてくれないか」
 杖をついた老人は、田舎のスーパーマーケットから出てきた夫人にたずねた
「あらあら、あらあら」
 夫人は笑いながら老人の横を通り過ぎていった
 両手にはネギと大根の飛び出した買い物袋
 まあるいお尻が左右にゆれている


「君の夢をきかせてくれないか」
 杖をついた老人は、玄関まで迎えに出てきた妻にきいた
 台所からは米の炊ける匂い、みそ汁の香り、魚を焼いた音がしてくる
 妻の胸にはバラの花をかたどった金のブローチが光っている
「あなたの夢はなんなの、わたしに教えて」
 杖を受けとった妻の肩に手をおきながら、老人は少し首をかしげた
「わしの夢、わしの夢はもう叶ってしまった」
「わたしの夢ももうかないましたよ」
「そうだな」
「そうですね」
 窓から差し込む淡い夕日が妻の瞳をきらきらと輝かせている
 妻の肩に手をおいた老人は、一緒に食卓へと歩いていった
 老いた妻の肩は、ほそく、そして暖かかった


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン