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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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甘夏ピールとピンチヒッター

16/05/12 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:4件 あずみの白馬 閲覧数:1716

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「先輩っ、準決勝最後のバッター三振のシーン押さえました!」
「よしっ! 上出来!」
 初夏の安曇野高校球技大会、最後の種目の野球も決勝戦を残すのみとなった。
 新聞部部長の西崎みはると副部長の白井康永、2人が気合いを入れて野球の取材をしている。

「しかし蒸し暑いわねー」
「倒れる人が出なければいいんですが」
「選手もそうだけど実況もね。炎天下だとバテやすいし」

 放送部の気合が入った実況がこの球技大会の名物だ。その時、放送部員の女子生徒がふらついたのをみはるが発見し、すぐさま駆け付け、彼女を保健室に連れて行った。
「西崎さん、白井君、すみません……」
 保健室で、放送部員がみはると康永に頭を下げた。2人は気にしないでと言う表情を見せて頭をさげる。
「しばらく安静にしてないとダメね」
 保健の先生が診断を下す。
「そ、そんな! 決勝戦も実況しないと」
「その身体じゃ無理よ!」
 その時みはるが動いた。
「私がやる!」
「西崎さんが!?」
「中学の時、私放送部だったでしょ? 私に任せて! 取材は白井君1人で大丈夫だから」
「すみません。あ、これ良かったら」
 みはるはカレンから一包みの甘夏ピールをもらった。
「ありがと、カレンさん!」
 かくして急造アナウンサーによる決勝戦実況が始まった。

「選手の熱気が空に舞う中、球技大会、野球の決勝戦が始まります! 私の手元にはカレンさんの手作り甘夏ピールがあります。口に入れると苦さと甘さがともに広がる独特の味わいは、まさに勝負の明暗を一度に感じると言ってもいいでしょう。さあ、いよいよ試合が始まります!」
 本職に負けぬ実況に場内が盛り上がり、プレイボールの声がかかる。我に返った康永は夢中でシャッターを切り始めた。

 試合は息を飲む投手戦となった。8回までともに譲らずゼロ行進。試合が動いたのは9回表、2年D組がついに1点をもぎ取ったのだ。
 あとは9回ウラだが、みはるが疲れを見せ始めている。それを見た康永が放送席に駆け寄ってスポーツドリンクを渡す。
「先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……。ありがと、康永くんもこれ食べて」
 二切れの甘夏ピールを分けて食べる。みはるは一息ついて実況を再開する。康永も取材に戻った。

 9回ウラ、3年A組は気負いすぎたのか内野ゴロを連発してあっという間にあと一人。
「9回ウラもついにツーアウト、果たして軍配はどちらに上がるの……か」
 みはるは息も絶え絶え。気合だけで実況している。
「(お願い、もって、私ののど!)」
 みはるが願ったその時だ。
「西崎さんがんばってー!」
 カレンも元気を取り戻して声援を送っている。みはるは気合を入れなおした。
「ピッチャー振りかぶって投げました。打った! セカンド弾いた! しかしショートがカバーして一塁に送球。判定は!?」

 審判の右腕が高々と上がる。
「アウト! ファインプレーで試合終了! 2年D組、優勝です!!」
 ここまで喋ったところでみはるが突っ伏しそうになるところを、カレンと康永が支えた。
「あ、ありがとう」
「こちらこそ、です」
 念のため保健室に向かうみはるが康永に指示を出す。
「予定稿が私のパソコンにあるから、球技大会の新聞作って貼っておいて!」
 康永はだまってうなづき、新聞部に向かった。

――翌日

「白井くん、これどういうこと!?」
『響く名実況・決勝戦で西崎みはる記者大活躍』
 記事はみはるの実況のことばかり書かれており、試合結果に至っては最後の一行だけだ。
「でも先輩カッコ良かったですよ」
「ああもう……、いいわ、私書きなおすから」

 そこに昨日の放送部員、カレンがやってきた。
「西崎さん、あの、昨日は本当にありがとうございました」
 手にはたくさんの甘夏とピールを持っている。
「御礼に何かと思ったんですけど、こんなのしかなくて……」
「いいのよ。御礼なんて」
「でも西崎さんにはお世話になってばっかりで」
 話を聞くと、みはるとカレンは中学の同級生、部活も放送部だったが、カレンがやむなくやっていた校則違反のバイトがバレそうになった時、みはるがそれをかぶって放送部をやめたのだ。
 その一件以来、互いに何か気まずかったのか話しにくかったらしい。
「いいのよ。それから甘夏のピール、久しぶりに食べたけど美味しかったよ。やっぱカレンちゃんの手作りが一番ね」
 それを聞いて、カレンがみはるに頼むように言った。
「みはるさん、また一緒に放送部やろうよ」
「……、せっかくだけどそれは出来ないな。新聞部は白井くんと2人だけだし」
「西崎先輩。僕一人でも……」
「は? あんな、記事。かいちゃう子に……、まかせられないじゃない」
 三者それぞれの想いが、涙になってこぼれる。その訳は、まるで甘夏ピールのように。


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このストーリーに関するコメント

16/05/12 天野ゆうり

みはる先輩、かっこいいです!!
そして、人情深い……凄いなぁ……そんな白熱した放送を、私もしたかった!!
暑い青春と、美味しい甘夏ピールが羨ましいです!!

16/05/14 あずみの白馬

> 天野ゆうり さん
ありがとうございます。
熱い放送、憧れますよね。実際は難しいだけに。
みはる先輩、私もお気に入りの子になりました。また登場させたいです。
熱い青春、私もしてみたかったです!

16/05/29 泉 鳴巳

拝読致しました。
安曇野高校新聞部シリーズ(と勝手に呼んでいます。すみません)は、
「御堂筋線・赤色の謎」もそうでしたが部員二人のキャラが立っていて、
展開もテンポが良く楽しく読めました。
二人は今後どんな事件に遭遇するのか、そして二人の関係に変化はあるのか、
想像が膨らみます。

16/05/31 あずみの白馬

>泉 鳴巳 さま
ありがとうございます。
安曇野高校新聞部シリーズは、今後も不定期に続く予定です。
二人の関係はどうなるか……、色々考えていますのでよろしくお願いします。

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