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旅に出てみませんか

16/05/11 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 窓際 閲覧数:916

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「僕と一緒に旅に出てみませんか?」

唐突な発言に彼女は目を丸くしている。

「また明日来ますその時返事を下さい」

そう言うと彼女は少し戸惑いながら笑顔で頷いた。

彼女と出会ったのは半年前のことだった。
最初の印象はあまり良いものではなかった。
彼女の僕に対する警戒心と不信感は僕に直接突き刺さるような鋭さで、僕は少し気分が悪かった。
というのも彼女は孤児院で育ち、人のぬくもりを知らない彼女はその凶暴性から人とは隔離された世界で生きることを余儀なくされていた。

そんな彼女を不憫に思ったのか院長先生が私に彼女を助けてほしいと依頼してきた。
見ず知らずの人を助けてほしいだなんて最初は意味が分からなかった。
やる気もなかったし断る気でいたが院長の出した条件に惹かれてしまった。

すぐに準備に取り掛かった。
年頃の女の子が好きそうなものや今はやりのものを徹底的に調べた。
彼女の過去や言動、将来性についてもいくつかのパターンを考えた。
負け戦なんて絶対にしない、やるからには全ての可能性を模索し、思い通りに動かしてやる。

と意気込んでいたのだが、仕事自体はとても楽なものだった。
最初の警戒心を見てそれを解くだけでも一苦労だと思っていたのだが、彼女は私が敵ではないとわかるとすぐに警戒心を解いた。
彼女にとって人とは敵か味方かでしかない。
それ以外には人という生き物について興味がないのだ。
彼女に自分は敵じゃないとアピールするだけで彼女は警戒しなくなる、それを知らない世間は彼女が敵意を向けるとそれに対抗して敵意を見せてしまう。
彼女が凶暴だといわれるのにはちゃんと理由があった。

警戒心が解けた彼女はすごく大人しい少女であった。
ずっと施設で本を読んでいて、
話しかけても一言や二言しか返してはくれない。
驚いたことに彼女の笑顔は施設にいる人さえ一度も見たことがないという。
私の目標に彼女の笑顔が追加された。

彼女と出会ってから4か月が過ぎた。
少しずつだが話す回数も多くなり、私が施設に顔を出すと挨拶をしてくれるようになった。
感情は表さないが彼女のしゃべり方で少しだけ揺れる感情がわかるようになってきた。
例えば私が自分の好きなものの話に夢中になると彼女の相槌が少し雑になる
食べ物の話、特にスイーツの話になると顔には出さず冷静なのだが声のトーンが少しだけ上がる。
笑顔こそ見ることは出来ていないが彼女が私に信頼を寄せるまでもうすこしだった。

そして5か月が過ぎたころには彼女は私に対して純粋な好意を向けてくれていた。
施設に出向くとすぐに駆け寄ってくる。
・・まあ私の持ってくる手土産に興味があるのかもしれないが
そして帰るときにはギュッと手を握り締めて帰すまいとする。
そんな彼女は愛おしかったが自分は仕事の都合上ここにいるだけなので気づかないふりをしていた。
好意ですらも仕事の道具になるとすら考えていたし、そもそも自分に好意を向けさせることが私の狙いでもあった。

私は負け戦はしない。
だが一度だけ負けた時がある、仲間に裏切られたのだ。
一回の負けは詐欺師として活動していた私には大きな負けとなった。
裁判では終身刑になり、看守を欺くため独房に移された。
そこで今回の依頼が来たのだ。
出された条件は≪存在とともに罪を消し去ること≫だった。
いろいろと今後を考えると厄介そうだったが刑務所から出られるなら何でもよかった。

いろんな国でいろんな相手をだましてきた私にとっては一人の少女の心を奪うことは容易であった。
そして何より彼女の好意が得られたことによって最終段階まで計画を進められるはずだった。
僕に信頼を置いてくれている事を利用し彼女の周りを嘘で固める。
自分に優しい世界だということを錯覚させ、その上で私がフェードアウトしていくことが最後の仕上げだった。

そして半年が過ぎて私は行動を開始しようと彼女の好意をより深くしていった。
私の言葉に一切の疑問を持たないように。
私は少しずつ周りを固める準備をしていった。
彼女のマニュアルを完璧に覚えさせ、対応も完璧に仕上げた精鋭たちを違和感のないように少しずつ周りに増やしていった。

そしていよいよ私が彼女の前から存在を消す日がやってきた。
準備は抜かりはない、彼女の周りにはもう私以外の人がたくさんいてくれる。
私の仕事は完遂したのだ。
そして彼女といつものように別れようとした・・が何も知らないはずの彼女は私の手を握りながらいきなり泣き出した。

「・・・どこにもいかないで」

彼女はそういって私の手を強く握った。
彼女の泣き顔を初めて見る。
感情を表すことのない彼女が私のために泣いてくれている。

裏切られ誰も信じなくなった私の口から出た言葉は本人の私ですらも驚きを隠せない言葉であった。




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