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希咲 海さん

希咲 海(きさき うみ)です。 文学ってなんぞや? を勉強しに参上しました。 皆様の胸お借りいたします! 普段はJファンタジーを中心に執筆しておりますが、こちらでは現代ドラマを中心に色々と楽しませていただきたいと思いますd∀

性別 男性
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マイウェイ

16/05/09 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 希咲 海 閲覧数:1168

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 娘がまだ小学五年生のとき、初めて連れて行った博物館でティラノサウルスの模型を見た事がきっかけだと思っている。あの時のひまわりのように明るい笑顔はあれから六年経った今でも脳裏に焼き付いていた。いつかそれを言い出すのではないか……と心の準備をしていたにも関わらず、いざそれを言われてしまうと僅かながら動揺してしまう。
「私、栃木にいきたい」
 語気を強めて言い切ったその言葉。詳しく話をきくと、昨今化石発掘で話題になっている栃木に夏休みの期間を利用して行きたいというのだ。それも『化石発掘ツアー』や『観光』などというお遊びではなく、考古学の偉い先生が発足した研究チームに参加するという。動揺して目が泳いでいるのを隠すのには丁度よかったが、新聞に目を通しているときに言うものだからおかげ様で内容は一切頭に入ってこなかった。
「だーめ」
 一度そう言ってみたものの娘はすでに研究チームに申込をしており、二次試験まで合格し参加が確定しているという。化石について勉強していることは知っているが、まさかそのような研究チームに参加できるほど力をつけていたとは驚きを隠せない。そしてなんたる行動力だろうか。子供は親の知らぬ間に成長しているものだな……と目頭が熱くなった。
 娘のやる気に気圧され、渋々「わかった」と返答する。『渋々』であることを表情に出しておくことが重要だ。なぜならば、母さんが私を鬼の形相で睨みつけているからである。きっと母さんに同じことを言ったがダメの一点張りだったのだろう。そして「父さんにきいてみな」と匙を投げたに違いない。
 その日の夜、寝室で母さんに頬を殴られた事は言うまでもないが、私が一度許可した事が覆らないことも長いつきあいでわかっているようだった。しかし、やり場のない不安や怒りを拳にこめた……というところだろう。
「可愛い子には旅をさせろというだろう?」
 一家の大黒柱の威厳というものがある。鏡台で顔面真っ白お化けになっている母さんに大人の余裕オーラを醸しだしながら低音を利かせた声で言い切った。
「参加費五〇万よ?」
「は?」
 次の日、『研究チームへの参加については断固反対!』とストライキを行ったが「お父さん嫌い」「お父さんくさい」「お父さん……」あたりで私の心が折れた。

 あっという間に旅立ちの日がやってきた。娘はあの時と同じひまわりのように明るい笑顔で「いってきます」と告げる。これほど楽しそうな娘の表情が見られたのだから、私が二十四ヶ月のお小遣い減額を受け入れたことも無駄にはならないだろう。
 娘のいない一ヶ月というものは永遠に続く地獄をマラソンしているようなものであった。その間に「母さんいいだろ?」と三度ほどお願いしてみたが『三度目の正直』とはならず『二度あることは三度ある』であったようだ。そして四度目のお願いで『仏の顔も三度まで』と鼻を殴られた事は言うまでもないだろう。ことわざというものは都合よくその場その場で用意されているものなのだなと改めて認識した。
 娘の帰りを待つがまだかまだかと落ち着かない。母さんは暢気にテレビドラマを見ながら「マツジュンがカッコイイ」などと惚けている。少し前までは『あなただけ』と言っていたのに。独りマツジュンに嫉妬していると玄関から「ただいま」という娘の声が聞こえ、主人が帰ってきた時の犬の如く出迎えに駆けた。眩しすぎて失神するほどの笑顔で「おかえり」と返すが、どこか浮かない表情の娘は私の顔を一瞥すると溜息をついて自室へと入っていった。長時間の『待て』をさせられた挙句、そのまま忘れ去られてしまったパターンである。どうしたというのだ。これでは私がお小遣いを減額されたことが無駄になってしまうではないか。
 「腹が減った」とリビングへやってきたタイミングを見計らって事情を伺うと、化石は掘れば掘るほど出てきていたようだが、今は亡き太古の生物のそれは発掘できなかったようだ。しかし、この結果は娘の闘志に火をつけたようで、次回は春休みに参加するという。娘の闘志に火をつけたのはよいが、私の投資には火がつかない。火をつける火種もないのだ。お小遣いが減額されることは避けなければならなかった。
 しかしながら意外にもその背中を押したのはマツジュンに夢中であった母さん。
「あなたのやりたいようにやりなさい──」
 なんて懐の大きい……。私は何度も感慨深く頷いていたが、二人きりになると先四十八ヶ月のお小遣い減額を言い渡された。非情である。

 その出来事から更に五年が経過し、私のお小遣い減額も一年前に終わりを迎えている。娘はこの時の偉い先生の付き人となり、世界各地を旅するようになっていた。今でも変わらないひまりのように明るい笑顔。それを見ているだけで我が家の『可愛い子には旅をさせろ』は大成功であったと考えている。


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