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夏川さん

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雨乞いで台風を呼ぼう

16/05/23 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 夏川 閲覧数:1104

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『台風は徐々に勢力を弱め、明日には温帯低気圧に変わる模様です』
 お天気お姉さんの言葉に、俺は落胆の声を漏らす。
「はぁ、休校のチャンスが」
「俺はこうなる気がしてたよ」
 杉野は澄ました顔をしているが、その声からは失望が滲み出ている。しばらくの沈黙の後、杉野は不意に真面目な顔で口を開いた。
「お前、台風が消えるのをただ見てるつもりか?」
「どういうことだよ」
 聞き返すと、杉野は悪戯っぽく笑う。
「雨乞い、しようぜ」



「で、なんで雨乞いに味付きホルモンがいるんだ」
 雨乞いを承諾した後、なぜか俺は杉野にスーパーへ連れていかれ、なぜかホルモンの金額の半分を払わされ、そして近所の鬱蒼とした森の池に連れてこられた。
 杉野はおもむろにスーパーの袋からホルモンを取り出す。
「動物の内臓で水を汚し、水神を怒らせて雨を降らせるんだ」
「へぇ、そんなの一体どこで知ったんだ?」
「ウィキペディア」
 即答だった。俺は思わず吹き出す。
「なんだそれ、雰囲気無いなぁ」
「何言ってんだ。俺たちはいつだってウィキペディアを信じてきたじゃないか。怪しい巻物なんかよりよほど信用に値する」
「まぁそれもそうか。でもさ、それって綺麗な水を汚して神様を怒らせるんだろ? この池、なんていうか」
 俺は池を見て思わず顔を顰める。
 池の水は緑色で濁っており、底が全く見えない。時々大きな影が池を横切るが、その正体を窺い知ることもできない。ここにホルモンをぶちまけたとして、水質になにか変化を及ぼせるだろうか。
「まぁ言いたいことは分かるけど、やるだけやってみようぜ」 
 杉野の言葉で俺達はさっそく池にホルモンを投げ入れる。
 すると突然大きな金色の鯉が水面を跳ね、ホルモンを飲み込み、水しぶきを上げながらまた水底に沈んでいった。
 呆然とする杉野と俺。先に口を開いたのは杉野だった。
「……池の主を喜ばせてしまったようだな」
「残りは二人で食おうぜ」



 これで作戦は終わりかと思いきや、杉野はなかなか諦めの悪い男だった。
「さぁ次行くぞ次!」
「まだやんのか」
「このままじゃ終われないだろ。そんなんじゃ台風消えるぞ」
 俺達が向かったのは近所の空き地だ。ここは背の高いススキに囲まれていて目隠しになるし、周辺に建物もない。アホなことをするにはうってつけの環境だ。
「次はなんだよ」
「良くあるやつ。火を焚いて太鼓を叩いて大騒ぎする。これは煙を上げることで雲を、太鼓で雷を表しているらしい。でも台風は雷鳴らないな。火だけでいいか」
「ならこれも焼こうぜ」
 俺は家から持ってきたフライパンと残ったホルモンを掲げる。俺達はその辺のススキと木の枝を集め、マッチで火をつけた。ススキは良い具合に枯れており、良く燃えている。フライパンの上のホルモンから芳ばしい匂いと共に煙が立ち上る。もはや雨乞いだか何だかわからないが、これはこれで良い。 
 が、ここに来て俺は自分の犯した大きな失敗に気が付いた。
「あ、箸忘れた」
「えっ! マジかよ」
 箸を取りに戻っていてはせっかくのホルモンが炭になってしまう。ここは黄金の右手を使うしかあるまい。俺は腕まくりし、居住まいを正した。
「お前正気か?」
「ああ。行くぞ」
 そう宣言し、俺は素早くホルモンをつまむ。しかしその熱さは想像を絶するものだった。ホルモンは俺の手を離れ、焚火の中へ落下していく。
「うわっ、落とした」
「無理すんな。こう、ススキを箸代わりにしてさ――」
 その時、激しい破裂音と共に焚火の中の炎を纏ったホルモンが跳ねた。それは華麗な放物線を描いてススキ草原へと飛んで行き、そしてそこから火の手が上がる。
「おい杉野、これヤバいんじゃ」
「に、逃げろ!」
 俺らがススキ畑から抜け出す頃には、あたり一面火の海になっていた。
 もうもうと立ち上る煙は、まるで巨大な雨雲のようで――



「いやー、まさか本当に休みになるとは」
 電話の向こうで杉野が笑う。その呑気さに俺は大きくため息を吐いた。
「笑いごとじゃねぇよ。雨乞いも効かないし」
 窓から見える空は真っ青で雲一つない。ではなぜ休みになったのか。もちろんあの火事のせいである。
「親父に殴られて口切っちゃったよ。お前んとこはどう?」
「俺も似たようなもんだ」
 俺は頭のこぶを撫でながら口を尖らせる。
 ススキが燃えただけで他に被害はなかったが、俺らは親にしこたま怒られ、さらに停学処分を食らったという訳である。
「まさか雨乞いで停学になるなんてな」
「ま、退学じゃないだけ良いだろ。それより今度バーベキューしない? 結局ホルモン喰えなかったし」
 杉野の能天気に半分呆れ、そして半分感心しながら答えた。
「綺麗な水辺の、ススキの無いとこにしような」


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