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河守博隆さん

性別 男性
将来の夢
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おわかれの夏みかん

16/05/08 コンテスト(テーマ):第108回 時空モノガタリ文学賞 【 甘夏 】 コメント:0件 河守博隆 閲覧数:630

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 夏みかんを食べていると、しるが目の中に入った。
「いたい!」
 そのしゅんかん、ぼくのからだに電気がはしった。そうだ、今日はこのいたずらにしよう!
 もうすぐ、おやつの時間だ。あいつが来るんだ。この夏みかんを食らわせてやるんだ。ぼくはあいつの姿をよそうして、にんまりする。びっくりするだろうな。
 でも、あいつはこない。いつもの時間にこない。なんでだろう。
 お母さんがおけしょうしている。こんな時間に。へんなの。
「たっくん、準備はできた?」
「なんの?」
「なんのって、みっちゃん、見送らないといけないでしょ」
 ちょっとまってよ、みおくるってなに?!ひっこし?!そんなのきいてない!
「変ねえ、みっちゃんから聞いてないの?話したって言っていたけど」
 外からクルマの音が聞こえた。あわてて飛びだすと、おじさんのクルマがとまっていた。お父さんとおじさんが話している。
 クルマの中にあいつがいる。見たことないきれいなワンピースを着ていた。
 あんなのちがうよ。へんだよ。いつものあいつじゃない。
 あいつがこっちを見た。ころんでけがした時よりもずっと、ぼくがいたずらしすぎて泣かした時よりもずっと、かなしそうな目だった。
 ぼくは走った。お父さんとお母さんに止められても、家にもどった。なにかしないといけない。そんな気がしたんだ。
 でも、あのクルマはすぐに行ってしまう気がした。ヒーローみたいに時間を止められたらいいのに。あいつとずっと遊んでいられるのに。
 ボクはヒーローじゃないから、時間はとまんない。2階のじぶんのへやにいく時間がない気がする。だから、ボクはテーブルにあった夏みかんをつかんだ。
 いそいでもどってくると、まだクルマはそこにあった。半分あいたマドからうでをつっこんで、あいつに夏みかんをあげた。
「これ!たべて!おいしいから!」
 きょとんとしている。しょうがないじゃないか!おまえがもっとはやく言ってたら、もっといいものをあげられたのに!
 あいつはボクの手から夏みかんをもらった。そしたら笑ったんだ。
「ありがとう」
 よかった。でも、きゅうに心がキュッとして、かなしくなってきた。でも泣いたらいけない。ヒーローが言っていたんだ。『おわかれは笑顔でしなきゃいけない」って。
 お母さんとおばさんが「あらあら」なんていって笑っている。ちょっとはずかしかった。でもいいんだ。これでいいんだ。
「じゃあねえ!」
 あいつが走っていくクルマから、手をふってくる。ボクも負けずにふりかえす。
「じゃあなあ!」
 クルマがカーブを曲がってきえちゃった。しずかになっちゃった。
 手がきいろくなっている。ごしごしとズボンでこすった。でも、においはきえない。
「えらいな」
 お父さんがアタマをなでてくれた。よくわからなかったけど、ボクはえらいらしい。
 手のにおいはずっときえなかった。でも、おふろにはいると、きえちゃった。おふろの中でクリスマスにもらったヒーローにじまんした。
「ボクはえらいんだぞ」
 でもおふろの中で、ちょっとなみだが出たのは、ボクとヒーローとのひみつだ。


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