1. トップページ
  2. 雨に震える

ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 小説プロット提供家
座右の銘

投稿済みの作品

0

雨に震える

16/05/23 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:784

この作品を評価する

タケルはベッドに横になり、布団を頭からかぶって耳を塞いだ。
窓を閉めていても、雨音が部屋に響いた。
酷い頭痛と早まる鼓動に、言い知れぬ不安と恐怖に怯えた。
ベッドから起き上がったタケルは、病院でもらった精神安定剤を3錠、水と一緒に飲んだ。
夜、バイト先のコンビニに自転車で向かい、昼勤のスタッフと入れ替わった。明日の朝5時までが勤務時間だった。
同じ時間に勤務についた安藤が、床をモップで水拭きしながら、
「昨日の昼過ぎ、新橋駅前の広場で、靴磨きのバイトしてたでしょう」と言った。
「誰がですか?」
「またまた、とぼけちゃって。バイト掛け持ちしてるんでしょう」
「してないですよ」
「えっ? マジ。人違いだったのかな……」
「俺に似てたんですか?」
「そっくり。顔も体格も瓜二つだった。客の靴磨いてたから話しかけなかったけど、マジで人違いなの?」
「俺じゃないですよ。でも、どんな奴なのか見てみたいな」
「明日、行ってみれば。もしかしたら新橋駅前の広場で靴磨きしてるかもよ」
翌朝、バイトが終わり自宅に帰って寝た。昼前に目覚まし時計で目を覚ますと、シャワーを浴びてから外に出た。
電車を乗り継ぎ新橋駅に到着すると、駅前でその男を探した。すぐに分かった。安藤が言うように、タケルに瓜二つだった。
「靴磨きいくら」タケルは、顔を下に向けて作業道具の整理をしている青年に話しかけた。
「500円です」顔を上げて言った青年が驚きの表情を浮かべた。
「君、名前は?」
「斎藤ミノル。あなたは?」
「坂部タケル。年は?」
「23歳」
「俺も同じ。ちょっと話す時間つくれない?」
ミノルは腕時計に目をやると「あと30分で仕事が終わりなんです」と言った。
「じゃあ、駅前のマックで待ってるよ」
30分後、ミノルがコーヒー片手に2階のフロアーに上がって来た。
席に座ると、タケルはマジマジと自分と瓜二つな男を見つめた。
「ミノル君、血液型と生年月日は?」
「O型で、生年月日は1993年2月14日」
「俺もO型。生年月日も同じ」タケルは言った。
「タケル君って、もしかして出身は岩手県?」
「うん」
「親は?」
「施設で育った」
「タケル君は、もしかしたらボクの双子の兄弟かもしれない。ボクの母さんに、これから会ってみない?」
タケルは、ミノルに連れられて大田区にある木造アパートのドアを開けて中に入った。
2部屋ある四畳半の一室に、酷くやせ細った女が布団に寝かされていた。
「母さん、ただいま。お客さんを連れてきたんだ。もしかしたらボクの双子の兄弟かもしれない」
女は頬がこけ落ちた目を大きく見開き、ゆっくりと上半身を起こした。
骨と皮だけなのが、パジャマの上から分かった。
「タケル君、母さんは末期のガンなんだ。声が聞き取りにくいけど話してやってくれ」
「お名前は?」か細い声で女が言った。
「坂部タケルです」
「母さん、タケル君は岩手の出身で施設で育ったんだ。血液型も生年月日もボクと同じなんだ。顔を見てもボクと同じだろ。タケル君は間違いなくボクの双子の兄弟だよ」
女は乾燥した皮膚に涙を流しながら、両手を合わせて「許してください。許してください」と2回謝った。
「詳しく聞かせてもらえますか?」
女は顔を皺くちゃにしながら目を瞑った。
23年前の日付が変わった2月14日の真夜中、その日は雪ではなく雨が降っていた。公園のトイレで双子の男の子を出産した。望まれない子供だった。殺して自分も死のうとしたが死にきれず、着ていたダウンジャケットに包んで、1人を公園に隣接する神社の境内の、雨に濡れない場所に置いてその場を立ち去った。
置いていった子だけは、何とか生き続けてくれることだけを願った。ミノルと自分は死のうとしたが、どういう訳か、東京で23年間も生き続けてしまった。そう女は言って目を開いた。
タケルは、自分がなぜ雨の音を聞くと恐怖と不安に陥るのかが、やっと合点したように感じた。生みの親に捨てられた日、雨が降っていたからだったのだ。朝、境内から離れた場所に住む神主に発見されるまで、雨の音と寒さに震えていたのだろう。
タケルはずっと、自分を捨てた母を憎んで生きてきた。心を閉ざした幼少期。思春期なると暴走族に入って、他人に迷惑をかけ続けた。それは母親への反抗心でもあった。自分を捨てた母に対する恨みを、他人にぶつけることで気持ちの整理をつけていた。
でも今、母と呼べる人の話を聞いて、自分は生き続けてくれという願いを込められて、あの雨の降る寒い日に捨てられたと言うことを知った。
タケルは捨てられはしたが、母の罪深いが海のように広い愛に初めて触れた。心の奥底の怒りで凍りついた何かが、今、音を立てて融けたように感じた。
「母さん……」一生使うことが無いと思っていた言葉が、口から自然と涙と一緒に零れた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン