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雪解さん

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甘夏色の約束

16/05/22 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:6件 雪解 閲覧数:827

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 空が青く澄んでいる。おじいちゃんに借りたフィルムカメラ、それを構え、タイミングを見計らう。すると、エンジンの音が聞こえてきて。胸の鼓動が速くなっていく、その瞬間を捉えようと。
 世間はゴールデンウィークに入り、僕は一人で都心から離れた祖父母の家に遊びに来ていた。
 おじいちゃんは家の裏に山を持っていて、その山には甘夏のなる木が無数に生えている。毎年、この家で広大な自然を見ながら、一緒に甘夏を食べるのが僕の中で恒例となっていた。
「ケン太ー、おじいちゃんと山に登っておいで」
 おばあちゃんが買い物から帰ってきた。少し興奮気味だ。
「やだよー。疲れるもん」
「これを見ても、同じことが言えるかい?」
 おばあちゃんが僕に差し出してきたのは、一枚のチラシだった。小型飛行機がテスト飛行をすると書いてある。
「へえー、見てみたいな。近くを飛ぶのかな」
「ご近所さんが飛行場に勤めててね、飛ぶ道なりを聞いてきたんだけど、うちの山の上を通るみたいよ」
「それを早く言ってよ! おじいちゃん、前に使ってたカメラ貸して」
「まあまあ、せわしないわね」

 カメラを首にかけ、獣道を歩きながら、小さなハサミで甘夏を取る。十字に切り込みを入れ、そこから皮を剥いていく。
「手慣れたもんだな」
 おじいちゃんが感心している。
「教えてくれた人が上手だったからね」
「よせやい」
 照れているおじいちゃんを尻目にぱくぱくと甘夏を口に入れる。
「ここの甘夏は食べやすいね」
「わしが手入れしとるからな」
「甘夏を食べると、もうすぐ夏が来るって感じがする」
「そういう感覚も大事だな。また来年も食べにおいで」
 来年というワードを聞いた途端、思い出してしまって、地面に涙がポロポロ落ちた。
「あれ、なんでだろう。甘夏の果汁が目に入ったのかな」
 おじいちゃんがじっとこちらを見る。
「ケン太、心配をかけてすまんな」
 その言葉を聞いて、僕は涙が止まらなくなってしまった。

 寒い冬の日だった。僕はコタツに入りながら、次はじいちゃんを絶対に倒すぞ、と将棋のアプリで遊んでいた。
 家の電話が鳴る。嫌な予感がした。家族は皆、携帯を持っているので、家の電話が鳴る時は親族のめでたい報告か悲しい報告がほとんどなのだ。
 母が電話にでると、すごく低いトーンで相槌を打っていたので、悲しい方だということがすぐにわかった。将棋に集中できなくなり、相手に王手をかけられた。僕は対戦を諦め、アプリを閉じた。
「誰か亡くなったの?」
 言った後にとても無神経な一言だったと気付く。
 母の父、そう、おじいちゃんに重い病気が見つかった、という連絡だった。

 僕がようやく泣き止むと、おじいちゃんはそっと僕の額にげんこつをあてた。
「男がそんなにメソメソするもんじゃねえ。わしは笑って生きてきた」
 そう言いながら、今度は頭を撫でてくれた。

 山頂に着くと、おじいちゃんが息を切らしている。
「大丈夫?」
「うん、少し疲れただけだ。そこに座ろうか」
 二人で木のベンチに腰掛ける。腕時計を見ると、飛行機がくるまでに時間があった。おじいちゃんにお礼を言っておきたい。何となく、これを逃したら言えなくなってしまう気がして。
「おじいちゃん」
「ん、どうした?」
「毎年、僕に良くしてくれてありがとう。甘夏を食べさせてくれたり、将棋を教えてくれたり。僕、おじいちゃんがいなくなった後も頑張れるかな、わからないよ」
 おじいちゃんは少し空を見上げた後に微笑んだ。
「わしが10歳の時はケン太みたいに賢くなかったよ。お前は優しい子じゃ。頑張れる」
「でも、僕、優しいんじゃなくて泣き虫なだけだし」
「自分のためでも、人のためでも、泣きたい時は泣いたらいい。来年には、わしはもういないかもしれん。でも、ケン太と一緒に甘夏を食べたことや、飛行機を見たことは忘れない。だから、ケン太も忘れないでくれ」
 遠くから、エンジンの音がかすかに聞こえる。
「おじいちゃん、飛行機きてる、そこの木の横に立って、バックに飛行機を入れて撮るから!」
「いいのか、ケン太を撮ってやるぞ?」
「約束を忘れないために、おじいちゃんを撮っておきたいんだ」
 ファインダーを覗いても、ぼやけている。泣いてしまって、前が見えないのだ。
「なあ、ケン太。わしはかあさんと結婚して、娘が生まれ、そして孫のお前が生まれた。もう土に還っても、余るぐらい幸せをもらったよ。だから、大丈夫」
「うん」
 飛行機が近づいてくるのがわかる。涙をぬぐって、目を見開く。カメラの先には甘夏を持って微笑むおじいちゃんの姿がしっかりとある。指に力を入れ、カシャとシャッターを切った。
 おじいちゃん、また、来年くるね。その次の年も。子供や孫ができた時もきて、おじいちゃんの話をするね。


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このストーリーに関するコメント

16/05/24 クナリ

魅力的な二人が描かれており、飛行機がやって来てそれを写真におさめるという印象的な日のお話なので、会話するだけではなく「二人での行動」や「積み重ねた過去」の描写が充実するともっと求心力が上がると思いました。
また、甘夏、飛行機、祖父との別離などのストーリーの構成要素がバラバラに配置されている感じがしたので、互いに何らかの関連性があると話の印象が強まると思います。

16/05/25 桜餅

薄い感想ですいません...
場面の風景や空気感も伝わってきて、とても素敵なお話でした。

私も祖父にはいろんな面で助けて貰っているので、感謝の気持ちを何かの形で伝えたいと思います...

16/05/25 雪解

クナリさん、コメントありがとうございます!

とても的確に改善点をご指摘いただき、ハッとさせられました。
求心力や関連性も視野に入れ、次に生かしていこう、という気持ちになりました。

16/05/25 雪解

桜餅さん、コメントありがとうございます!

素敵な話と言っていただけるだけで嬉しいです。
おじいさまに対してそういう想いがある、という時点で、桜餅さんの優しさを感じます。

16/06/01 冬垣ひなた

とても情景が思い描きやすく、重いテーマにもかかわらず前向きで爽やかな読後感でした。
甘夏の季節を写真で切り取った今と、未来へ飛行機が飛んでゆく対比など、素敵なセンスだと思うので、もっと読者へアピールしても良いかもしれませんね。
読んでいて優しい気持ちになれました、ありがとうございます。

16/06/02 雪解

冬垣ひなたさん、コメントありがとうございます!

今回は読んだ後に、ズシーンと気持ちが沈まないものと意識して書いたので、気付いてもらえて嬉しいかぎりです。
アピールという点も意識できるように頑張ります。

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