1. トップページ
  2. 茨の道に一個の甘夏

むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

投稿済みの作品

1

茨の道に一個の甘夏

16/05/22 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:1018

この作品を評価する

母のおんぶで見る月は、
追いかけてきても安心の月。

父の助手席、膝立ちで風を覗いたあの日の風も、
安心の風。

姉さんに連れられて行ったライブハウスの喧騒も、
あって欲しい喧噪。

だけど、僕一人で剥いた甘夏は、
酸っぱくて酸っぱくて、
僕は、食べるのをやめる。

季節なんて、果物に教えてもらわなくてもカレンダーに書いてある。
ビタミンCなんか柑橘の果物だけに含有する栄養素だと思うなよ。

ボーイスカウトの年少組で川に放された鮎を追いかけたあの日に、
薪のトゲが手に刺さった。
「知らんおっちゃんよりお母さんの方がええやろう」って、
リーダーのおじさんは言った。
母さんは胸についていたブローチの針の先を薪の火で焼いて、
僕の左手の掌を突っつき。

小学校の夏休み、プール授業の帰り道、
僕がもらった映画の値引き券を、一個上の暴れん坊にひったくられた。
悔しさに涙、滲ませて帰った僕にその夜、
父さんはビールを二口飲ませてくれた。
何も言わなかったけど、ビールの苦みで映画の値引き券は消えていった。

大学入学前の春休み、
免許の合宿受付をする僕に、
前もって坂道発進のコツを教えてくれた姉さんの髪からは、
柑橘系のシャンプーの香りがした。

中学三年の夏、
駅前にできた漫画喫茶のハシリのお店。
外観からは何のお店かわかりにくく、敷居が高かったあの店の、
重たいドアを一緒に押した鈴木君は、今はもういない。

僕の歩いてきた道のトゲトゲの茨は、
いつでも、誰かが払ってくれていたんだ。
みんなの血にまみれた掌のおかげで、
僕は、甘い果物だけを食べてこられたんだ。

甘夏は転がっている。
いい気なものだ。
尻尾巻いたのは、僕が一人だったからだ。
もうすぐ、
彼女のみぃちゃんが来る。
そしたら二人できっと、
酸っぱい柑橘はこうすれば食べやすいよって、
小皿にいれた黒砂糖につけながら、食べることでしょうね。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン