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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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隣室声のする、季節は春。

16/05/09 コンテスト(テーマ):第107回 時空モノガタリ文学賞 【 色彩 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:1069

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雨が降ると小学校帰りの少年少女が雨宿りと一休みに、廊下で魔法瓶の中の氷をカラコロさせている。

夕方になると時々、馬鹿盛りの中学生が自転車のまま廊下を通行していく。
「ばぁか、にけつだと、頭擦るんだって、このボロアパート」
と、
そこに住む住人への配慮など欠片もない。
そのような、人を切る刀が諸刃では、若い頃は血が足りないのだと、
わかっていてもムっとはするのだが。

このアパートの廊下は無関係者の通行が多すぎるんですよ。
門をつけてくださいよ、
そう管理人の吉倉さんに言ってみても、
私ら年寄りには、これが普通だから、変えるつもりないよ、と言ってとり合ってもらえない。

だったら出てけばいいのに、お前俺と同じ額もらってんのになんでこんなとこ住んでんの?
同期入社の風間にもそう呆れられる。
なんで出ていかないのか?

隣のお母さんと娘さんの会話が楽しいからだ。

明確なる理由だけど、
それは言いにくいので、
「ここの人はみんな、人がいいからさ」
とだけ答えた。
「まぁ、それはわかるかもしれないけどさ」
と、風間も納得してくれた。

互いの窓が閉まる冬場は聞こえてこない。
だから僕は春が待ち遠しい。

春、
窓の開く季節。
隣の押谷さん母子の声が、
聞こえ始める季節。

「色彩ってなにぃ?」
「はい?」
「し・き・さぁい」
「そこは横着しないで、さといも離しなさいな」
「し・き・さ・いー」
「国語の宿題ですか?」
「うぅん、違いますー、さっきラジオから流れた曲のタイトル、色彩のブルース」
「ふふふ、ブルースはわかるの?」
「わからんけど、順ばぁん」
「色彩かぁ、こっちおいで、おさちこさん」
「いやぁ」
「いいからおいで、取って食いやしないわよ」
「うそぉ、こないだ食べたよ」
「ふふ、こないだっていつよ、いいから」
「なぁにぃ」
「ホラ、お仕事あげます」
「空豆?」
「うん、これだけね、剥いてちょうだいね」
「えええ、エンドウ豆ならいいけど」
「同じようなものでしょ」
「だってぇ、皮ばっかりごついもん、親指痛くなるよ」
「そんな痛みに負けてたら、赤ちゃん産めないからね」
「こわぁい」
「でもね、おさちこさん、ほら、一つ目剥けたらそれよく見てみなさい」
「空豆?」
「うん、いい色じゃない?」
「うん、とってもいい緑、淡いね、やさしい緑」
「でしょう、それが色彩です」
「ふぅん」
「あ、これこれ、まだ終わってないじゃない脱走兵さん戻ってこい、命令!」
「だってぇ、もう色彩わかったもん」
「全部剥いてくれたら、ブルースも教えてあげるから」
「はぁい、もー皮の堅いお豆ねーー」
「好きなくせに」
「すきー、美味しいよね」

こんな会話が聞かれるボロのアパート。
どうにも、出ていく気にはならないね。


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