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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
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2人旅

16/05/09 コンテスト(テーマ):第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:849

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「メシはまだか?」ベッドに横たわったまま、顔だけ向けて幸彦が言った。
「父ちゃん、メシは10分前に食ったばかりだろ」和樹は、街中でもらった無料求人誌に顔を戻しながら言った。
「そうか、メシは食ったばかりか。父ちゃん、頭がバカになってきてるから、和樹に迷惑ばかりかけて申し訳ないな。父ちゃんなんか、早く死んだ方がいいんだ」
今年87歳を迎えた幸彦の口癖である、父ちゃんなんか、早く死んだ方がいいんだと言う言葉を聞き流しながら、和樹は受話器をとって、電話をかけた。
数分後、電話を切りため息を大きく吐いた。
「どうした、そんな大きなため息を吐いて」
「仕事の電話だよ」
「そうか。仕事決まったか?」
「決まらない」和樹はもう一度、大きくため息を吐いた。
「ため息ばかり吐いてると、幸せが逃げていくぞ」
「幸せなんて、父ちゃんも俺も微塵もないよ」
「そうか、父ちゃんが和樹の幸せをダメにしてるんだ。父ちゃんなんか、早く死んだ方がいいんだ」
「そんなこと言うなって」
夕方、いつもの時間に幸彦を車椅子に乗せて、河原沿いの土手を散歩した後、家に帰ると晩御飯の支度をした。
3年前に亡くなった母の仏壇に、白米とみそ汁を供えて手をあわせた後、それをテーブルにのせなおし、体が不自由な幸彦の口に箸で運んで食べさせた。
「美味しい魚が食べたいな」
「父ちゃん、ごめんな。金が無くて食べさせてあげれないんだ」
和樹は、箸でご飯を幸彦の口に運びながら涙が出るのを堪えた。いつもご飯とみそ汁だけの食事。美味しい物を食べさせてやりたかったが、金が無かった。市営団地の賃料は半年近く滞納が続いていて、役所から催促状が何度も届いていた。もう米びつは空になり、明日に希望が持てないような困窮状態だった。
翌日、和樹は1人で役所に向かい、生活援護課で自分の順番が来るのを待った。つい立で囲まれたブースの中には、和樹と同じような生活に困窮してそうな中年と老人が数人、順番が来るのを椅子に座って待っていた。
和樹は番号を呼ばれ、個室の部屋に入った。
椅子に座ると、40代前半の男が名刺を渡してきた。
「西部さんはなぜ今回、生活保護を申請に来られたんでしょうか?」
「生活に困窮しておりまして……」
「今はお仕事はされてますか?」
「1年前にうつ病になり会社をリストラされまして、現在はそれが原因で無職です。求人誌に載っている会社に、応募したりもしているのですが、うつ病であることを伝えるとお断りされるんです」
「そうですか。現在はお1人暮らしで?」
「痴呆を患っている父と2人で暮らしています。父の介護をしてやれるのは自分しかいないんです」
「失礼ですが現在、貯金はいくらくらいありますか?」
「貯金なんてありませんよ! もう米を買う金もないんです!」和樹は汗で濡れた手を固く握りしめ、事務的に話を進める担当者に苛立った。
「誰か手助けしてくれる身内はいないんですか?」
「いないです」
「西部さんもお分かりだと思いますが、現在、生活保護を受給する受給者が多くいまして、国の財政を悪化させているんです。私どもとしましては、西部さんはまだ57歳で働ける年齢ですので、頑張って働いてお金を稼いでもらいたいんです」
「じゃあ、いいです!」和樹は、暴言を吐いてやりたい衝動を抑え、歯を食いしばりながら役所を出た。
生活に困った人が受けられる生活保護。でも実際は厄介者のように扱う役所の担当者。和樹が生活に困窮して分かったことは、人は誰も助けてくれないということと、この国の困窮者を見る目が冷たいということだった。
帰り道、道路沿いで営業している団子屋に立ち寄った和樹は、100円のみたらし団子を1本買って、家に帰った。
「どこに行ってたんだ?」
「うん、ちょっと用があってな」
「ウンコが出たんだ」
「うん、オシメ取り換えてやるからな」
オシメを取り換えた後、先ほど買ったみたらし団子を幸彦に食べさせた。
夕方、車椅子を押して人のいない河原沿いの土手を歩いた。
「父ちゃん、2人で旅に行かないか」
「旅か。どこに行くんだ?」
「遠い遠い場所。もうこの世に帰ってくることはできないけど、母ちゃんが待っていてくれる場所に」
「そうか。じゃあ、楽しみだな」
親を殺すことが、どれ程子供にとって辛いことか、涙が止まらなかった。愛情豊かに父と母に育てられた幼少期。愛情豊かに育てられたせいで、人の道にそれる生き方は出来なかった。人を騙したり蔑んだりすることは、親の顔に泥を塗ることになる。だからそんな生き方はしてこなかった。
幸彦の丸まった背中が小さく震えていた。
和樹は、家から持参した電気コードで幸彦の首をしめ後、近くの木の枝に電気コードを結んだ。
「母ちゃん、父ちゃんと俺行くから迎えに来てな」
和樹は涙を拭って電気コードで首を吊った。



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