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つつい つつさん

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サイコーな一人旅

16/05/13 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:927

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 大学生になり、初めてのGW。僕は前から憧れていた一人旅に出ることにした。ぶらりと知らない場所に訪れて、森や川や自然の景色を堪能したいって思ってたけど、高校生の時は、なかなか泊まりの旅は許してもらえなかった。だけど大学生になり親も国内ならって、許してくれることとなった。
 僕はあえて行き先も決めずに始発の電車に飛び乗り五時間後、昼前には来たこともない田舎町に降り立った。リュックひとつに寝袋を詰め込んで、これから三日間なにをどうしようか期待に胸を膨らませながら町並をキョロキョロと見渡した。すると、一台の軽トラックがキュキュッと僕の真横に止まった。
「やぁ、若者よ!」
 軽トラックから短髪で灰色のタンクトップを着て日焼けしたムキムキの三十代くらいのお兄さんが出てきた。僕はきょとんとしたまま固まってしまった。
「どうした? この町になんの用だ? 誰かの親戚がいるのか? 送っていってやろうか?」
「え? いや、その、一人旅で……」
 大きくうなづいたそのお兄さんは、馴れ馴れしく僕の肩に腕をまわす。
「そうか、そうか。だったら俺の家に泊めてやるよ」
 そう言うと車の助手席のドアを開ける。
 は? え? いや? べつに? っていうか誰? 泊まる? どういうこと、とか考えてる間に腕を引っ張られ、気が付いたら助手席に座っていた。車は知らない道をどんどん進み、お兄さんはベラベラと機嫌良くしゃべっている。やれ、この時期は一人旅の若者が多いんだ。俺はそんな若者を見ると誰でも泊めてやってんだって。でも、そんなことより降ろして欲しかった。旅だから地元の人とのふれ合いも悪いわけじゃないけど、僕はまだ旅を始めたばっかりだ。まず、自分の足で自由にいろんな所を歩きたかった。だけど、そんなこと言う間も与えずお兄さんはしゃべり続け、そして、走り続けた。
 一時間近く走ると、古ぼけた一軒の農家の前に降ろされた。僕は、こんな遠くまで来たんじゃ駅まで自分で帰れないよって、少しブルーになった。
「ところで若者、名前は?」
「は? あ、中田勝(まさる)」
「おお、勝、遠慮せずに入れ。俺のことは、兄貴とでも、呼んでくれ」
 はあ、兄貴ですか。なんなんだろう、この人? 何がしたいの、とか考えてる間に家の中に通され、中には僕と同じ歳くらいの眼鏡を掛けたひょろひょろっとした若者がいた。
「博、これ勝な。今、駅で拾ったんだ。仲良くしろな、博。勝も」
 その博君は曖昧に微笑んでいた。仏教で言うところのアルカイックスマイル。なんか全てを受け入れるように笑っていた。だけど、僕は仲良く? 知らない人と? って、この兄貴も会ったばかりの人だし、この博君も知らない人だし、知らない人の二乗。僕はそんなコミュニケーション力あるほうじゃないのに。困ってしまった僕は博君みたいに微笑めるはずもなく、たぶん相当嫌そうな顔していたと思う。車の中では一応親切にしてもらってるみたいだからお愛想に笑っていたけど、この表情じゃ、さすがに嫌がっているのがバレただろうから、少し気まずかった。
「おお、夕食までどうする? 川まで行くか? 博は写真が撮りたいんだったな。勝は、川でも入れ。こっちの水はまだまだ冷たいぞ」
 僕が嫌そうにしていることなど全然気にしない様子で兄貴は話を進める。僕は、今すぐ帰りたかったけど、人に意見出来る性格じゃないし、人に合わせてしまうタイプだから、強く否定することも出来ず、結局また車に乗って川に行くことになった。
 それから川で遊び、家に戻り夕食をご馳走になり、兄貴は満足そうにビールを飲みながら「明日の朝は、四時起きだぞ。キャベツの収穫手伝わせてやるよ。畑仕事もいいぞ、それも旅の醍醐味だ」って一方的に宣言すると、自分の部屋に戻って寝た。僕と博君は二人きりになった。
「大変でしたね。僕もおととい駅で捕まったんです」
 博君が苦笑まじりで僕に言った。僕は自分から進んでこの家に来た人なのかと思っていたから、少し安心した。
「僕は明日の昼で帰るんですけど、帰る時こんなもの書かされるみたいですよ」
 博君が差し出したノートは表紙に「想い出ノート8」と書かれていて、中には「いい思い出になりました」「貴重な体験が出来ました」みたいな、小学生の感想文みたいに仕方なく書きましたってバレバレの感想が綴られていた。兄貴はこのノートを見て、ひとり喜んでいるんだろうな。人の気持ちを察するなんて高等技術さっぱり使えなさそうだから。
 僕と博君は互いに兄貴に捕まった経緯や本来の旅の目的なんて話しながら、なごやかに過ごした。寝る前に博君はポツリと言った。
「あの兄貴、悪気はないんだろうけど、人のいいサイコパスですよね」
 僕はおもいきり爆笑した。それがこの旅の唯一楽しかった瞬間だった。

 三日間お世話になりました 中田 勝


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このストーリーに関するコメント

16/05/29 泉 鳴巳

拝読致しました。
「高校生の時は、なかなか泊まりの旅は許してもらえなかった。だけど大学生になり親も国内ならって、許してくれることとなった。」
ああ、これ凄く分かります。なんだかウン年前を思い出して懐かしくなりました。
人のいいサイコパスに捕まった経験も、後から思い返せば笑い話として良い思い出になるのかも知れませんね。

16/06/02 つつい つつ

泉 鳴巳 様、感想ありがとうございます。
ひとりで自由気ままに旅出来たらと、十代くらいの時は憧れますね。
兄貴はいい人なんですが、その優しさが鬱陶しく感じる時もあるだろうなと思って書きました。

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